第4話 タイムスリップを知る女-03

「まぁとにかく、私は服を売ってるのね。」
「ほおほお。おまんも商人なんじゃな。」
「でね、その、内容から先に言うと、私の元カレを探してほしいんだよね…。」女は喋り方こそギャルらしい軽々しさを残していたが、顔には笑みはなかった。
「モトカレ…?それもおまんが売っておる服か?」
「いや、元カレ!前の彼氏!婚約者だったの!」カレ、彼氏という単語は理解できなかったが、こぼれ落ちた婚約者という単語に反応した。
「ん、婚約者とはつまり?」
「結婚の約束して付き合ってた男子、って言えばわかるっしょ?」
「ほお、許嫁か!ええ男を引っ張ってきたらええんかの!?」
「違う違う!イケメンを紹介してくれるのは嬉しいけど!」
「それやったら、中岡慎太郎はどうかの?
あいつぁ気前も良うて、まっことええ男やき!」
「誰それ?ロッチの中岡?知ってるの?つかイケメンじゃないしw」
「ろっち?いいや、陸援隊の中岡じゃ。」もちろん女が中岡慎太郎を知っているはずもなかった。余談だがこのとき、中岡慎太郎が既婚者であることを龍馬は失念していた。


リカは、高校を卒業してすぐに109でアルバイトとして働き始めた。母のような仕事に憧れがあったらしい。しばらくして社員になった頃、女は突如として少女マンガのような設定で、運命的な出会いを果たす。
出勤のテンションを上げるためのSuper Girlを聴きながら、リカが自転車で渋谷を大滑走していたところ、曲がり角で白のSUVと衝突した。
リカはその接触でまぁまぁな擦り傷を負っていたがアドレナリンと怒りに任せて立ち上がり、車のドアを鬼の形相で叩き散らした。そこから忍びなく降りてきたのは、韓流アーティストを思わせる若い男。
女は一瞬にして心を射抜かれた。男は謝罪とともに金銭を渡してきたが、女はそれを断り、LINEとインスタグラムのアカウントを聞くだけ聞いて全てを許した。恋とは実に罪深き病である、としか言いようがない事態だった。
女はこのチャンスを逃がすまいと謝罪と賠償を名目に、二人で食事をすることを強固に要求した。運命の赤い糸を綱引きの如く手繰り寄せ、男と結ばれる為にあらゆる女の武器を行使した。結果、女は男と結ばれることになった。


二人は付き合って三ヶ月もしないうちに同棲を始め、互いの親族とも交流を深め、結婚は秒読みまで歩を進めた。はずだった。
ある冬の雪の日、リカが仕事から帰ると暗い部屋の机にぽつり、一枚の手紙があった。それは男からの一方的な別れを告げるものだった。
そこには一切明確な理由は書かれておらず、女は困惑と失意のうちに泣き崩れた。今から約三年前のことである。しかし、リカにとっては昨日のことのように思い出せる記憶。彼女はまだ、それを払拭できずにいた。

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