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特許情報を活用した新規参入を見極める2つのパターン:ジェネリック・模倣戦略、創造的模倣戦略

本記事は技術情報協会「“後発で勝つ”ための研究開発・知財戦略の立て方、進め方」(2020年9月)に寄稿した論考です。原題は「特許マップ・パテントマップを活用した新規参入の見極め方」となります。

本記事を通じて、新規事業開発、新規参入を検討する上で、ぜひとも特許情報を活用する考え方・分析方法について習得していただければ幸いです。

はじめに

本節では後発で勝つための市場の情報分析と新規参入可能性の検討を行うにあたって、特許情報分析およびそのアウトプットである特許マップ・パテントマップを活用して、どのように既存市場に新規参入するか、その考え方と分析事例について紹介する。

1. 後発企業の新規参入における特許情報の活用

1.1 IPランドスケープ-経営戦略・事業戦略策定へ特許情報を活用する

最初に、知財情報(中でもとりわけ特許情報)を自社の新規事業開発をはじめとした経営戦略および各種事業戦略に活用していこうというIPランドスケープについて触れておきたい。2017年4月に特許庁から発表された知財人材スキル標準(version 2.0)1)において、戦略レベルのスキルとして

A) IPランドスケープ
B) 知財ポートフォリオマネジメント
C) オープン&クローズ戦略
D) 組織デザイン

の4つが定義された。IPランドスケープでは「新規事業の創出」、「既存事業の維持/成長」、「既存事業の縮小/撤退」といった全社的な課題に対して、知財情報だけではなくマーケット情報なども加味して複合的に分析を行い、自社・競合他社のポジショニングおよび市場の現在・将来動向について可視化して、経営層や事業部門へ戦略提言を行うものである2)-3)。特許情報を新規事業開発やアライアンス候補先の抽出等に活用しようという動き自体は新しいものではなく、数十年前から国内外の企業において取り組まれてきている4)-5)。

しかし、2000年代に入りGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)やBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)等に代表される中韓台企業の台頭、人工知能やIoT、5Gなどを巡る知的財産の重要性の高まりを受けて、知的財産を経営資源として重視し6)-8)、知財情報をより積極的に戦略策定に活用していこうとする動きが高まっている。

1.2 特許情報の特徴と後発企業の新規参入戦略パターン

特許情報は特許権という権利情報であると同時に、技術のトレンドを把握するための技術情報という側面も持つ。後発企業が既存市場へ参入する際には、この特許情報の持つ2面性に着目して、参入戦略を検討する必要がある。各製品・サービス市場において、先行するパイオニア企業(以下、先発企業)が必ずしも成功を収めているわけではない。スティーヴン・P. シュナースらの書籍9)-11)でも言及されているように、新たな製品・サービスやビジネスモデル等のイノベーションを起こすイノベータ(innovator)でなく、また単なるモノマネをするイミテータ(imitator)でもなく、創造的に模倣するイモベータ(imovator)を目指すことも1つの戦略である。先発企業との差別化ポイントを探すだけではなく、創造的模倣戦略を検討する上でも特許情報は有用な情報源となる。なお、マーケットにおけるリーダー企業が、チャレンジャー企業の仕掛ける差別化戦略と同じ戦略を採用することを同質化戦略(Homogenization Strategy)と呼ぶが、リーダー企業が必ずしも先発企業であるとは限らないため、同質化戦略も創造的模倣戦略の1つとして捉えることができる。

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図1 特許情報を活用した後発企業の参入戦略

上記を踏まえて、図1に特許情報を活用した後発企業の参入戦略について示す(このチャートに示した後発企業の参入戦略は著者が現時点で想定しているもので、これ以外の参入戦略もありうる)。後発企業が取りうる戦略として先発企業の特許権切れを見据えた製品・サービスの模倣戦略か、創造的模倣戦略の2つに大別される。創造的模倣戦略はさらにすき間戦略、異業種ベンチマーク、ビジネスモデルの変更の3つに分けることができる。

以下ではそれぞれの新規参入戦略についての特許情報分析・活用の考え方や事例を述べていく。

2. 特許情報を活用した製品・サービスの模倣戦略による新規参入

2.1 製品・サービスの模倣戦略による後発企業の新規参入

本項では後発企業の新規参入として、まず製品・サービスの模倣戦略について述べる。製品・サービスの模倣戦略としてはジェネリック製品がある。この戦略においては権利が消滅した特許を公知技術として利用する。先発企業が築いた市場の、特に製品ライフサイクル成熟期・衰退期において、公知技術の基本性能・機能のみに特化した製品を開発・市場投入する。

2.2 ジェネリック製品・サービス

先行するパイオニア企業の権利が切れた特許を活用したジェネリック製品・サービスの例として、以下ではジェネリック医薬品やジェネリック家電の事例を紹介する。

2.2.1 ジェネリック医薬品の例

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図2 ジェネリック医薬品の例:ヒルドイドフォーム0.3%とヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「日医工」

ジェネリック医薬品の事例を図2に示す。これは皮膚保湿剤の先発企業マルホのヒルドイドフォームの特許第4336905号が権利期間満了(出願から20年)で2017年12月で切れたのを受けて、後発企業である日医工が2019年12月にヘパリン類似物質外用泡状スプレー0.3%「日医工」を市場投入する例である。他の業界と異なり、医薬品業界は1製品に対応する特許の数が少ないため、製品に対応する特許(特許群)を特定し、その特許権が失効する時期に向けて研究開発を進めることができる。図2の例ではヒルドイドフォーム関連特許として特許第4336905号のみを掲載しているが、先発企業が基本物質特許以外に製法や製剤、用途特許などを出願して、後発企業の参入を可能な限り遅らせようとする場合もあるので、周辺特許・関連特許も含めてピックアップしておく必要がある。

2.2.2 ジェネリック家電の例

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図3 主要ジェネリック家電4社の特許・実用新案件数推移

図3に主要ジェネリック家電メーカー4社(アイリスオーヤマ、ツインバード工業、山善、小泉成器)の特許・実用新案件数推移を示す(2018-2019年出願分はまだすべてが公開されていないので未確定値)。同じジェネリック家電メーカーといってもアイリスオーヤマやツインバード工業は毎年コンスタントに出願を行っており、特にアイリスオーヤマは家電事業に本格参入した2012年の翌年、2013年から2015年にかけて年100件以上の出願を行っている(2013年に関西の大手電機メーカー出身の技術者を採用するために大阪R&Dセンターを設立14))。次に図1に各社の特許・実用新案出願技術分野を示す。

表1 主要ジェネリック家電4社の特許・実用新案出願技術分野

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アイリスオーヤマはエアコン・加湿器といった季節家電から照明、調理器具など幅広い製品カテゴリーへ特許出願を行っている。一方、主要ジェネリック家電の一角である山善や小泉成器はほとんど特許・実用新案を出願していない。しかしながら、株式会社山善は2019年1月に以下のように第6回『ジェネリック家電製品大賞』受賞している。

表2 株式会社山善の第6回『ジェネリック家電製品大賞』受賞製品15)

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これは山善や小泉成器は既に特許・実用新案の権利が切れている基本性能のみに特化しているためである。このように既に権利が消滅した技術を利用して、コモディティ化した分野において、デザイン性を持たせて低価格の製品を市場投入して参入する戦略もある(直近20年間で、山善は累積212件、小泉成器は97件の意匠出願を行っており、特許・実用新案で技術面での権利確保ではなく、意匠でデザイン面の権利確保を狙っている。また参考として、アイリスオーヤマは1,950件、ツインバード工業は434件の意匠出願を行っている)。

2.3 製品・サービスの模倣戦略における特許情報分析

製品・サービスの模倣戦略を採用する際の特許情報分析のステップとしては、以下のようになる。

1) 参入する製品およびその性能・機能を洗い出す
2) 関連する先行文献調査を実施し、性能・機能別に整理
3) 各特許・実用新案の権利状況調査から、何年に権利が消滅するか確認する

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図4 製品・サービスの模倣戦略の際の特許情報分析とアウトプット例

アウトプット例としては図4のようになる。この例では参入予定の性能・機能Aに関するABC社・DEF社の登録特許は最長でも2019年に権利が消滅するため、DEF社の権利消滅を念頭に製品化を進めればよい。しかし性能・機能BやCのように公開段階や審査中の特許がある場合は、定期的に権利状況を確認して、何年に性能・機能BやCが利用可能となるかを確認しなければならない。

3. 特許情報を活用した創造的模倣戦略による新規参入

3.1 創造的模倣戦略による後発企業の新規参入

前項では製品・サービスの模倣戦略による後発企業の新規参入について述べたが、本項では単純な模倣に頼らない創造的模倣戦略による後発企業の新規参入について述べていく。創造的模倣戦略には「すき間戦略」、「異業種ベンチマーク」、「ビジネスモデルの変更」の3つの種類がある。先発企業と一線を画した製品・サービス開発をするのではなく、特許出願状況も含めて先発企業の取り組みを参考にしつつ、創造的に模倣することで新規参入を図ることを創造的模倣戦略と呼んでいる。

なお、久保16)は以下のような市場において後発企業効果(後発企業が先発企業を逆転ないしはそれに準ずるキャッチアップを実現した現象で,発展途上国の経済発展に影響を及ぼす効果)が高い市場であると述べている。幅広い業種の製品にわたっており、後発企業だからといって必ずしも不利であるとは言えないことをご理解いただけるだろう。

表3 後発企業効果の可能性が高い市場16)

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3.2 すき間戦略による後発企業の新規参入

先発企業の製品・サービスに関する特許出願網を分析し、その特許網の穴=先発企業の弱みを探し出して後発参入するのがすき間戦略である。すき間戦略における特許情報分析では、従来からあるパテントマップのマトリックスマップ(バブルチャートで表現しても良い)が活用できる。

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図5 すき間戦略の際の特許情報分析とアウトプット例

後発参入する際に、このようなマトリックスマップを作成する上で重要となるのは縦軸・横軸の軸の設定である。軸は課題や技術、用途、材料・組成、パラメータなど様々なパターンが考えられるが、最も重要なポイントはIPC・FIやFタームなどの特許分類ではなく、独自の軸を設定することにある。このようなパテントマップを作成する際に、特にFタームは課題・目的や技術など様々な切り口で設定されているので便利ではあるが、後発企業が先発企業のすき間を狙って参入する際には十分ではないケースが多い。そのため、パテントマップを作成する前に、先発企業が用いている技術や材料以外に別の技術や材料を用いることができる可能性はないか?など軸のアイデア出しのディスカッションを行ってから、パテントマップ作成に着手すると良い。

3.3 異業種ベンチマークによる後発企業の新規参入

ベンチマークとは、本来は測量時に利用する水準点のことを意味するが、経営の場面においては優れた手法や取り組みを持つ競合他社のことを指し、ベンチマーキングとはそのような競合他社を分析するプロセスを示す。ある業種において後発企業として参入する際、同業種の先発企業をベンチマークするのは適切ではないため、異業種における企業の取り組みをベンチマーキングして参考にする。

ここでは花王がヘルシア緑茶によって緑茶市場に後発参入した事例を、異業種ベンチマークの例として取り上げる。特に、花王がベンチマークした(正確に表現するとベンチマークというよりも参考にした)のは既存事業の日用品・トイレタリーにおける競合他社であるP&Gやユニ・チャームの特許戦略である。日用品・トイレタリーにおいて、特におむつ市場は特許出願の内容が複雑であり、各社パラメータ特許なども交えながら特許網を構築して、他社排除を狙っている。花王は、このおむつ市場における特許戦略を、緑茶業界に持ち込み、ヘルシア緑茶で緑茶市場において新たな製品カテゴリーを打ち立てることに成功した。

3.3.1 花王のヘルシア緑茶に見る後発参入戦略の分析事例

花王は2000年よりヘルシア緑茶の開発に着手し、2003年に販売開始している。まずは当時の緑茶関連日本特許・実用新案件数推移を確認する(母集団としては緑茶飲料の出願だけではなく、茶の製造装置なども含まれる)。

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図6 緑茶関連日本特許・実用新案件数推移

花王が開発に着手した2000年は、出願件数が増加しているが、これは寺田製作所やカワサキ機工などの荒茶加工設備、茶葉収穫機、茶園管理機械などの茶製造装置関連メーカーが多数の出願を行っていたことに起因している。そのため、この期間の花王を含めた主要飲料メーカーの出願件数推移を確認すると、以下のようになる。

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図7 花王および主要飲料メーカーの緑茶関連日本特許・実用新案件数推移

花王がヘルシア緑茶の開発に着手する前は、サッポロや福寿園、伊藤園などがまとまった件数を出願していた。しかし、2001年以降、花王が開発の成果を集中的に特許出願し始めると、既存の主要飲料メーカーとは出願規模が異なっていることが分かる。1991年から2017年の累積件数でも、2位の伊藤園の2倍以上の出願規模となっている。

もともと飲料メーカーではなかった花王が緑茶市場に注目した背景としては、以下が挙げられる18)-21)。

・ ヘルシア緑茶開発前から、栄養代謝や肥満の研究に取り組み、健康市場に向けた商品開発にチャレンジしていた
・ 体に蓄積される脂肪が低減することを特徴としたエコナ クッキングオイル(特定保健用食品)を販売していた
・ カテキンについて研究していた(2000年以前は飲料ではなく化粧品への展開を検討していた)

また、1991年の平成3年7月「栄養改善法施行規則の一部を改正する省令」によって特定保健用食品制度が導入されたこと、1998年より特定健康診査・特定保健指導(メタボ検診)が始まり、世の中で健康への注目が集まっていたことが背景にあると言える。

図8に示すように緑茶関連出願に占める栄養・ダイエットを目的とした特許・実用新案も1991年には5%程度であったものが、1990年代の半ばにかけて20%近くまで上昇しており、世の中の健康への注目が特許・実用新案のトレンドにも現れている。

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図8 栄養・ダイエットを目的とした緑茶関連出願件数推移(Fターム:4B027FC06、4B117LC04、4B117LC05により絞り込み)

それでは後発企業の花王がヘルシア緑茶で緑茶市場に新規参入して、なぜ既存の飲料メーカーが後追いで参入できなかったのか?それは花王の特許出願戦略にある。花王のヘルシア緑茶関連特許を見ると、特許請求の範囲に

[(B)/(A)]
[(C)/(B)]
[(B)/(A)]
(A)/(B)
(A)+(B)

のように重量比のパラメータを規定した出願が多いことが分かる。出願例として以下のようなものがある。

特許第3329799号
【発明の名称】容器詰飲料
【請求項1】 次の非重合体成分(A)及び(B):
(A)非エピ体カテキン類
(B)エピ体カテキン類のカテキン類を溶解して含有し、それらの含有重量が容器詰めされた飲料500mL当り、
(イ)(A)+(B)=460~2500mg
(ロ)(A)=160~2250mg
(ハ)(A)/(B)=0.67~5.67であり、pHが3~7である容器詰飲料。

このようなパラメータが含まれる特許・実用新案の件数分布を見てみると図9のようになり、花王が2001年から2003年にかけて集中的にパラメータ特許出願を行っていることが分かる。

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図9 花王および主要飲料メーカーの緑茶×パラメータ関連日本特許・実用新案件数推移

このパラメータ特許によって張り巡らされた特許網によって、他社がヘルシア緑茶の特徴である高濃度茶カテキン配合の緑茶飲料へ参入できなかった。その証左として、サントリーの辻村氏(当時 常務執行役員 R&D企画部長 生産部・知的財産部担当)22)は、

-洋酒やソフトドリンクを中心とした食品の販売が中心の業界は「基本的にイノベーションを起こしにくい」。製品ライフサイクルが非常に短く、日々新製品開発に奔走しなくてはならないため、「他の産業と比べて食品業界は飲料の原材料についていちいち特許取得するという風潮は少なかった」という。
-サントリーもこの市場に参入すべくリサーチをかけたところ、いわゆる「パラメータ特許」によって製品原材料の配合などを含む製品製法にかかわる特許がすべて取得されている状況だったという。これが障壁となり、市場参入を断念せざるを得なかったのだ。一方の花王は、機能性飲料として付加価値が高く、製品単価も高く販売できる強いブランドを獲得、食品業界での地位を確立したといえる。
-「こうした知財への取り組み方は、飲料を中心とする食品業界ではあまり行われてこなかった。異業界から参入してきた花王が持つ知財ノウハウを知ったことは非常にインパクトがあった」

と述べている。このパラメータ特許を用いた特許戦略は、花王が日用品・トイレタリー業界において培ってきたものであり、異業種から飲料業界に新たな戦略を持ち込んだと言えるだろう。

なお、本項で紹介した花王のヘルシア緑茶の事例は、特許情報分析・パテントマップから後発企業が新規参入するエリアを特定するというよりも、むしろ後発企業でありながらいかに特許戦略によって先発企業の参入を防いだかという点で参考にしていただきたい。

3.4 ビジネスモデルの変更による後発企業の新規参入

ビジネスモデルの変更による後発企業の新規参入とは、製品のモノ売りビジネスからアフターサービス等のコト売りへシフトさせることを言う23),24)。有名な例としてはコマツのKOMTRAX(ITC建機)25)やGEのインダストリアルインターネット26)がある。

特許第4741114号
【発明の名称】機械のメンテナンスシステム、メンテナンス方法、およびこの方法をコンピュータに実行させるためのプログラム
【要約】
【課題】建設機械の故障の兆候を、実際に故障が発生する前に未然に検知することができ、保守作業者が効率的にユーザを巡回して十分なメンテナンス対応を行うことができるメンテナンスシステムの提供。
【解決手段】機械のメンテナンスシステムは、機械1、2の位置情報を取得する位置情報取得手段24と、機械1、2の構成部の状態をセンサで検出して得られるセンサ情報を取得するセンサ情報取得手段25と、燃料の巡回補給時に得られた機械1、2の目視点検情報を取得する目視点検情報取得手段26と、取得されたセンサ情報および目視点検情報に基づいて、機械1、2の保守緊急性を判定する保守緊急性判定手段28と、機械1、2の位置情報と、機械1、2の保守緊急性とに基づいて、機械1、2の保守作業者の保守巡回計画を作成する保守巡回計画作成手段29とを備えている。

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図10 コマツのKOMTRAX関連特許

このようなビジネスに注目が集まる背景としては、あらゆる製品・サービスのコモディティ化とIoTの進展がある。従来は建機やガスタービンエンジンのモノ売りで利益を稼いでいたが、モノ売りだけでは継続的な利益創出が見込めないため、アフターサービスまで含めて顧客を囲い込んで、製品ライフサイクルのトータルで顧客との接点を持ち利益を継続的に稼ぐビジネスへシフトしている。また、これを実現する手段がIoT(Internet of Things:モノのインターネット)である)。IoTだけではなく、AI・人工知能やブロックチェーンなど各種デジタル技術によって、旧来のビジネス構造を刷新する動きが激しい。最近民泊のAirbnbや、ライドシェアのUber、Didi(滴滴出行)に代表されるシェアリングエコノミーもその一例である。

ビジネスモデル変更による後発参入を検討する上で、現在の業界・業種へIoTやAI・ブロックチェーン、AR・VRなどの技術を適用した場合にどのような新たなビジネスチャンスが創出できるかをまず検討し、そのアイデアについて特許情報で検証する流れが好ましいだろう。

おわりに

本節では、特許情報を活用した後発企業の新規参入戦略について、製品・サービスの模倣戦略および創造的模倣戦略に類型化して述べた。著者自身、まだ特許情報の活用方法や分析手法について十分には体系化できていないが、多少なりとも参考になれば幸いである。

参考文献

1) 日本国特許庁、知財人材スキル標準(version 2.0)、2017年4月
2) 小林誠、知財戦略とIPランドスケープ、IPジャーナル、Vol.3、2017年12月
3) 乾智彦、IP ランドスケープの基礎と現状、パテント、Vol.71、No.9、2018年8月
4) 野崎篤志、特許情報をめぐる最新のトレンド─人工知能、IPランドスケープおよび特許検索データベースの進化─、Japio YEAR BOOK 2018、p60-67
5) 野崎篤志、IPランドスケープの底流-情報分析を組織に定着させるために、IPジャーナル、Vol.9、2019年6月
6) 丸島儀一、知的財産戦略、ダイヤモンド社、2011年10月
7) 鮫島正洋・小林誠、知財戦略のススメ コモディティ化する時代に競争優位を築く、日経BP、2016年2月
8) 久慈直登、経営戦略としての知財、CCCメディアハウス、2019年4月
9) スティーヴン・P. シュナース、創造的模倣戦略-先発ブランドを超えた後発者たち、有斐閣、1996年9月
10) オーデッド・シェンカー、コピーキャット-模倣者こそがイノベーションを起こす、東洋経済新報社、2013年2月
11) 井上達彦、模倣の経営学、日本経済新聞出版社、2015年6月
12) マルホ株式会社ウェブサイト ヒルドイド https://www.maruho.co.jp/medical/hirudoid/foam_about.html
13) 日医工株式会社ウェブサイト 新製品情報 https://www.nichiiko.co.jp/medicine/new_medicine/archive/201912.php
14) アイリスオーヤマ株式会社、アイリス物語 第三十話 立ち上がれ家電戦士。大阪R&Dセンターの設立、https://www.irisohyama.co.jp/story/30.html
15) 株式会社山善、第6回『ジェネリック家電製品大賞』受賞!、2019年1月29日
16) 久保文克、後発企業効果をめぐる経営史的考察、商学論纂(中央大学)、第57巻、第5・6号、2016年3月
17) 日本国特許庁、戦略的な知的財産管理に向けて-技術経営力を高めるために<知財戦略事例集>、2007年4月
18) 花王株式会社、ヘルシア、https://www.kao.co.jp/healthya/
19) ウィキペディア ヘルシア、https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%98%E3%83%AB%E3%82%B7%E3%82%A2
20) J-Net21、あの人気商品はこうして開発された!「ヘルシア緑茶」-体脂肪を減らす飲料づくりをめざす、2010年12月8日、http://j-net21.smrj.go.jp/develop/foods/entry/2010120801.html
21) 早稲田大学商学部 井上達彦ゼミナール 2 期生、花王の新商品開発~ヒット商品を生み出す舞台裏~、2005年1月、http://www.waseda.jp/sem-inoue/050117kao.pdf
22) MONOist、モノづくり最前線レポート(16):「動的」知財マネジメントが円盤型市場を切り開く、2010年01月27日、https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1001/27/news100_2.html
23) 日本知的財産協会 マネジメント第2委員会第2 小委員会、「モノ」から「コト」へ変化する競争源泉における知財マネジメントの研究、知財管理、65巻、8号、p1058、2015年
24) 日本知的財産協会 マネジメント第2委員会第2 小委員会、続・「モノ」から「コト」へ変化する競争源泉における知財マネジメントの研究、知財管理、66巻、11号、p1438、2016年
25) 小松製作所、KOMTRAX、http://www.komatsu-kenki.co.jp/service/product/komtrax/
26) GE、Industrial Internet、https://www.ge.com/europe/industrial-internet

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