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こころの本末転倒

私は大学で心理学を専攻していて、

それなりに真面目に勉強してきたんだけど、

「防衛機制」のテーマを学習するたび、いつもぼんやり思うことがある。


自分は自分のことが一番大事なんだ

本人にそういう実感がなかったとしても、
こころは勝手に自分を守ろうと働く。


「フラッシュバックが起きるのは、ある意味健康の証ですねえ」

学科の先生が言っていたのを思い出す。

こころは、からだがトラウマに慣れるように
フラッシュバックを起こすことで、
その体験を何度も追体験させようと働くらしい。


また、少しセンシティブな話題だが、

性被害にあった人の中には、
その体験によるトラウマからこころが壊れるのを守るために、
かえって男性を求めるようになる人もいるらしい。


(そうすることで、傷ついた性体験がたくさんの内の一つとなり、
傷が浅くなるということみたいである)



苦しみからこころを守るために

どこかで読んだ話だ。

その著者は、人間の苦しみは、実は実体がない、
妄想の産物であるというのだ。


平気で足のつくプールに浮かんでいるのに、それに気づかず、
底はずっと深いものだと勘違いしていて、
必死にジタバタ足をばたつかせている。


溺れるまいと必死に足をばたつかせていれば、
足を打ち付け怪我をするかもしれないし、体力も消耗するだろう。


それが人間の苦悩の正体だと言った。


そんなことを繰り返していれば、疲弊するのは無理もない。
どんどん余裕がなくなり、希望さえ失う。


苦悩とは、ここが底なしの海であると
ただ勘違いした自己がもたらした幻想なのだ。


大荒れの海。
いっそ沈んでしまえば、
海底は、意外にも、
やさしく
佇んでいるのかもしれません

『リップヴァンウィンクルの花嫁』 石田スイ コメント


私は、これは本当のことなんじゃないかと思った。


この世界の実像は、足のつくプールなんだ。
だからもがくのをやめて、力を抜いて、そっと浮かんでごらん。


苦しみとはなんだ(ちょっと脱線)

諸行無常(sabbe saṅkhārā aniccā)ということばがある。

一般的に知られているこの言葉の意味、


「あらゆる事象・存在は移り変わるものであり、永遠にその姿を保持するものはない」


これには少し違う解釈があるそうだ。

十二因縁において、より根源的で深層的な苦しみの原因と考えられたのは、ばらばらに分離され孤立した自己を形成する力、サンカーラです。無明ではありません。ゴータマ・ブッダはだれも気にもとめなかったサンカーラを苦しみの原因としてつきとめたのです。わたしたちの足元にありながらだれも気づかない、いわば死角に潜んでいた原因といえます。この原因をつきとめたからこそ、治療することができたのです。

羽矢辰夫『ゴータマ・ブッダ その先へ』

ゴータマ・ブッダが見つけた苦しみの原因がサンカーラ、つまり、行であり、行とは自他分離的自己形成力であり、だから苦しいのである。自他分離的自己というのは「わたし」ということばを使う一般的な我々の自己認識である。

じんぶん堂「人生はなぜ苦しいのか 羽矢辰夫『ゴータマ・ブッダ その先へ』」
https://book.asahi.com/jinbun/article/14451106

あらゆるサンカーラは無常である。

ここでは、サンカーラを「自他分離」意識であり、
苦悩の原因であると解釈している。


つまり、諸行無常ということばを

あらゆる苦悩(=自他分離)は幻想であり、それを知ることが、清浄への道

と解釈している。


やっぱり信じられない

だが、そう言って、信じられる人なんてそんなにいないんじゃないだろうか。

やっぱりそんなの、真実じゃないのかもしれない。
苦悩は実在する。恐怖も危険も、みんな実在する。


私たちはそれらから、自分自身を守っていかなくてはならないのだ。


でも、この世界が、足のつくプールだったとしても、
やっぱり底なしの海だったとしても、
これだけは事実だ。


溺れまいとするこころは、自分のことを必死で守ろうとしている。

そして、

溺れまいとする行為が、かえって自分を苦しめてしまう。
へとへとに疲弊させてしまう。


そうして疲れ果て、ボロボロになって、希望を失って、
ときには死を選んでしまう人もいるのだろう。


そんな本末転倒ってあるんだろうか…


こころはその持ち主を必死で守ろうとする。
だが、必ずしも苦しみから解放させることができるわけではない。
(その方略が正しければ、既に苦しんでなどないはずだから)


こころとは、
正直言って、できそこないだ。


だが、


こころは愛そのものだ、と思う。


心理学を勉強しながら、ぼんやり思っていたことだ。


あなたはちゃんと、あなたに愛されている…


自分からの愛なんて、そんなものいらない、ただ寂しいだけだと思うだろう。


何の役にも立たない。


何の役にも立たないどころか、あなたのために頑張りすぎて、
あなたを振り回し、へとへとにさせ、本当に困った機械だ。


こころの本末転倒。なんだか切ないな。


ありがとう、もういいよ。と言ってあげたかった。



おわり

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