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ウクライナ問題に寄せて(その9):東西トップリーダーの発達論的分析

■プーチンもバイデンも似たり寄ったり

プーチンは、明らかにウクライナ(ゼレンスキー)の背後にいるアメリカ(バイデン)を牽制しつつウクライナ侵攻を続けている。バイデンもそれを受けて立つかたちになっている。
ウクライナはいわば西側諸国(特にアメリカ)の代理のような立場で(武器や戦費の提供を受けつつ)ロシアと闘っている。これはまさに東西冷戦の構図にほかならない。
プーチンは強引な軍事行動でそれをやっている。その結果、多くの人の命が奪われている。バイデンは直接的な軍事介入を避け、ウクライナへの援助とロシアへの経済制裁というかたちで応戦している。
この状況を続けたら、ウクライナがロシアを押し戻して(いわばこの戦争に勝利して)、停戦(終戦)という運びになるだろうか。もしロシアが勝利したらどうなるだろう。どちらが勝利するにしろ、長引けば長引くほど犠牲が増える。
結局のところ、こうした東西陣営の攻防は、戦闘をエスカレートさせるだけではないだろうか?

プーチンの行為は、グテーレス国連事務総長の言う通り、二度の世界大戦を経て、もういい加減反省して懲りているはずの21世紀の現代において、時代を逆行させるような愚行である。では、それを受けて立つ立場のバイデンの方はどうか。21世紀にふさわしい成熟した大人の知恵を示しているだろうか。私には「無策」に見える。
プーチンもバイデンも似たり寄ったりだ。
このことを、発達心理学の考え方を用いて深掘りしてみよう。

■発達心理学の基本中の基本

人は、ある一定の年齢に達すれば、肉体的な成長は止まり、それ以後は老化が始まる。
しかし、心(あるいは意識)の成長・発達は、生涯続くということがわかってきた。極端な話、「今日の私は昨日の私より大人になっている」ということが、いくつになろうと、誰の身にも起こり得るということだ。
発達心理学の立場で言うと、人間の意識発達には歴然とした「段階」がある。もっとも大雑把に分けると3段階、一般的な説では8段階、より細かく分けている説では十数段階あるとも言われている。
もっとも大雑把な3段階とは、「前自我段階」「自我段階」「超自我段階」である。
重度の精神障害などでない限り、たいていの人間が幼児期において前自我段階から自我段階へ、いわゆる「自我の芽生え」という時期を経て、すんなり移行するだろう。
もちろん、この段階で、いわゆる「幼児期トラウマ」といったものが発生すると、この段階特有の「病理」が発生したりする。一般的には、トラウマを受けた時期が早期であればあるほど、病理は深刻化しやすい。つまり、自我にある種の「齟齬」が生じる。「齟齬」とは、二つ以上の事柄が対立し、食い違い、衝突や摩擦を起こしている状態、ということだ。たとえば、多重人格障害(解離性同一性障害)などが典型的だろう。
人間の「意識」あるいは「自己」は、様々な下位人格の寄せ集めだと言われている。それらをうまく統合していくことで人格が形成されていくわけだが、その統合に失敗すると、下位人格が、「自分の一部でありながら、自分の一部とは認識されない(見知らぬ他者として経験される)」ということが起こってくる。ごく簡単に言うと、それが多重人格障害(解離性同一性障害)の、少なくとも初期症状と言っていいだろう。

実は、このような自我における「齟齬」の状態は、発達のどの段階にも起こり得る。もちろん、すでに自我が芽生え、定着し、安定した「自我段階」に達している大人にも起こり得る。たいていの人間が、程度の差こそあれ、この「齟齬」を起こしていると言っても過言ではない。
この「齟齬」が、うまく統合されない限り、意識の成長は起きない。この統合とは、簡単に言うと「他人のことだと思っていたことが、実は自分のことだった」と気づく瞬間を迎える、ということでもある。
この瞬間は、人間にとって(特に大人であればあるほど)受け入れ難い。あらゆる人間が、自分の身に降りかかる事柄をすべて他人のせいにしておきたい、という心理を持っている。それはある意味、自我を防衛するためのメカニズムであるとも言える。つまり、サバイバルの問題が絡んでいる。生命体としての生存の欲求と言ってもいいかもしれない。
したがって、「他人のことだと思っていたことが、実は自分のことだった」と気づく瞬間とは、自己の意識が、サバイバルの欲求を凌駕する瞬間でもある。言い換えると、より大きな自己意識が芽生えるために、小さな自己がいったん死んでみせる(生存不可能になる)瞬間を経験するということだ。

しかし、不思議なもので、この瞬間を迎えたからといって、小さな自己が消えてなくなるわけではない。たとえば、コペルニクス以前、人は地球の周りを太陽が回っていると信じていた。その人間が「実は太陽の周りを地球が回っていたのだ」と気づいたとしても、地球がなくなるわけではないのと同じだ。「小さな自己の死」とは、「地球こそ、宇宙のすべてだ」と思い込んでいた人が、「地球とは、宇宙全体に無数に存在する星のひとつにすぎない」と気づいた瞬間を意味する。「この自我感覚こそ、“私”という現象のすべてである」と思い込んでいた人が、「ああ、これは、もっと大きな“私”の一部にすぎなかったのだ」と気づく瞬間ということだ。小さな“私”が死ぬ瞬間を目撃することで、人はより大きな“私”へと目覚めるのである。

■アイデンティティの段階的拡大

この現象を、もう少し段階的に言い直そう。
前回の記事で、「あらゆる二元論を超えることで、人は成長する」と述べ、二元論を超えるための次のような4つのステップを示した。

ステップ1:二元性・対極性の一方だけを見る。
ステップ2:両方を見て一方を選ぶ(この段階で「シーソーゲーム」を繰り返す場合もある)。
ステップ3:両方を見て両方を同時に選ぶ(この段階で「シーソーゲーム」は終了する)。
ステップ4:両方を1つの全体へと統合する。

人生のライフサイクルで言えば、人生100年弱のサイクルの中で、一般的には安定した「自我段階」がいちばん長く続くだろう。その中でも、人は段階的に成長・発達する。

●二元論の克服ということで言えば、まず自己と世界とが未分化な状態からスタートし、自我の芽生えに伴って、まず心と体が明確に区別される。つまりこの段階に至った幼児は、「私の心」「私の体」という具合の使い分けができるようになる(ステップ1)。

●そのうち、心と体という二元論に疑問符がつくようになる。「本当の私とは、心なのだろうか、それとも体なのだろうか」といった葛藤がそれである(ステップ2)。

●この「心が私か、それとも体が私か」という葛藤に対して、「本当の私は体の方だ」という方向へ傾くなら、自分の心も他人の心も優先度が下がり、肉体的な優劣が認識の主な基準になったりするだろう。しかし、この時点で鬱などの精神病を患ったりすると、とたんにシーソーが反対の極に振れるだろう(ステップ3)。

●やがて、心と体が統合され、「心でも体でもないが、同時に心でも体でもあり、さらにそれ以上でもある新しい自分」へと目覚めていく(ステップ4)。

基本的には、あらゆる二元論がこのプロセスをたどって統合されると考えることができる。
これと同じプロセスをたどって、「家庭の中の私」→「地域の中の私」→「株式会社○○の一員としての私」→「日本人としての私」→「地球人としての私」→「宇宙人としての私」という具合に、人は自分のアイデンティティを段階的に拡大していく。「家庭の中の私」がいきなり「宇宙人としての私」に一足飛びに成長・発達はできない。人は「宇宙人としての私」へ至る途中の「景色」をイヤというほど見る必要があるのだ。

■トップリーダーのアイデンティティ・レベル

前回、上記の4ステップの応用として、一国のリーダーが「自国対敵国」という二元論を超えるための次のような4つのステップも示した。
ステップ1:自国と敵国のうち、一方(自国)だけを見る。
ステップ2:両国の都合を見たうえで、自国の都合を選ぶ。
ステップ3:両国の都合を見て、両方を同時に実現できる道を選ぶ。
ステップ4:両方を1つの全体へと統合する(一方がもう一方に併合されることを意味しない)。

ここでもし、少なくとも「地球人としての私」というところまでアイデンティティを発達させていない人が一国のリーダーになったとしたら、「自国の都合は尊重するが、他国の都合は尊重しない」という政治的態度にならざるを得ない。上記のステップ1~2の段階で留まっている、ということだ。この状態が嵩じて、「病理」にまで発展した場合、一種の過剰反応や被害妄想といった「症状」が出てくる。たとえば、自国の利益と対立する他国はすべて、自国の存在を脅かす「脅威」ということになっていく。

ごく簡単に言うと、アイデンティティ・レベルが「家庭の中の私」という段階(幼児レベル)にとどまっている限り、「隣の家」「お友達の家」は、認識の外の世界であり、あり得ない世界である。
これと同じ原理で、アイデンティティ・レベルが「○○国の私」という段階にとどまっているなら、「隣国」「自国とは異なる体制の国」は、認識の外の世界であり、あり得ない世界となる。そこから「自国にとっての脅威(つまり敵国)」が生まれるのである。

プーチンは、ウクライナに侵攻したひとつの大きな目的として、「ウクライナはナチズム国家であるから、その脅威を排除するためだ」という論理を持ってきている。ウクライナが本当にナチズム国家であるかどうか、実はプーチンにとっては、さほど問題ではない。なぜなら、その疑いだけで、自国の「脅威」とみなすには充分だからだ。つまり、プーチンにとっては、「自分の中に他国への敵愾心がある」というそのことこそが、侵攻の目的なのだ。
この点では、イラク戦争において、時のブッシュ米大統領が「イラクに大量破壊兵器がある」とあくまで言い張ったのと、意識レベルは変わらない。
一方、バイデンはどうか。演説の最中に、予定していなかったアドリブのようにして発せられた「プーチンは極悪人である。戦争犯罪人である」発言を振り返るなら、少なくとも「地球人としての私」のレベルまで意識段階が達している人は決して言わないことである。
ウクライナとロシアの停戦を心底望んでいる人の発言でもない。

■トップリーダーが超えるべきボーダーライン

下の図は、上記の4ステップを示している。これはあくまでひとつの概念モデルだ。おそらく心理学者の数だけ概念モデルがあるだろう。
このモデルは、意識成長の階層構造を示す「高層ビル」だと考えてもらってもいいだろう。

○まずご注目いただきたいのは、ステップ4が、ひとつ上の意識段階のステップ1になっている、という点である。このステップ4を経ることで、アイデンティティ・レベルが飛躍的に拡大することが、おわかりいただけるだろう。

○ステップ1からステップ3までは、いわば同一の階での成長を表す。同一階での成長が滞ったり退行したりすることにより、その階特有の「病理」が発生したりする。

○ステップ4は、階段を昇ってひとつ上の階に移ることを意味する。この段階で、弁証法的な「創発」が起きると言っても過言ではないだろう。

○ちなみに、この高層ビルの1階から2階に上がるステップ4あたりで、「前自我段階」から「自我段階」への発達があると考えることができる。

○さらに、「○○国の中の私」から「地球の中の私」という「階」に昇るステップ4の段階が「ボーダーライン」になっている点に、ご注目いただきたい。ここに、「自我段階」から「超自我段階」への発達があるだろう。このボーダーラインに、意識変革の大きな「壁」がある。この壁を超えられる人は、全人口の1%程度だとする統計もある。

私たち「地球人」は、地球を二分する勢力それぞれのリーダーとしてプーチンとバイデンを選んでしまったのだ。二人とも、「超自我段階」に達していないことは明らかだ。
「私が選んだのではない」って? ならば宇宙人が地球にやってきて、「お前たちは兄弟同士で何をやっているのか。地球のことは、地球人であるお前たちに責任があるのだ」と言われたら、あなたはどうするだろう。
いずれにしろ、あなたの運命は、あなたではない「誰か」の選択によって、大きく動かされてはいないだろうか。その運命は、誰のでもない「あなた」の運命だ。
では、この全人類的運命を変えるのは誰か?
私は、このような現状分析を書くことによって、運命を変えようとしている。それがうまくいくかどうか、やってみなければわからない。


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