【更新】日本製鉄がトヨタ・宝山鋼鉄を提訴提起した特許は?-Google Patentsで訴訟関連特許を調べる-
「知財情報を組織の力に🄬」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。
【2021/10/16更新】昨晩の安高史朗の知財解説チャンネルで今回の訴訟の特許番号が公開されていました(ソースは鉄鋼新聞)。特許番号は特許第5447167号で、特に過去訴訟に使われていません。以下の記事はあくまでも訴訟関連特許を特定する方法として参考にしていただければと思います(そのうち本特許にもLitigation情報が付加されると思います)。
昨年noteで
という記事を投稿してから約1年。日本製鉄が電磁鋼板に関する特許で、トヨタ自動車および宝山鋼鉄股份有限公司(2016年に武漢鋼鉄集団と合併して、宝武鋼鉄集団)を提訴しました(一番上は日本製鉄のプレスリリース)。
日本製鉄が、具体的にどの特許を基にトヨタ・宝山鋼鉄を提訴したのかは明らかにされていませんが、今回はGoogle Patentsを使って訴訟関連特許の調べ方について解説します。
東京地方裁判所へ提訴したのは10月14日なので、まだデータベースに反映されていません。そのため、今回はあくまでも、Google Patentsを使ってどのように調べるのか、その調べ方についての解説になります。
1. Google Patentsで日本製鉄の電磁鋼板関連特許を調べる
まずはGoogle PatentsのAdvanced Search画面にいきます(トップページ下にあるAdvanced Searchをクリックします)。
今回、
日鉄が特許権の侵害を主張しているのは、宝山鋼鉄が生産する「無方向性電磁鋼板」。モーターの消費電力や出力などの性能を左右する高品質の鋼材で、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)などに使われている。(出所:読売新聞)
ということなので、無方向性 電磁鋼板 電気自動車 ハイブリッド車といったキーワードを入力していきます。
左下にあるAssignee(権利者)に日本製鉄(網羅的に検索したい場合は日本製鉄の旧社名である新日鐵住金、新日本製鐵も含めます)を入力することで、日本製鉄の無方向性電磁鋼板関連特許に限定することができます。
この時点で149件に絞り込まれました。
2. 訴訟関連特許に絞り込む
ここから訴訟に用いられている特許に絞り込みます。
Google Patentsはグローバル訴訟データベースのDarts-IP(現在クラリベイトアナリティクス傘下)のデータを収録しています。収録、といっても訴訟の有無だけで、訴訟の詳細について確認したい場合はDarts-IPと契約する必要があります。
訴訟に関連している特許に限定するためには、左下にあるLitigationのプルダウンメニューから[Has Related Litigation]を選択します。
そうすると、先ほど149件だったヒット件数が、3件に絞り込まれました。
一番上の特許の発明の名称をクリックしてみると、
のようになっており、2年前の2019年9月5日に訴訟が提起されていることが分かります。よって、この3件は電磁鋼板関連の特許訴訟で利用されているのですが、今回のトヨタ・宝山鋼鉄の特許訴訟に使われている特許であるか否かは現時点では分かりません。
3. 3件の訴訟関連特許のクレームは?
上記3件が今回のトヨタ・宝山鋼鉄を提訴した特許ではないかもしれないのですが、一応特許請求の範囲(クレーム)を見ておこうと思います。
JPWO2019017426A1/JP6478004B1
化学組成が、質量%で、
C :0.0015%〜0.0040%、
Si:3.5%〜4.5%、
Al:0.65%以下、
Mn:0.2%〜2.0%、
Sn:0%〜0.20%、
Sb:0%〜0.20%、
P :0.005%〜0.150%、
S :0.0001%〜0.0030%、
Ti:0.0030%以下、
Nb:0.0050%以下、
Zr:0.0030%以下、
Mo:0.030%以下、
V :0.0030%以下、
N :0.0010%〜0.0030%、
O :0.0010%〜0.0500%、
Cu:0.10%未満、
Ni:0.50%未満、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
製品板厚が、0.10mm〜0.30mmであり、
平均結晶粒径が、10μm〜40μmであり、
鉄損W10/800が、50W/Kg以下であり、
引張強度が、580MPa〜700MPaであり、
降伏比が、0.82以上である、
無方向性電磁鋼板。
ゴリゴリのパラメータ特許ですね。これって侵害を立証するのが結構大変なんじゃないでしょうか。。。
JP6604120B2
質量%で、
0.1≦Si≦3.5、
0.1≦Mn≦1.5、
Al≦2.5、
Cr≦1.0、
Sn≦0.2、
C≦0.003、
N≦0.003、
S≦0.003、
残部がFe、及びその他不可避不純物からなる無方向性電磁鋼板であって、
当該無方向性電磁鋼板の板厚中心層の、0≦φ1≦90°、0≦φ2≦90°、0≦ψ≦90°で定義される方位分布関数(ODF)のBunge表示において、
φ2=45°断面において、ψ=55°である方位の最高強度が3以下かつ1以上であり、
φ2=0°断面におけるψ=0°である方位において、強度が2以上であるφ1の角度領域が60°以上90°以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
こちらも組成+強度パラメータの特許です。
JP6593097B2
質量%で、C:0.004%以下、Si:2.0%以上4.0%以下、Al:2.0%以下、Mn:0.05%以上4.0%以下、S:0.005%以下、N:0.004%以下、P:0.20%以下、Sn:0.005%以上0.2%以下、Sb:0.005%以上0.2%以下、Cu:0.02%以上2.0%以下、Ni:0.02%以上1.0%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる化学組成を有する母鋼板を有し、前記母鋼板表面におけるCu、Ni、Sn、およびSbの濃度が、下記式(1)を満足することを特徴とする無方向性電磁鋼板。
([Cu]+[Ni])/([Sn]+[Sb])>1.0 (1)
(ここで、式中の[X]は質量%で表した母鋼板表面における元素Xの濃度を示す。)
ことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
最後もパラメータ特許でした。
何度も繰り返しになって恐縮ですが、この3件は電磁鋼板関連の特許訴訟で利用されているのですが、今回のトヨタ・宝山鋼鉄の特許訴訟に使われている特許であるか否かは現時点では分かりません。
あくまでも別の特許訴訟で使われている特許になります。しかし、日本製鉄が訴訟で用いるということは、仮にパラメータ特許であっても侵害を立証できる方法があるということなのだろうと推測します。
今後の訴訟の推移を見守っていきたいと思います。