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悩める親よ、アップデートせよ『学校、行かなきゃいけないの?これからの不登校ガイド』雨宮処凛著

我が子が「学校へ行きたくない」と言ったとき、不安を感じない親はいないだろう。

小学校ほぼ不登校、中学3年生の冬休みで再びリタイヤというアドバンテージのある私でさえ、中学2年生の娘が学校を連日欠席することに不安を感じている。このままずっと行けなくなるのではないか。受験はどうなる?将来は大丈夫か?自分のことを棚に上げまくって、あっけなく狼狽えてしまう。

ただやはり私は不登校経験者なので、学校へ通うことがしんどいと感じる子がいて当たり前だと思っている。それに30年前とは違って、フリースクールなどがあったり、選択肢は増えていると聞く。

でもそうはいっても、不登校ということが子供の不利益になるのではないか。先立つのはそんな思いだ。

そんな悩める親に手を差し伸べてくれたのは、他でもない娘であった。書店で長時間本を吟味して何やら買っていると思っていたが、それが『学校、行かなきゃいけないの?これからの不登校ガイド』(雨宮処凛/河出書房新社)だ。「すごく面白いよ」と娘にお勧めされたのである。

本は、著者・雨宮処凛さんの学生時代の回想から始まる。私と年齢が近く、学生時代を過ごした時代背景はだいたい似ていると感じたが、著者が置かれていた状況は大変に過酷だ。そんな時代を生き抜いて、過酷な経験を当たり前だと思わず今を生きる若い世代のための雨宮さんの言葉は、ずしんと響く。

そして、フリースクール経営者、学校を改革させた経験のある中学校の校長先生へのインタビューへと続く。子供の気持ちを第一に考え試行錯誤してこられた大人たちの話には価値観がひっくり返りそうなほどで、励まされた。無理して学校へ行く必要なんてないし、不登校は選択肢の一つだと分かっていてもなかなか割り切れなかった私の凝り固まった頭を、このお二人の考え方は優しくほぐしてくれた。

そして、学習支援をする団体の代表、精神科医の話(この方の話が娘には一番刺さったそう)を交えながらの、今の子供が置かれている様々な環境、貧困などの問題の話は、考えさせられることばかりだ。そして本は、様々な年代の不登校経験者、現役の通信制高校生による座談会へと続く。当事者のリアルな声、その後の人生をじっくりと聞ける。同じく不登校経験者として共感することもあれば、まさにそういうことが聞きたかった!という若い現役世代の言葉は、親としても参考になった。今どきの通信制高校事情も分かって、30年前と比べて時代は進んでいるのだと驚いたし、希望を持つことができた。

ただ、学校には行けた方がいいし、不登校にはデメリットもあるという意見もこの本は併せて伝える。
引きこもった6年間を「無駄でしかなかった」と言い切るお笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世さんも登場する。そんな当事者の意見も含め、まだまだ世間での不登校への風当たりは強いし、その後の選択肢が狭まる可能性もある。ずっと家にいることも楽ではない。「だから学校へ行った方がいい」というわけではなく、子供と一緒に理解しておくことも必要だと思った。

不安にさいなまれていた私を勇気づけ、強く背中を押してくれたこの本の中でも、特に忘れられないエピソードがある。
「不登校新聞」編集長の方が糸井重里さんにインタビューした際、糸井さんに不登校を「楽しんだらいいんだよ」と言われたという座談会でのエピソードである。「楽しんだらいいんだよ」という言葉。迷える私にトドメを刺すように突き刺さり、一気に気持ちを軽くしてくれた。子供にとってもそんなことを言ってくれる大人が周りにいるって最高だ。私もそんな大人になりたいと、切に思った。

我が子が「学校へ行きたくない」と言ったときに親にできることは、「休んでいいよ」と言うこと、そして情報を集めることではないだろうか。相談できる窓口、住んでいる自治体の支援、その後の選択肢などをリサーチしておく。子供がどんな選択をしたとしても受け止めるために準備をしておくことは、親の心の安定にもつながる。そしてこの本で今どきの不登校事情を知れば、不登校に対するネガティブなイメージは少し変わるかもしれない。そうやって考え方をアップデートすることは、何より親にとって必要だと思うのだ。

『学校、行かなきゃいけないの?これからの不登校ガイド』は、私の考え方を柔軟にしてくれた、とても心強いガイドブックである。14歳向けのシリーズのようだが、親にこそ、お勧めしたい。

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