中国のバイオテック事情を覗いてみた
こんにちは、ANRI 宮﨑です。
バイオスタートアップが活発な環境として、米国、特に東海岸のボストンや西海岸のベイエリアが一線を画しているのは間違いない事実だと思っています。少し前までは、人材獲得競争も激しく、そして研究開発を進めるラボスペースが殆どない、といった声も上がっていました。ボストンやベイエリアがこのような進化を遂げている一方で、「他のところではどんなことになっているのだろう?」と思い、リサーチインターンのXさんと一緒に少し調べてみたのが中国のバイオテック領域のスタートアップ環境です。取っ掛かりとして、Crunchbaseにて過去5年(2017年以降)の間に設立された企業で最も資金調達額が多かった中国のバイオテックに着目しました。
中国企業による大型の資金調達は増加傾向
Crunchbaseのデータベース上で、この5年間で設立された、$100M以上調達している会社は8社存在しており、Mabwell Biotechは$280M近くも資金調達しています。既に上場している$700Mを調達したSana Biotechnology や $493Mを調達したLyell Immunopharmaらと並んで、2020年の資金調達額でも巨大な案件として話題になりました。日本と比較すると、2021年末にソフトバンク・ビジョン・ファンドの日本1号案件であり、ANRIの投資先でもあるAculys Pharmaが累計約100億円調達した例がありますが、日本よりもはるかに多くの資金調達が行われているのが垣間見えます。
中国ローカルで活躍するVCの存在
では、誰が上記のような大型ベンチャーに投資をしているのか?というところを掘り下げてみましょう。
過去5年間で資金調達を実施した50社に投資を行った投資家の数自体は141社にのぼります。この141社の中で、2件以上のラウンドにおいてリードで投資をした会社は11社に絞られ、さらにこれらの投資家は(考えると当たり前ではありますが)、全て中国に拠点を置くVCになっています。世界のトップVCであるSequoiaも含まれますが、彼らも中国オフィスを設立し、中国ファンドとして運営しています。米国のライフサイエンス投資に活発なARCH Venture PartnersやAlta Partnersは中国にオフィスがあるわけではなく、フォロー投資の1件に留まっていました。つまり外資が出自のVCは、腰を据えてローカルプレイヤーに参画してもらうなどしない限り、中国国内でリード投資を牽引するVCとなるのは難しいということが伺えます。
Legend Capital
Qiming Venture Partners
Pivotal bio Venture Partners Chaina
Gaorong Capital
IDG Capital
Lilly Asia Ventures
LYFE CAPITAL
Sequoia
Sherpa Healthcare Partners
3E Bioventures Capital
Decheng Capital
ライフサイエンス専業のVCに加えて、オールラウンドな投資家陣も積極的に投資中
上記の11社のリード投資家は、2グループに大別することができると考えられます。
①は、バイオ・ヘルスケアを中心に投資をしているベンチャーキャピタルです。Pivotal Bioventure の$300Mをはじめ、数百M$のファンドをそれぞれが運営しています。Theraputics、Medical Device、Diagnosis等のヘルスケア周辺に特化しているファンドです。
一方で、②は、オールラウンドで投資している投資家群になっています。Sequoia Capital の中国ファンドを初めとして、Bytedance・Xiaomi・BiliBili等の投資家のQiming Venture Partners、Pinduoduo等の投資家のGaorong Capital、Baidu等のIDG Capital、日本でもAnycolorやC-channelに出資しているLegend Capitalら等、バイオ以外でも著名な投資家陣です。
例えば、先日Dimensionさんがnoteでも紹介しているLegend Capitalは、2001年からベンチャー投資を行っているLegend Holdingsのグループになります。Legend Capitalは$10Bのファンドサイズで500社以上に投資実行をし、100近いIPOを支援してきた、中国の中でも代表的なベンチャーキャピタルの1つに数えられ、ヘルスケア領域でもCRO大手のWuXi AppTecに投資をしています。
そんなLegend Capitalはこの夏、ヘルスケアの投資について次のように語っています。
以上の発言からも、中国のヘルスケア領域のイノベーションに対して、かなりポジティブに考えているのがうかがえます。
オールラウンドの投資家が、バイオ・ヘルスケア領域に染み出すのは米国でも見られる現象です。Xbiome社のようなAI/機械学習を使ったアプローチや、直近だとプロテオミクスのプラットフォームShanghai Applied Protein Technology社のラウンドをリードを率いるケースもあります。
ピュアなパイプライン創薬にも投資をする一方で、データや情報科学を活用したものに積極的に投資を実行しているように見受けられます。
Legend Capitalの代表が投資について語っていますので、関心があれば是非お読み下さい。
終わりに
今回は、直近の中国のバイオ・ヘルスケアのベンチャー投資状況を簡単に見てみました。米国VCらが中国においても積極的に投資しているという印象を勝手に持っていましたが、中国の地場のVCが活躍しているのがよくわかります。Legend Capitalなどのオールラウンドな投資家達がバイオ・ヘルスケア領域に腰を据えて取り組む一方で、ライフサイエンス専門で数百M$規模のファンドを運用する投資家が増えており、中国のエコシステムの強さが分かります。
日本の環境を見ると、我々のようにインターネットを中心に投資してきたVCもヘルスケア周辺に投資を開始していますし、レミジェス・FTIらのバイオヘルスケア専業のVCも拡大しており、(米国に対しても中国に対しても)徐々にでも増えていくと希望的に思っています。日本の起業家・日本の投資家というエコシステム全体で、未来にポジティブな印象が持てるように我々も一員として頑張っていきたいと思います。
次回以降、さらに中国について深堀りしていきたいと思います。
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