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子規と名前と人と作品

最近、「正岡子規いいなー」と思っている。

まず高校時代に、教科書の『羅生門』の後にスクールバスを待ちながら読んだ『地獄変』や『奉教人の死』で芥川作品に痺れて以来、折に触れて読むようになった。

ちなみに学生時代のこの写真の芥川は、どんな俳優よりジャニーズの人よりも秀麗だと思う。
ツイッターなんかをやっていると、色々な「みんなの推し」の写真リツイートが流れてくる。もちろんどの人も目鼻立ちはきっと素晴らしく端正ではあるのだが、「この写真に比べれば、滲み出る知性が足りぬわ」といつも思って見ている。岡本かの子「鶴は病みき」を読んでも(芥川がモデル)いいなーと思う。

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芥川つながりで、その師匠の夏目漱石関連の本を読むようになり(一番のオススメは香日ゆら『先生と僕』シリーズ。最近よく見る文豪系漫画と違い、軽薄でなく良い)、そこから漱石の若き日の親友であった正岡子規を知った。

高校の国語の授業では、韻文自体読む機会が少なく、俳句を教える機会はほぼなかった。
ゆえに子規というと「鐘が鳴るなり法隆寺」と、「見事な坊主頭の横顔……」くらいしかイメージがなかったのだが、漱石との交流について読んでいると、多才な、かつ愉快そうな人であったことがうかがえて、とても興味を惹かれる。

長く病床にありながら、俳句を作り短歌を詠み、東大(帝大)を中退し、血を吐くくせにに従軍記者になり、人の文や句を好んで添削し、絵の具をもらったのを喜んで水彩画をせっせと描く、自由人。

それから、夏目金之助がそう名乗る以前に「漱石」の号を使っていたことも知られているが、ペンネームの豊富さもこの人の自由度を感じさせて良い。

名は常規(つねのり)、幼名は処之助(ところのすけ)、後に升(のぼる)、ベースボール好きで、野球という訳語が生まれる前に「野球(のぼーる)」と名乗ったこともあるそうな。
媒体や文章に合わせて、用いたペンネームは野暮流・地風升・獺祭書屋主人・竹ノ里人・越智処之助・浮世夢之助・有耶無耶漫士・等々多い。

結核で血を吐く自分と、真っ赤な口で鳴く姿が血を吐くように見えるホトトギス(結核の異名、漢字で「子規」)を重ね合わせて「子規」と名乗る、そんな鋭く危ういセンスにも惚れ惚れする。

ところで現代でも、ペンネームこそ自由だが、本名が一つなのはなんとも寂しいと思う。
古典や一昔前のものを読んでいると、幼名とか成人後の名とか、もっと名前というのはあっても良さそうなものだ。

少なくとも筆者は親に与えられた名前を好まないので、2つくらいは欲しかったものだと思う。
妹の場合は実際ひどい話で、父親に当たる人物が、当時惚れていた女性(妻の兄貴の妻に当たる人=つまり義理の姉。美人)の名前をまるっともらい、漢字だけ変えたのを付けたりしている。

なお、この妹は一時期本気で改名しようとしていたようだが、なんやかんやいざこざがあって諦めている。


世間には本名で作品を発表する人もいるが、そんなに自分の名前が好きなのだろうか。まあ幸せなことには違いない。

それから「作品は完成した瞬間から、作者とは切り離して考えるべき」と常々思っているから、作品と作者をごっちゃにするような議論は如何かと思う。
作者だって「後から思い出してもなぜそうなったのかわからない」作品を生み出してしまうことはある(に違いない)。
ファンだから研究だからといって(それを好む作者ならいざ知らず)、その人の身辺情報などとむやみやたらに結びつけてどうこう言うようなのは嫌いだ。

10年くらい前に二次創作小説を書いてHPで発表したり同人誌を出したりしていた時、端的なコメントなら素直に嬉しいのだが、長文の感想をもらうと妙に厭な心持ちになることがあった。
ありがたいことには違いないが、何とも名状し難い、「照れ臭い」に各種の雑菌が混ざって凝り固まって、いずれ腐臭を放つような……とでも言おうか、とにかく嬉しさとは別の次元の感情になっていくような感じを覚えたものである。

読んでもらえるのはありがたい。評価してもらえるのもありがたいし贅沢だ。
しかし長文の感想になると、いろいろと書いてくださる中でどうしても作品と作者が近接してくる、それが気色悪かったのかもしれない気もしてくる。よく覚えているわけでもないので自分でもわからんが。
 
作者は嫌いだが作品は好き、というものは多々ある。
作品はそうでもないが、妙に作者に惚れ込んでしまうというのもある。
芥川のように、作者も作品も好き、というケースはごくごく稀である。
 
ちょうど『秋本治の仕事術』(集英社)を漱石関連本の合間に読んだ。
『こち亀』はアニメも原作も「なんかうるさくて」好きではなかったが、作者は面白い。「運動不足の何が悪いのか理解できない」とか「ルーティーンを作らない主義」とか。
漫画以外のこの人の本をもっと読みたいなーと思う。

話は逸れたが、不自由な体で限りなく自由に生きた子規について、いろいろ読んでいきたいもんだと思う(正直、韻文は何が良くて何が悪いかわからないので、作品を好きになるかどうかはまた別の話)。

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