第17話 いつだってドラマチックスタンダード-03

ゴツゴツ、という鈍い足音と「あ、おい!」というスタッフの静止の声が聞こえ、龍馬たちはステージの袖に目をやった。パチパチパチ…
歓声と音楽が、一瞬時が止まったように、乾いた拍手だけがそこには響いたように思えた。目がチカつくほどの衣装、怯むほどのガタイの良さ、金銀の装飾に超ド派手で奇抜なメイク。まるでレディガガを模して造られたオブジェと人間を足して2で割ったような存在、エルサルバドルだった。
「おお、エルサルバドルか!おまんも来とったがか?!」
「おめでとう、おめでとう、おめでとう。素晴らしい演劇だったわ。まるでシェイクスピア。いいえ、オペラ座の怪人。他になにかあったかしら?ともかく、素晴らしい舞台でした。」
エルサルバドルはフフフと笑みをこぼしつつ、乾いた拍手を続けた。その威容で迫力な雰囲気に龍馬はおろか、誰も口を挟めそうになかった。
「皆さん、盛り上がっているかしら?」ざわめく観衆に対して声をかける。
「この素晴らしき最高のトゥルーマンショーにご来場いただいて、誠にありがとう。でも、もうお開きよ…」


ざわめく観衆の中にいる亜由美は、エルサルバドルの姿にデジャヴを覚えていた。
「ねぇ、あの人どこかで…?」
「あれ??兄貴だ。」海保の素っ頓狂なつぶやきに亜由美は飛び上がった。「えっ?!!ええええ!!」
「兄貴だよ、あれ。ケンユウ。うちの兄貴、かなりの女装癖あるから。」
慌てふためく亜由美とは対照的に海保は至って落ち着いていた。
「いや…女装癖っていうか、ん?!え!?どういうこと!?」
亜由美の脳は追い付いていない。
ナイスミドルでイケメンその物な、これでもかというくらいにスーツの似合うあのケンユウが…あの阿部寛が…、ステージ上のレディガガオブジェの怪人と、同一人物…??さっきスーツ姿のケンユウに会ったはずじゃ…ケンユウはスーツで亜由美たちの前に現れたあと、どうやら普段着に着替えたらしかった。

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