世界の脱炭素スタートアップIPO事例

こんにちは、ANRIインターンのATです。以前蓄電池に焦点を当ててお話ししましたが、今回はより広く脱炭素スタートアップ全体の話題をお届けしたいと思います。

今回は特に脱炭素スタートアップの上場(IPO)事例に注目してご紹介いたします。脱炭素投資は北米・欧州を中心に2016年頃から盛んになり、多くのユニコーンが誕生してM&Aも増えましたが、IPO事例はまだあまり多くありませんでした。IPO事例は2019年頃から徐々に増え、2021年に一気に20社ほど上場したため、このタイミングで一度総括してみたいと思います。

1. 世界の脱炭素スタートアップへの投資の概況

2016年頃から投資額が急増し10倍以上に

世界の脱炭素スタートアップの資金調達額は近年急増しており、パリ協定前の2014年に22億ドルから2021年には10倍以上となる370億ドルとなりました。背景には脱炭素ファンドの存在があり、先日三菱商事が1億ドルの出資を発表したことでも話題になったBreakthrough Energyを筆頭に、多くの脱炭素特化型ファンドが北米・ヨーロッパを中心に活発な投資活動を行っています。

出典: Global Climate Tech Venture Capital Report - Full Year 2021

脱炭素スタートアップ注目企業を総括: The Global Cleantech 100とは

The Global Cleantech 100は、「5年-10年後に最も大きなインパクトを持つと予想される、100の非上場クリーンテック(脱炭素)企業のリストです。環境エネルギー技術のコンサルタント会社であるCleantech Group社が100人近くの外部投資家や専門家と共に作成し、2009年から現在まで毎年発行されている最も権威のある脱炭素企業リストとなっています。今回はこのレポートに過去掲載されて”卒業”(= IPOまたはM&A)した企業を対象に調査しました。

The Global Cleantech 100に掲載されてIPOした28社の一覧(筆者作成)

2. 脱炭素スタートアップのIPO事例

ここ2-3年でようやく増え始めたIPO事例

The Global Cleantech 100に掲載される脱炭素スタートアップの多くはEXITまで長い年月を必要とするディープテック企業ですが、ここ数年でようやく株式市場公開(IPO)事例も出るようになりました。掲載スタートアップのうち合計28社が2017年から2021年にかけてIPOし、特に2021年はSPAC上場を利用したIPO事例が急増し18社がIPOを果たしました

著者作成

IPOまでは平均11年

IPOした28社は創業からIPOまで平均11年(中央値も11年)を要しており、一般的なVCファンドの運用期間10年を越えて長い年月を要していることがわかります。2006年から2011年頃の第一次脱炭素投資ブーム("Cleantech 1.0")では250億ドルの投資額のうち半分を失うことになったとされていますが、指摘される要因の一つがこの長いIPOまでの期間でした。研究段階の技術を実証して社会実装するのには非常に長い年月を要し、通常のファンド運用期間ではサポートしきれないという問題があったため、Breakthrough Energy等現在の脱炭素スタートアップへの投資ブーム(“Cleantech 2.0”)で活動する脱炭素特化型ファンドはその運用期間を15年や20年と長期化させています
ANRIの脱炭素特化型ファンドであるANRI GREEN 1号ファンドでも、運用期間は12年+最大3年間の延長オプションとしています。

著者作成

IPOした企業例

ChargePoint
電気自動車を手がけるTESLANIOといったスタートアップが注目を集めていますが、電気自動車の普及には充電ステーションの整備が必要です。ChargePointは既に10万を越える充電ポートを北米、カナダに配備しています

Innoviz Technologies
イスラエルのInnoviz Technologiesは自動運転用途の3Dセンサー(LiDAR)を製造しており、先日には自動車メーカーと約40億ドルの契約を締結したと発表しています日本ではデンソーやパイオニアがLiDARセンサーを開発しています

Li-Cycle
近年リチウムイオン電池に使われるリチウムやコバルト、ニッケル資源価格の高騰が続いており、先日TESLAのイーロン・マスクCEOがリチウム採掘ビジネスへの参入を示唆したことも話題になりました。カナダのLi-Cycleは高い資源回収効率を実現するプロセスを用いたリチウムイオン電池のリサイクルを通して、この課題に取り組んでいます。今年5月にはアリゾナ州での工場建設を発表しました。

Desktop Metal
MITの関係者によって創業されたDesktop Metalは金属材料の3Dプリンターを手がけており、従来技術の100倍高速に造形が可能としている独自技術を強みとしています。複雑な材料でも低コストかつ迅速に製造できるため、省エネルギー・省資源化に資するとされています。

Joby Aviation
空飛ぶタクシーとして垂直離着陸が可能な小型機(eVTOL)を開発するJoby Aviation日本のトヨタとも提携しています。同じくeVTOLを開発するドイツのLiliumも同時期にIPOしており、激しい競争を繰り広げています。交通渋滞の緩和などを通じて環境問題解決に繋がるとされていますが、電化しているとはいえ地上交通と比較すると大量のエネルギーを消費するため、本当に脱炭素に資するかは気になるポイントです。

Benson Hill
食肉サプライチェーンの環境負荷を避けるため植物性タンパク質が注目されており、日本でもハンバーガーに採用されるなど身近に感じられるようになりました。Benson Hillはいくつかある植物肉スタートアップの中でも特に大豆等の品種改良に特化しており、生物学とデータサイエンスを武器にCropOSと呼ばれる独自の品種改良プラットフォームを開発しています。

今回は脱炭素スタートアップのIPO事例についてまとめました。カーボンニュートラルの達成に向けてはまだまだ各分野で技術革新が必要で、スタートアップにかかる期待は今後ますます高まると考えています。IPO事例が増え始めたことで投資もより活性化することが予想されます。米国から3年ほど遅れてヨーロッパでも投資が活発化しユニコーンが誕生し始めましたが、日本でも脱炭素スタートアップのユニコーンが多数生まれることを期待すると同時に、その一助となれるよう頑張っていきたいと思います。

ベンチャーキャピタルANRIは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンのもと、インターネット領域をはじめ、ディープテックやライフサイエンスなど幅広いテクノロジー領域の大学発スタートアップにシード期から投資を行っております。
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【参考文献】

Climate Change, Part I: Lessons Learned from Cleantech 1.0


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