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ヨーロッパの行く末を決める3人の女性

ポピュリズムにどう対処するかというジレンマを抱える(encapsulate the dilemma)重要な瞬間に
【翻訳記事】
The Economist June 1st 2024

 危険に満ちた世界で、古き良きヨーロッパは憂慮すべき事態に陥っている(finds itself in an alarming position)。ウクライナでは1945年以来大陸で最も血なまぐさい戦争が続いている(rages on)一方で、ロシアはバルチック海からサイバー空間まで脅威をもたらしている(poses menace)。もしもドナルド・トランプがホワイトハウスに返り咲けば、彼はヨーロッパの安全保障の基盤であるNATOを弱体化させる(undermine)だろう。ヨーロッパ大陸の経済は産業政策と他の地域での保護主義による影響に対して脆弱なのだ。欧州懐疑主義(Eurosceptic)のポピュリスト達はこの度の選挙において勢いづいている(are riding high)。

 このような危機(perils)に立ち向かうため、少なくとも欧州に必要なのはEUレベルでの一貫したリーダーシップだ(coherent leadership)。また、過激派を権力から遠ざけること(to keep extremist out of power)も必要だ。それが成功するかどうかは、ある意味(in part)3人の女性、―ウァズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長、ジョルジャ・メローニ伊首相、そしてマリン・ル・ペン仏ポピュリスト政党党首—の選択次第である(rests on the choices of)。

 フォン・デア・ライエン氏から始めよう。彼女は2019年からEUの執行本部(executive arm)を率いてきて、現在2期目にも立候補中だ。そして、彼女はそれに値する(She deserves one.)。彼女はよくやってきた。ウラジミール・プーチンの侵攻に対するEUの強固で集団的な対応を統率し(marshaling)、例えば共通債券を発行するという画期的なプロジェクトを推進するなどして(by pushing a ground-breaking program to issue common debt)、重要な時期における欧州統合の深化に貢献をした。冷静な頭脳を持ったこの保守派のドイツ人はまた、独仏関係がギスギスしている時にあって、欧州委員会を意思決定の最優先事項と捉えている。脅威のもとで(Given the threats,)、強固で一つにまとまったリーダーシップの必要性はかつてないほど高まっている(the need for strong, unified leadership has never been greater)。

 2期目に当選するには、まずEUの27ヶ国首脳たちのサポートが必要だ。そして、彼女は6月6~9日に選挙が開かれるEU議会―3億5千万人超えの有権者がいる―の過半数の支持を取りつけなければならない(must obtain the majority)。理論上、政治体制を形成している保守派、リベラル派、そして社会主義派のグループから彼女は支援を受けるだろう(will enjoy the backing of)。しかし、政治は既にあまりにも細片化しており(has become so fragmented)、これら3つのグループを合わせても議席の過半数をわずかに勝ち取るだろうと予想されるのみで(are collectively projected to win a slim majority of seats)、一部の議員は離反する可能性もある(may break ranks)。フォン・デア・ライエン氏は2019年に行われた最初の選挙を辛うじて勝ち抜いた(barely scraped through)。今回は、勝利は保障されていない。

 そこで、私たちはメローニ氏に辿り着く(This brings us to Ms Meloni)。2022年から首相を務める彼女が率いる極右政党「イタリアの同胞」は、野党勢力から一転、この国を運営することとなった。EU議会選挙でも好成績を収めると予想されている。その支持があれば、フォン・デア・ライエン氏はEUトップ職での2期目に向け議会の過半数を獲得する可能性は高まるだろう(could stands a better chance of winning a parliamentary majority)。彼女はこのイタリア人の機嫌を取るのに忙しい(has been busy courting the Italian)。
「ジョルジャ・メローニとはうまくやっているわ。」
 3月23日に彼女は言いきった。

 これらの言動と、イタリアの同胞を含む協定のアイディアは、リベラル派と、ドイツ与党社会民主党やエマニュエル・マクロンの政党を含む一部の権力者(establishment figures)たちを激怒させた。彼らにとって、メローニ氏は常軌を逸している(is beyond the pale)。彼女はハンガリーの有力者、ヴィクトル・オルバンのような嫌なタイプとも仲良くしている(pals with unsavoury types)。彼女は「グレート・リプレイスメント」のような人種差別的な陰謀論(conspiracy)にまで信ぴょう性を与えている(lends credence to)。彼女はEUをソ連に例えた(likened EU to the Soviet Union)。要するに(In short,)、彼女はまさしく意思決定から排除されるべき極右思想の人物なのだと、多くの人が不満を漏らしている(many grumble)。

 メローニ氏は確かに問題のある政策があり、クオリティーにも疑問が付く(has many objectionable policies and qualities)。しかしながらそれでも(Nonetheless)、原則的な問題から彼女と働く可能性を排除することは(to rule out working with her)、近視的と言える(would be myopic)。彼女の実績(track record)は政治的な放火犯(arsonist)ではない。彼女はフォン・デア・ライエン氏と共に、不法移民などの問題について共通の目的を作ってきた。2人の女性は北アフリカに共同訪問をし(have paid joint visits)、流れを食い止めるために独裁者と協定を結んできた(striking deals with autocrats to stem the flow)。右翼ポピュリストの支持者らとは違い彼女は熱心な(stalwart)ウクライナの支援者だ。彼女の党は国内では文化戦争を戦っているが、こと安全保障と経済に関して、彼女は現実主義者(a pragmatist)としてイタリアを運営してきた(has run)。彼女は政治のメインストリームから締め出されるべきではない。

 さらに言えば(What is more,)、彼女と組むことには右翼ポピュリストより穏健な派閥と過激派をわけられるという、他の良い面もある。そこでル・ペン氏が出てくる。彼女の政党、国民連合もまた、EU議会選挙にて好成績を収めると予想されている。

 ル・ペン氏は自身をメインストリームの人物として再ブランドしようとしてきたが、騙されてはいけない。彼女は長年ゼノフォビアの扇動者(firebrand)であり、ロシアのご機嫌取りをしてきた(sucking up to Russia)。彼女はヨーロッパを右派に大きく引きずり込むことのできるナショナリストの巨大なグループを作りたがっている。これを実現するため、彼女はメローニ氏と組みたがっているのだ。
 代わりに、メローニ氏を中心に誘惑する方がはるかに良いだろう(Far better to lure Ms. Meloni towards the center instead)。それは極右集団の断片化を招き(fragment)、ル・ペン氏の計画の足枷になり得る(would hobble)。既に「ドイツのための選択肢(Alternative for Germany)」はEUの有力候補者がナチ犯罪を軽視したように見えた(seemed to make light of Nazi crimes)ために、部分的に崩壊している(has partially imploded)。ル・ペン氏の権力をはく奪すること(disempowering)は、2027年の国民投票を控え彼女の党が選挙戦で優位に立っているフランスでの彼女の存在感を薄くさせる可能性もある(might diminish her appeal)。「大統領」ル・ペンの予見は不安なものがある(is unnerving)。

 EU議会選挙の結果が出た後、交渉(haggling)は数カ月に長引く(drag on)可能性があり、フォン・デア・ライエン氏のスキルを試すこととなるだろう。掛け金は高い。一つの道筋としては、EUレベルで安定したリーダーシップをもたらし、穏健派が右翼ポピュリストと理知的に戦う術を見せてくれるだろう。問題はもはや、ポピュリストをどう封じ込めるかではない。それは彼らの台頭(rise)にいかに対応するかだ。メローニ氏はカードを胸の近くにしまっている。しかし、明らかに体裁(posturing)よりも権力により関心がある人がヨーロッパの余白(margin)に身をゆだねる(consign herself)というのは奇妙だろう。

トリプル・トラブル

 もう一つの選択肢は、悲惨(disastrous)となるかもしれない。ヨーロッパ政治はあまりに細分化されてしまったせいで、フォン・デア・ライエン氏やその他のいかなる委員長の座の候補者にも、議会の多数派となれない可能性も考えられる(it is conceivable that…)。ウクライナが苦境に立たされ(is embattled)、トランプ大統領最終人の可能性が不気味に迫る中(looms)、最悪のタイミングで憲政危機(constitutional crisis)を引き起こす(spark)ことになるだろう。さらに、メローニ氏が中央政府と協力することで何も得られないと判断した場合(sees nothing to be gained from working with the center)、ル・ペン氏と協力したいと思うかもしれない(may be tempted to)。もし彼らが間違った選択をすれば、欧州の中道派はEUを不安定にし、彼らが長い間恐れてきた統一された汎大陸的極右運動を生み出すことにつながる可能性がある。それを避けるためには、メローニ氏と交渉する価値があるだろう。

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