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他者と働く「わかりあえなさ」から始める組織論/宇田川元一 #自己用書籍要約

◆知識として正しいことと、実践との間には大きな隔たりがある
 既存の方法で解決できる問題……「技術的問題(Technical problem)」
 既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題……「適応課題(adaptive challenge)」


◆適応課題をいかに解くか―「対話」
 対話……新しい関係性を構築すること。自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見出すこと
 対話のプロセスは行ったり来たりする
組織とはそもそも「関係性」であるため、対話が必要
 お互いにわかりあえていないことを認めることが対話にとって不可欠
 不要な対立を避けるための行動。いかにして敵を味方にしていくか

◆人間同士の関係性
  ・私とそれ……立場や役割によって「道具」的に振る舞うことを要求する
  ・私とあなた……相手の存在が代わりが利かないものであり、相手が私であったかもしれない、と思えるような関係


◆4つのタイプの適応課題
 ➀ギャップ型
  大切にしている価値観と実際の行動にギャップが生じるケース
  Ex).女性の社会進出は重要だ(価値観)→これまでの男性にとって都合のよかった男性中心の職場が形成されていく。短期的には理にかなっているため、職場によってはそれを変えるような行動ができない

 ➁対立型
  互いのコミットメントが対立するケース
  Ex).営業部門vs法務部門 営業は短期目標の達成がミッション、法務は契約に問題がないようにすること
  どちらも「合理性の根拠」に即して正しいことがすれ違ったために問題が生じる。合理性の根拠、つまりは枠組みの違いが対立を生むのであり、これをどう解消していくのか

 ➂抑圧型
  言いにくいことを言わないケース
  Ex).既存事業にあまり先行きが無さそうだとわかったけれども、撤退できないなどという場合

 ➃回避型
  痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース
  Ex).職場でメンタル疾患を抱える人が出てきたときに、ストレス耐性のトレーニングを施す、といったケース。焼け石に水でも対策は打っているというエクスキューズになるから。

 スターバックスの変革
 上場によって株主価値の最大化が求められる中で、スターバックスを利用することで得られる独特な「スターバックス・エクスペリエンス」の低下が発生。
 Ex).背が高く、客からキッチンのバリスタの顔が見えなくなった、効率化のためのエスプレッソマシン
 Ex).効率化のために、挽いた豆を袋詰めにして店舗で開封したら、コーヒーの香りが失われた
 Ex).売上向上のために導入したホットサンドイッチは、チーズの匂いを店舗に充満させてしまった
 ➜株主というステークホルダーとの関係構築の延長で「私とそれ」の関係を顧客との間に築いてしまった

 ➜➜エスプレッソマシンをバリスタの顔がちゃんと見えるものに変更する決断
 売り上げが伸び悩んだ際に技術的に解決しようとした「回避型」であり、古くからの現場マネージャーは違和感を感じながらも言い出せない「抑圧型」、もしかしたらカスタマー・エクスペリエンスが大事だと価値観を持ちながら成長を優先し続けた「ギャップ型」であるとも言える。


◆関係性を改めるために相手ではなく、自分が変わる必要がある=ナラティブを変える
ナラティブ(narrative)……物語、その語りを生み出す「解釈の枠組み」のこと
Ex).専門性、職業倫理、組織文化など
ポイントはどちらかが正しいということではなく、それぞれの立場におけるナラティブがあるということ。視点の違いに過ぎず、各々の置かれている環境における「一般常識」のようなもの


◆溝に橋をかけるための4つのプロセス
 ➀準備「溝に気づく」
    相手と自分のナラティブに溝(適応課題)があることに気づく
 ➁観察「溝の向こうを眺める」
    相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る
 ➂解釈「溝を渡り、橋を設計する」
    溝を飛び越えて、橋が架けられそうな場所や架け方を探る
 ➃介入「溝に橋を架ける」
    実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く
 ✿ 準備「溝に気づく」 =正論は一旦、脇に置いてみる
   ➀自分から見える景色を疑う……技術的なアプローチがうまくいかないことに気づく
  ➁あたりを見回す……自分のナラティブを一度脇に置いてみる
  ➂溝があることに気づく……関係性が「適応課題」を生み出していることを認める

 ✿ 観察「溝の向こうを眺める」
   ➀相手との溝に向き合う……適応課題に取り組むことを決める
  ➁対岸の相手の振る舞いをよく見る……相手の言動を観察する
  ➂相手を取り巻く対岸の状況をよく見る……相手のナラティブを観察する

✿ 解釈「溝を渡り、橋を設計する」
   ➀溝を越え、対岸に渡る……相手のナラティブをシミュレーションする
  ➁対岸からこちらの岸をよく見る……相手のナラティブに基づいて自分がどう見えるかを眺める
  ➂橋を架けるポイントは探して設計する……「新しい関係性」を作る方法を構想する
  相手のナラティブにおいても意味があるようにするにはどうしたらよいのかを考える

  今までは「わかってない」という思いで、「説明」「説得」を繰り返しても動かないどころか、反発を強めて余計に力を割いて力を割いてくれなくなるのは、相手のナラティブを考えてないから
  接点を増やし、お互いのナラティブを相互理解、一緒の作業をする

✿ 介入「溝に橋を架ける」
   ➀橋を架ける……実際に行動を起こして、新しい関係性を築く
  ➁橋を往復して検証……新しい関係性を通して、さらに観察する
  ➂観察「溝の向こうを眺める」を繰り返す……橋を補強したり、新しい橋を架ける。さらに観察-解釈-介入をして、新しい関係性を更新する

  ➜自分は安全なところにいて相手にリスクをとらせるという、いびつな関係になっていた可能性に気づける
   また、観察のプロセスで、自分の味方になってくれる人や、アドバイスをくれる協力者、情報を提供してくれる人を見つけることができればGOOD

  介入の実行をし、具体的なフィードバックを得たとしても、その表面的な指摘だけでなく、もっと別な心配や恐れがあるのか、どちらの可能性も考えてみることが大切
  ➜過程を繰り返していくことで、相手から「何かが変わったな」と印象を持たれる
   Ex).今までよりも自分たちの声を反映してくれるようになった、

◆総論賛成、各論反対 =「ギャップ型」適応課題
 新規事業開発に反対ではないが、自分がいる既存事業は厳しい状況におかれている。
 →成功しないかもしれないのに、なんでこんなに投資して時間や人を割くのか、という問題発生
 →新規事業部に別の役割を見出す。先頭部隊として先に失敗したという情報を積極的に提供するインテリジェンス(情報機関)としての役割。
 重要なのは、必ず新しい取り組みがあること。実験としての位置付け。
 →既存事業部と新しい関係性を形成した。社内の情報機関として。


◆仕事のナラティブの中で主人公になるには
 部下や社員はなぜ育たないのだろうか?→ そもそも人が育つとは?
 その人が携わる仕事において主人公になること→主体性を発揮すること?
 →主体性を発揮してほしい=上層部のナラティブの中で都合よく能動的に動いてほしいと要求している場合がほとんど。今の職場のナラティブの中で活躍できる居場所を失っているため、「主体性がない」ように見えるだけ
 部下のナラティブに迎合する必要はないが、自身のナラティブとの溝に橋を架けていく


 ◆対話を阻む5つの罠
  ♢気づくと迎合している
  ♢相手への押しつけ
  ♢相手と馴れ合いになる
  ♢ほかの集団から孤立
  ♢結果が出ずに徒労感に支配される

  気づくと迎合している
  私たちが何を守るために、何を大切にしていくために、対話に挑んでいるのかを問い直すことによって、組織の中で誇り高く生きることができる=孤独だが、孤立してはならない
何のための頑張っている? 私たちは何者なのか?
信頼できる仲間と対話に取り組む。
信頼できる仲間が現れるのを待つのではなく、自分が他者に信頼されるように働きかける
自分の行動があって信頼が芽生えるのであり、信頼があって私たちが行動するのではない

相手への押しつけ
権力は対話を妨げる。関係性が変わってしまうから
立場が上であればなおさら、ともに働く他者と「新しい関係性」を更新し続け、「連帯」しつつ、良い仕事を成していくことにコミットする

相手と馴れ合いになる
橋が架かった相手との間に強い結束ができる一方で、その結果としてかえってこの関係性を大切にしたいという思いが発生=「抑圧型」の適応課題が生じる
違和感を表明することを恐れない。向き合うべき問題に向き合えていない、排除される人が出ていたり、それを変えていくための行動を起こす。孤独を恐れずに、しかし孤立しないように

ほかの集団から孤立
「いい取り組みだけど、ノリについていけない」冷ややかな言葉を陰に言われるようになる
チームの内側であってもナラティブの溝が生じる可能性がある
1973年に米国社会学者マーク・S・グラノヴェターの『strength of weak ties』(弱い紐帯の強さ)という論文では、価値ある情報の伝達やイノベーションの伝播においては、家族や親友、同じ職場の仲間などの強いネットワーク(強い紐帯)よりも、軽い知り合いや知人の知人のような弱いネットワーク(弱い紐帯)が重要であると発表。
しかし、それは強い繋がりを持っているからこそ、弱い紐帯が大きな意味を持つ。
あくまでも自分たちの固定化された価値観や枠組みをもっと広い人々と連帯していくための可能性を探るものとして新たな繋がりに向き合う

結果が出ずに徒労感に支配される
「疲れたときには休んでください。大丈夫、適応課題はあなたが何もしなければなくなりませんから」。もしかしたら、休むことで適応課題が解消するかも?
相手との間に橋を架けようと躍起になるあまり、自分と自分自身の間に橋がなくなっている状態かもしれない→ 「私はこれだけ努力しているのになぜあの人はわからないのか」「面倒だからもう相手の言うとおりにしておこう」という考えに支配されてしまうリスク
職場の内外に「相棒」を見つける


◆自分を助けるということ
 対話の実践は、自分を助けることになる
 なぜ、私たちは仕事に生きがいが感じられない? なぜ自死したくなるのか……
 ➜私たちの生きるナラティブが、私たちを主人公でなくさせている。そのナラティブとは?

「メタファー」と「組織」が大きく関連している
メタファー(隠喩)……私たちの理解を作り出す言葉の結びつきの働き
 Ex).「人生につまづいた」 人生の中で直面した苦しみの経験を「道」のメタファーで語っている
 「道」だからつまづく。また、人生を「旅」の一場面と認識している。
 
物事表現する際に、慣れ親しんだ概念と結び付けて語ることによって、わかりやすく表現している
 こうした言葉の結びつきをメタファーと呼ぶ
 イギリスの組織論研究者・ガレス・モーガン『Image of organization』は、組織は「機械のように感情を持たず、正確に機能することを美徳とする。また、環境適応を通じて生存を図る「有機体」であって、意思決定する「頭脳」とそれに従う「何か」というイメージで捉えられていたりすると、いう

私たち働く一人ひとりは組織を構成する部分であり、中心的な存在ではない
上記が組織の支配的なメタファーに共通している
無意識のうちに私たちはこのメタファーで言葉を交わし、自分を主人公で無くしていっている
 言い表すことができないが、うまく言い尽くせない違和感=新たなナラティブを構築する手がかり
 なぜなら、既存の私たちの枠組み、生きるナラティブの外側に何かがあると意味しているから

◆ナラティブ・アプローチ
 「語り」としてのナラティブに着目して、対話的な実践を行うことを主としている様々な研究のこと


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