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知的財産推進計画2021-知財ガバナンスの視点から

「知財情報を組織の力に🄬」をモットーに活動している知財情報コンサルタントの野崎です。

もう2か月前になってしまいましたが、2021年7月13日付で「知的財産推進計画2021」が発表されました。サブタイトルは「コロナ後のデジタル・グリーン競争を勝ち抜く無形資産強化戦略」です。

この推進計画のⅢ章「知財戦略の重点7施策」で掲げられているのが、

1.競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化
2.優位な市場拡大に向けた標準の戦略的な活用の推進
3.21 世紀の最重要知財となったデータの活用促進に向けた環境整備
4.デジタル時代に適合したコンテンツ戦略
5.スタートアップ・中小企業/農業分野の知財活用強化
6.知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化
7.クールジャパン戦略の再構築

の7つです。

現在、知財ガバナンス研究会にアドバイザーとして参画させていただいているので、「1.競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化」にフォーカスして紹介したいと思います。

まず、現状と課題として、

日本では諸外国に比べ、依然として無形資産投資に比べて有形資産投資のウ
ェイトが高く、日本の企業価値に占める無形資産の割合は、欧米に比べて格段に低い状況にある。また、研究開発投資について見ても、いわゆる GAFA による投資規模と比較すると、日本の大企業の投資規模は大きく見劣りする状況であり、日本の産業部門の研究開発投資効率は、低迷している状況である。

と述べられています。この日本の無形資産投資が海外よりも割合が低いというときに毎回見るのが、Ocean Tomoの以下のグラフです。

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GAFAのようなIT・ソフトウェア系企業と、ものづくりが強い日本企業について一概に無形資産比率を比較するというのは良くないと思いつつも、モノづくりからコトづくりへの転換が叫ばれていますので、いくらものづくりが強い日本企業であっても無形資産比率が低いというのはやはり課題であろうと思います。

S&Pには様々な業界・業種が含まれていると思うのですが、S&Pは「ニューヨーク証券取引所、NYSE MKT、NASDAQに上場している企業の中から代表的な500社を選出」されて算出しているもので、都度銘柄が変わります。当然GAFAなどが含まれていますが、個人的にはS&Pではなく業界・業種ごとの日本・海外の代表的な企業をピックアップして、無形資産比率を見た方が良いのではないかと考えています(以前投稿した「業界・業種による特許価値の違いと”知的財産・知的資産”価値評価の試案-2021年7月知財ガバナンス研究会」も参照)

上記を受けて、

このため、企業がどのような知財投資・活用戦略を構築しているかについて、より一層の見える化をすすめ、こうした企業の戦略が株式市場を通じて投資家から適切に評価され、より優れた知財投資・活用戦略を構築している企業の価値が向上し、更なる知財への投資に向けた資金の獲得につながるような仕組みを構築することが重要である。

と知財投資・活用戦略の見える化の重要性を説いています。そして、

このためには、まず企業が知財の投資・活用戦略を積極的に開示・発信し、投資家や金融機関が評価・分析できる環境を整備することが必要である。2021 年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいては、上場会社は、知財への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきであることに加え、取締役会が、知財への投資の重要性に鑑み、経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきであることが盛り込まれることとされている。

コーポレートガバナンス・コード改定へと話が進んできます。それでは見える化といっても、どう見える化すれば良いのか?といえば

ここで重要な点は、開示・発信されるべき内容は、保有している知財の単純なリストなどではなく、その企業が、どのような社会的価値創出を行おうとしているのか、そのためにどのような知財を活用して、どのようなビジネスモデルで価値提供とマネタイズを実現することを目指すのかという戦略的意思の表明である。開示・発信内容は将来キャッシュフローをイメージさせるものでなくてはならない。その上で、現有の知財を何のために活用するのか、不足する知財をどのように獲得していくのかを明らかにすることが重要である。

とあり、単純な保有特許リストなどではなく、その特許が自社事業にどのように活用されているのか?競争優位性構築に寄与しているのか?を開示する必要があるということになります。

ということで、

こうした企業による知財投資・活用戦略の開示・発信を促すためには、企業がそれぞれの知財投資・活用戦略をどのような形で開示・発信すれば、投資家や金融機関から適切に評価されるかについて分かりやすく示すことが有効である。無形資産投資については、経済産業省が公表している「価値協創ガイダンス」において、価値創造ストーリーの中に位置づけられるべきことが記載されているが、これに沿った形で、特に、知財投資・活用戦略の開示・発信の在り方について、深堀をした形でガイドライン等として示すことが必要である。

のようにガイドラインを提示することになりました。このガイドライン策定を担っているのが、2021年8月6日からスタートした知財投資・活用戦略の有効な開示及び ガバナンスに関する検討会です。

既に本記事執筆時点で2回の検討会が開催され、資料などもアップされているので、ぜひとも詳細をご確認いただければと思います。本noteでも後日、この検討会の資料をベースに記事をまとめたいと思います。

コーポレートガバナンス・コード改定で一番気になるのは知的財産への投資についてどのような情報発信・開示を行えばよいかという点かと思います。この点については、私の予測・推測などを私見を交えて紹介していきたいと思います。

ただし、推進計画には、

なお、知財投資・活用戦略の開示・発信は、企業にとって競争力の維持の観点から秘匿すべき機微情報まで開示・発信すべきではないことに留意すべきである。

とあるように、なんでも開示しろと言っているわけではありません。当たり前ですが。

現時点の私の考えとしては、

対象:取締役会/機関投資家
内容:定性情報/定量情報

の区分で2×2のマトリックスで発信する情報を整理するのが良いと考えています。

詳細はまた追って本noteで公開していこうと思います。

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