ジグソーパズルの土台とピース(夢の学び20)
前回、意識をより広く、深く、高く進化させるには、横方向の「引っ越し」ではなく縦方向の「引っ越し」が重要であるということを、高層ビルを上の階へ昇っていくイメージでご説明しました。
意識進化の高層ビルが仮に10階建てだとするなら、それは10種類の異なるジグソーパズルが層になっているようなもので、その階ごとに必要なピースを埋めて絵を完成させることで上の階に上がるイメージです。
さて、今回は、ひとつの階(パズル)にピースを埋めていく作業とはどんなものなのか、というお話しをしましょう。
ケン・ウィルバーは、意識の成長・発達(進化)の諸段階(高層ビルの各階)をトータルで眺めてみるなら、階ごとの基本構造は同じだと言っています。ひとつの階は、大きく分けると「深層構造」と「表層構造」に分けられると言います。ただし、この構造は無意識の中の構造です。意識が段階的に進化することで、つまり無意識が意識化されることで、これらの構造も同時に意識に昇ってくるのだとイメージしてください。
〇深層構造:その階全体を定義づける形式であり、その階のあらゆる潜在的可能性と限界を表している。「この階では、こんな形式の事柄を経験する」ということを規定する。
〇表層構造:深層構造のある特定の発現の仕方を表している。深層構造の形態によって規制されるが、その形態のなかではさまざまな内容を選択する自由を持つ。深層構造が規定する範囲内で、どんな具体的な内容を選択するかを決定する主体。
定義としてはこうなりますが、難しいので「ジグソーパズル」にたとえてみます。
〇深層構造:パズルの「土台」あるいは「枠組み」。ただし、パズルの完成形の絵を表す「お手本」あるいは「地図」ではない。「この階では、こんな絵(写実派? 印象派? 抽象派?)を完成させましょう」といった、ざっくりした形式や範囲を規定する。
〇表層構造:深層構造による規定に見合うパズルのピース(情動、記憶、行動とその結果、思考など)を選択し、パズルの土台に埋めていく主体。ピースを埋めるスペースがなくなり、「もうこの階で埋めるべきピースがない(もうこれ以上この階にとどまることはできない)」となったとき、ひとつ上の階への「引っ越し」が促される。
ウィルバーは、この高層ビルのすべての階の深層構造と表層構造をひっくるめた全体を「基底無意識」と呼んでいます。つまり人間の意識進化によって意識へと転換されることになる無意識の総体ということです。
不思議なもので、たとえば、写実的な絵の完成に取り組んでいる間は、印象派的な絵を見ても、抽象的な絵を見ても、絵として認められないのです。
つまり、「意識」あるいは「自己」は、目の前のある事柄(現象)のすべての側面、すべての「顔」、すべての深さや広がりが見えているわけではなく、その段階において深層構造が規定した形式を用いてのみ、その事柄を見ることになるのです。そしてもしその事柄を表層構造がその段階の経験として選びもしていなければ、意識(自己)にはその事柄が目に入りさえしないのです。
これでも難しいと思うので、具体例を示しましょう。
東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の初代会長だった森喜朗氏が、女性蔑視発言で会長を下ろされた件を思い出してください。
この事件が発覚する以前の森氏の意識レベル(どの階にいたか)は、「女性は男性よりも劣っている」という段階(深層構造)だったわけです。この段階で表層構造が選び取るパズルのピースは「女性はいかに男性よりも劣っているか」という証拠の数々です。もちろんこれは男女の性差のほんの限られた側面だけを見たときの「見え方(個人的印象)」にすぎません。いや、そもそも当時の森氏が男女の性差という観点を持っていたかどうかさえ怪しいものです。いずれにしろ森氏のそのときの意識段階(深層構造に規定された表層構造の選択)では、世界はそのようにしか見えなかったということです。森氏の年齢や社会的経験度や地位を考えるなら、極めて残念なことです。
そこで、自分の発言に集中非難を浴びた森氏は、もうその階のパズルの土台に同じ方法でピースを埋めることができなくなり、ひとつ上の階のパズルの土台を獲得する(上の階に引っ越す)しかなくなったはずです。
ただ、その後の謝罪会見で、言い訳がましいことに終始し、記者に突っ込まれて涙目になって、いじけた子供のようにさらに言い訳の上塗りをしている姿を見ると、上の階への引っ越しはまだ終わっていない印象でした。
森氏が上の階への引っ越しを首尾よく終わらせるには、今いる階の残りのピースを急いで埋める必要があります。それはたとえば、ジェンダー問題やフェミニズムについてたっぷり勉強する、ということかもしれません。
この辺で、表層構造の動き(同じ階での引っ越し)と深層構造の動き(上の階への引っ越し)の違いについてまとめておきます。
〇表層構造の動き(変換):同じ階のなかで家具を動かすようなもの。あるいはジグソーパズルの土台にピースを埋めるようなもの。小さめの弁証法的な動き。それを繰り返すことで、大きな弁証法(変容)が用意される。
〇深層構造の動き(変容):ひとつ上の階に上がる動き。家財道具一式の縦方向の引っ越し。「心の再組織化のプロセス」「意識の進化」「意識のパラダイムシフト」。極めて大がかりな弁証法的な動き。「変換」の最中にも準備されている。
つまり、同一階層内での引っ越し(変換)の最中にも、ひとつ上の階への引っ越し(変容)の面影はチラついているのだと思ってください。森氏が女性蔑視の世界観にどっぷり浸かっていたときにも、水面下でそれより上位の世界観が準備されていたはずなのです。
ここで問題なのは、森氏の教訓を活かす意味からも、どうやったら表層構造レベルの引っ越し(変換)の段階で、水面下で用意されているはずの上の階への引っ越し(変容)を察知できるか、ということでしょう。それができるなら、その階の引っ越しを省略はできないにしろ、さっさと終わらせる(さっさと残りのピースを埋める)ことはできるわけです。これもすべて無意識下で起きることなので、意識的にやるのは難しいでしょう。
そこで役に立つのは、やはり夢なのです。夢はその段階での深層構造と表層構造の両方を知っています。知ったうえで、次に埋めるべきパズルのピースを示してくれるのです。もちろん、その人が上の階へ引っ越すタイミングもわかっています。なぜそう言えるのかと言えば、夢の出所も深層構造や表層構造と同じ「基底無意識」だからです。
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