第19話 ミッドナイトコーラ-02

「ミッドナイトコーラだぁぁ!」一人の男が上げた声が、辺りを騒然とさせた。過激派気鋭アーティスト集団ミッドナイトコーラが、ネオンサインと着物と宇宙服をぐちゃぐちゃにミックスした様な奇抜な衣装に身を包み、昨今の近未来アミューズメント施設に常設してありそうなセグウェイを操作していた。近づく群衆をビビービビーと電子音で威嚇し、爆音で淋しい熱帯魚 Showa Groove Mixを流しながら、歩くほどの速度で突き進んでくる。それは着実にステージのほうへ向かっていた。
スタッフが「乗り物は乗り入れ禁止です!」と制止しているらしかったが、突き進むセグウェイは戦車のそれだった。セグウェイに備え付けられた無数のクラッカーがパンパンパン!!と発射されるたび、観客からはギャーだのワーだのという先ほどの静寂が嘘のような歓声が飛んだ。メインエリアの中央付近まで来ると、三人は戦隊物のヒーローが如くセグウェイを飛び降り、にじり寄るようにステージに向かってきた。


亜由美を含めその大半が、初めてその姿をはっきりと目にする者たちだった。3人が纏うド派手で奇抜な衣装は毎日変わると噂になるほど、二度と同じデザインにはお目にかかれない。
一人は黒人かというほど焼けた肌を露わにしたSFチックなサングラスの角刈り。おもちゃのパラソルだらけの装飾を揺らして歩いてくる。
もう一人は対照的に白い肌で2m強はあろうかというほどの大柄。ピンクの髪を背中までなびかせ、ゴールドの口紅を煌びやかせている。
そしてもう一人は、小太りでド派手な大きなリュックを背負い、銀髪をトカサのように突っ立てたモヒカン。年齢、性別、国籍、素顔、全てが不詳。それがまた大きな謎と興味を抱かせていた。


その威圧感と迫力に負け、人々はぞろぞろと道を開けていく。そしてステージまでの花道をモデルのように、可憐かつ軽快に三人は歩いていった。歓声が鳴り止まない中、ピンク髪が歩みを止めて一人の男に目をやった。衣川である。「あ、いや…その…話すと色々と長いんだが、アロリゲンチンは彼女が。」リカを指さしたが、リカは素早く首を横に
振って、海保を指さした。「あ、そっか。私が持ってた。」ピンク髪はゆらりと海保に近づくと、海保はすんなりとコップを渡した。
「ちょ、ちょっと、渡していいの?」
「いや、オーラに負けた…。」
3人はコップを受け取ると、揃ってステージに上がってきた。そしてリーダーと思われるピンク髪がコップを天に高らかに掲げると、うぉぉぉ!!という凄まじい歓声と共に皆がコップを天に掲げた。
乾杯だと思った人々は口々に「かんぱーーい!」「ミッドナイトコーラ最高!!」と声をあげて酒を飲み始めた。

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