最終話 Good Luck, Good Vibes.-01

「龍馬ちゃん…。」
「どうやら、催眠やら暗示やらが解けるようじゃ。意識が薄くなってきとるぜよ。」
「そんな…。」
「悲しむことではないき。やっと、ワシの時代に戻れるんじゃ…。」
龍馬は決して過去へ戻るわけではない。意識ごと彼方に消滅するのだ。リカにもそれは理解できたが、あえて口にするほど野暮ではなかった。
「リカにはまっこと世話になったぜよ。」
「ううん、こちらこそだよ…!何もしてあげられなくて…ごめんね。」
「何を言うがじゃ。こうしてワシの時代に帰れるのは、リカのおかげじゃ。」
「くれぐれも幸せにな…ワシは過去の日本から、応援しとるき。」
「龍馬ちゃん…!」リカは大粒の涙をこぼしながら龍馬の手を握った。
「そろそろ、グッバイ、じゃ…。」ガクっと倒れこむ龍馬をリカとリョウマが支えた。動かなくなった龍馬、いや司を見て、リカは再び涙をボロボロ
こぼした。


ほどなくして司が目を覚ました。
「こ、ここは…?」
「舞台袖です。」リョウマの言葉に、全てを悟った司はウンともスンともいわず、遠くを見た。そこには正にオブジェとなったエルサルバドルが神々しく反り立っている。二人に軽い礼を言ってから、その場をよろよろと去っていく。リカたちは追うことはできなかった。亜由美は一部始終を写真に収めた
ものの今まだかつてない内容量に、記事にするのは一苦労だと心の中で腕まくりをした。そこで肝心の坂本龍馬にインタビューができていないことに気が付き、龍馬が消えていった舞台袖付近に足を進めた。海保に声をかけようと思ったが、どこにもいない。気が付けば近くにいた衣川も消えていた。あの二人も幻だったのでは、と奇怪なことを考える
ほど、頭の整理がついていないようだった。ほどなくして、ふらふらと会場を後にしようとする龍馬、いや、司を見つけた。


「司さん。」声を掛けた亜由美を一目見て、司は「ああ、あなたか…」
と小さな声で呟いた。「よかったですね。坂本龍馬を見つけることができて…」その声に亜由美は返事ができなかった。
「笑ってしまいますよ…僕が坂本龍馬を演じていて、あの人の思う通りに踊らされていたなんてな。ポジティブにいえば、問題が解決したことを喜ぶべきでしょうが、まだ僕は整理ができていない…どうか記事にして嘲笑ってください。哀れな落ちぶれスタントマン、ドラッグクイーン妖術師に踊らされ、喜劇を演じる、とね。」

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