アイの歌声を聴かせてはお前をメキシコの荒野からすくいだす

 11月3日、おれは所用で土日映画館にいけなかったので祝日の水曜日に行った。そこで前から気にかけていた「アイの歌声を聴かせて」を見にいったのだ。

 この映画はミュージカル映画だと聞いていた。気にはしていたが、ミュージカルとかしゃらくさそう、俺はそう思っていた。だが上映が始まり10分か15分したところで俺の斜めに構えた姿勢はピンと背筋が伸び、AIロボ詩音が起こすトラブルに、歌に、踊りに、笑いに、全てに目が離せなくなり、ただ映画の世界に没頭し、物語が作り出すうねりに身を任せ気づけば映画が終わっていた。映画が終わったのに高揚感はなくならず、この高まった気持ちを半年ぶりのリングフィットアドベンチャーにぶつけ、次の日見事筋肉痛を発症したのだった。
 面白い映画は今年もたくさんあった。シャンチーに、ゴジラvsコングに、ワイルドスピードとおれの心をタプタプになるまで満たした。だが見終わった後も激しく続く高揚感は今年はこれ以外になかった。
 きっとこの映画は歴史に残る希代の名作となろう。おれはそう思っていたのだが一つ気になることがあった。観客が少なかったのだ。たまたま人が少ない時間を引いたのだろうと思ったのだが、どうも本当に人が少ないらしい。今週の映画館の予定を見るとかなり上映回数が減っていた。
 「アイの歌声を聴かせて」をこのまま知る人ぞ知る名作にしてはならない。この映画はおれの心のメキシコの荒野をいやし、リングフィットアドベンチャーを再びプレイするように向かわせるほどのパワーがあるのだ。俺がNOTEに感想を書くことにより少しでも観客が少ない状況から救いだしたい。
 ネタバレするつもりはないが序盤や予告で見れる範囲について話す。ちなみにこのPVあんまり出来が良くないと感じるので予告だけ見て興味が持てないと判断するのは早計である。


あらすじ
 自動運転バス、農業ロボ、お掃除ロボと様々な最新機器が街中にあふれる実験都市に、AIの研究者の母と二人で暮らす高校生サトミ。母のスケジュール表をコッソリ見ると極秘で高校生に模したロボがバレずに高校生活を送れるかテストがあった。
 極秘テストのロボ・シオンはサトミのクラスに転校してくるが、シオンは自己紹介中に突然サトミに幸せかどうか元気に聞く。
 とある事件をきっかけに学校で孤立していたサトミはシオンとの出会いにより大きく変わっていくのだった。

 この映画の良い所は一歩先の未来を描きながらも謎端末やホログラフのような過剰な未来感を出さないところや、変に物語を捻らない素直さなどあるが一番気に入ったのは空気感やテンポ感だ。
 おれはキャラがはずかしいことをするシーンが苦手だ。シオンはポンコツAIと公式に紹介されてるように変なこと、恥ずかしいことをするキャラの塊である。だがシオンが変なことをしても、その空気を流してくれるキャラがいたり、テンポよく話を繋げることで変なシーンを長く引っ張らないで、歌に繋げて問題を解決したりと空気のコントロールが巧みだ。変な雰囲気をひきづらないことで、シオンの人を幸せにする無邪気さだけをたっぷり吸うことが出来、キャラの魅力的な部分を最大限味わえる。
 ミュージカル映画と言われるようにシオンはよく歌うが、インド映画の謎空間で歌や踊りをするのではなく、彼女の持つ機能をフル活用して歌と演出がなされる。突拍子もないようで、この世界で出来ることをしているという現実さ、そしてそんなことも出来るのかとびっくり要素もありただ歌うだけじゃ終わらない楽しさがある。
 テンポよく進む物語と歌が前半の展開であり、次々と仲間たちの抱える悩みを解決していき爽快さが抜群である。前半最後の歌の演出は、シオンの歌の元ネタは何かを分かったうえで聞けるので物語的にも、メタ的にも、演出的にも身に染みる。
 後半に関しては、予告での不穏な空気からわかるように捕らわれたシオンを助けに行く話になる。前半の爽快さを考えるとかなりベタな展開と感じるが、王道ゆえの強さがあり、物語の核心にせまる部分である。なぜ極秘プロジェクトのAIがポンコツなのか、なぜサトミを幸せにしようとするのか、予告のセリフに出てくる秘密についてすべてがわかる。全てを解き明かし物語はクライマックスへと向かうので一度動き出したら、そのまま物語の波に乗って最後までのれる。

 感想は以上だ。悪い所については特に書かなかったが、わるいおじさんが紋切り型の面白みもない悪いおじさんだったりとそういう点はある。だがシオンの無邪気さと圧倒的テンポの良さから繰り出される歌と演出たちはマイナス点を塗りつぶすに十分であり、おれはフィルマークスで最高評価の星5をつけた。余計なこと考えず最高得点をつけたい、そう思わせるだけのパワーがこの作品にはあるのだ。おれはこの作品がこのままメキシコの荒野に散り忘れられるのはあまりにも惜しいとおもっている。この作品は渇きをいやす作品だ、今渇いてる者たちよ、今こそアイの歌声を聴き、潤いを取り戻すのだ。

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