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【座談会】産業医を始める前に知っておきたいことを語りあってみた

司会「本日は産業保健を始めるにあたって知っておきたいこと、というテーマで座談会をしたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。」

くるとん先生「現在は消化器内科医で三次救急病院に勤務しています。今後開業予定で、仕事の幅を増やしたかったこともあり、東京の集中講座で産業医の資格を取得しました。」

メントス先生「産業医大卒で10年ほど専属産業医をやり、そのあと精神科救急を学び直し、現在は嘱託産業医と精神科の外来をやっています。」

すたば「10年ほど救急医として働きましたが、院卒業を契機に医局を離れて産業医大の集中講義を受け、嘱託産業医を始めたばかりです。」

司会「テーマに入る前に、この座談会はAntaa企画ということで、産業医の資格の取り方や東京の集中講義についてのAntaa Slideもありますので、ぜひご興味あるかたはチェックしてみてください。」

「1社目の壁」を超えられず資格が眠ってしまうことも。まずはトライしてみよう!

司会「おそらく日医の講習を受けて認定産業医の資格を取得する人が最も多いと思うのですが、資格取得後に実際に働き始めるのは半分以下だそうです。臨床とのバランスもありますが、いわゆる『一社目の壁』が高いイメージがあるかとは思うのですが、いかがでしょうか?」

くるとん先生「どうやって嘱託先を探すのかが第一の課題ですね。医師会の紹介もあるといいますがどうなんでしょうか?」

メントス先生「医師会の案件は都心部は少なく、名簿順の順番待ちをしているところもあるようです。転職エージェントのサイトに登録して数多く面接を受けている方が多いかと思います。実は産業医大には産業医コースと臨床コースがあり、産業医コースでは卒業後すぐに専属産業医として会社に就職します。大学がある程度お世話をしてくれるので、一社目の壁というものはあまり感じませんでした。」

すたば「現実的にはやはりエージェント経由でしょうか。私もエージェントに複数登録して情報収集し、いくつか面接を受けて今の嘱託先に決まりました。エージェント経由だと面談の時に立ち会いがあったり、事前に企業の特徴を聞いておけたりするのもメリットですね。」

くるとん先生「産業医未経験の状態での採用面接も不安です。ポイントはありますか?」

メントス先生「話しやすさや企業に興味を持ってくれているからなど、不確定要素がある感じはします。このDrに来てもらえると会社の課題を解決できると、いかに企業に思わせられるかは大事なことだと思います。あと、女性特有の相談を考える企業は女性の方が採用されやすいという話を聞いたことはあります。しかし、実際どこまで差があるのかはわかりません。」

司会「社会人としてのマナーと、面接前にある程度企業のリサーチなどが必要そうですね。面接に有利な資格などはありますか?労働衛生コンサルタントなどいかがでしょうか?」

メントス先生「労働衛生コンサルタントは比較的取得しやすい資格ですし、医師会の産業医を更新する必要がなくなるメリットはありますね。他にも産業医として勉強をしたいということですと、たとえばメンタル系の法律は産業保健法学会のメンタルヘルス法務主任者になる過程で勉強ができます。ただ、資格の認知度が企業側にはないので、資格があるから採用されやすいということはないかと思います。それよりも、今までどんな企業を担当してきたか、といった方が重視されるかもしれないですね。」

すたば「産業医の活動を実際始めてみて、生まれた疑問などを解消するにはどうすればいいのでしょうか?」

メントス先生「多くの先生が嘱託産業医として始めると思うので、なかなか指導医を見つけるのは難しいかもしれませんね。産業医アドバンスト研修会(JOHTA)や産業医大が主催している首都圏プレミアムセミナー産業保健オンラインコミュニティーなどで産業医の仲間を作り、質問をするなどでしょうか。産業衛生学会の専攻医になり、指導医契約を結ぶと指導を受けられる制度もありますし、専属産業医がいる企業の支社などでは指導を受けられることもあります。」

司会「嘱託先の探し方、未経験からの採用面接、産業医仲間の探し方などが一社目の壁になりそうですが、それぞれの壁の超え方についてアドバイスをいただきました。最近ではSNSでもよい情報を収集できますし、それらをうまく活用していくとよさそうですね。」

一社目は三次産業で前任の産業医の交代案件がおすすめ

司会「産業保健にもさまざまな分野がありますが、一社目としておすすめの業界はありますか?」

メントス先生「製造業などの二次産業は健康診断やメンタルヘルス対応に加えて、安全や化学物質の管理に関する知識も必要です。そのため、若干ハードルが高いかもしれませんね。また、リスクアセスメントの考え方やマネジメントシステムの視点も求められると思います。」

司会「まずは、オフィス系やサービス業などの三次産業で経験を積んでいくのがよさそうですね。」

くるとん先生「前任者がいる企業と、前任者がおらず新規で産業医を募集している企業のどちらがよいかも気になります。」

メントス先生「基本的に一定の産業医活動がおこなわれている企業に交代案件として入る方が、ハードルは低いかと思います。何もないところですと立ち上げのノウハウが必要になりますね。また、視点がかわりますが、企業側が産業医にどこまでの機能や活動を期待しているかの期待値も大きいです。法令を最低限満たせばよいのか、健康経営的な目線で社員の健康を向上させたいのかによっても期待されるものが変わります。」

すたば「企業が求めているものを事前にエージェントに聞いたり、実際に採用面接の際に質問をしたりしてもよいかもしれませんね。」

産業保健における救急対応の事案は少ないが、メンタル対応と災害時対応は社内で確認しておく

くるんと先生「嘱託産業医ですと月1回の訪問が基本だと思いますが、限られた時間の中ですぐに答えられない質問を受けた時はどうすればよいでしょうか?」

メントス先生「基本的には緊急を要する場面はほとんどないです。後で調べて回答するでよいと思います。」

すたば「私も嘱託での時間で終わらなかったことは、宿題として次回にお答えするか、急ぐならメールで対応します、としています。メントス先生はすごく急ぐ場面に遭遇したことはありますか?」

メントス先生「メンタル不調で自殺念慮が高い、双極性障害の躁状態などは比較的緊急に対応することはあります。ですが、会社として対応できていればよいので産業医が動かないといけないというものではないかもしれません。」

すたばメンタルヘルスケアの4つのケアなどを、事前に確認しておくのがよさそうですね。」

メントス先生「その他の緊急対応というと、工場爆発や大地震を想定した災害産業保健という分野になりますが、基本的には専属産業医をターゲットにしたものかと思います。」

くるとん先生「ありがとうございます。座談会の知識を生かして早く産業医デビューしたいと思います。」

司会「今回のまとめとしては…

  • 壁があってもまずはトライしてみる

  • コミュニティやSNSを活用し、産業医仲間を作る

というところでしょうか。以上で座談会を終了します。みなさま、ありがとうございました。」

執筆:すたば@救急、産業医