第18話 恋する乙女-01

「ど、どうしたんじゃ?エルサルバドル。」
騒然とする観客と舞台上の人々を代表するように、龍馬が問いかけた。エルサルバドルはヘラヘラと笑みを浮かべながら、ぼそっと何かを言った。
誰にも聞こえないような声で、龍馬をはじめとした辺りの人間は疑問の表情を浮かべる。するとエルサルバドルはすーっと息を吸う素振りを見せた。
「もう少しだったのにぃぃぃぃぃ!!」しばらくの沈黙が会場を包んだ。マイクも通していないその声は、イベント中、IKIBAの厨房にも届くほど突き刺さる発狂だった。


「もう少しとは…なにがぜよ??」
「ふふ…説明してあげましょう。みーんなの前で…」
「どういうことですか、先生…これ。」
「リョウマ、こいつと知り合いなの?」
「ああ…まぁ…。よく当たる占い師だって、知り合いに紹介してもらったんだ。だから、このドラマのヒットも占ってもらって…」
「人間って馬鹿よねぇ。」エルサルバドルはゴツゴツとヒールを鳴らしてステージをゆっくり練り歩いた「よく当たる占いって。占いなんて、その人の感じ方次第。明日悪いことがあるといわれて、次の日何かあったら、その人は勝手に占いが当たったと勘違いする。勝手にそう思ってるだけなのよ。所詮占いなんて、そんなもの。占いで未来を予知することも変えることもできない…。でもねぇ、私は、貴方のために未来を変えてやろうとしたのよ!わかる!?」まるでリョウマに穴が開くほど、エルサルバドルは力強く指を刺した。
「ぜーーーんぶ!全て、貴方のためだったのに…」
「どういうこと…ですか?」リョウマは力なくそう口にするしかなかった。


エルサルバドルは初めてリョウマを見て、恋をした。一目惚れとは、このときのためにある言葉だと思った。知的でナイスガイ、心地良い声に爽やかな笑顔…リョウマの全てを手に入れたい…。
エルサルバドルはリョウマの悩み、自身がプロデューサーを務めるドラマの成功を、何としてでも叶えてやるのだと考えた。自らの導きによってドラマが成功したとなれば、きっとリョウマは私に依存する…その日から、エルサルバドルのリョウマ計画は始まった。


「エルサルバドル、これは、どういうことぜよ?」
戸惑った様子の龍馬に、エルサルバドルは子供をあやすように言った。
「教えてあげましょう、坂本龍馬さん。」
「あなた、どうやって現代にきたかわかる?」
「いやそれはわからんの。その、タイムスリップとかいうやつで…」
龍馬のその言葉にエルサルバドルは声を出して笑った。
「いいえ、それは間違いよ。」
「現代の科学や技術では、そんなことはできないの。坂本竜馬が現代にタイムスリップしてくるなんて…まるでマンガやドラマの話だと思わない?
ねぇ、『ササキツカサ』さん。」
エルサルバドルの視線の先にいるのは、紛れもなく龍馬だった。龍馬本人はもちろん、リカや亜由美も声にならない驚愕をみせた。
「そう…。貴方の名前は『佐々木 司』。坂本龍馬なんかじゃない!あなたは、ただの落ちぶれたスタントマン、いや、スタントマン崩れよ!」
そう言い放ったエルサルバドルはスマートフォンを取り出して龍馬の電話に発信をした。司がアラーム代わりに使っているMoment I Countが流れると、龍馬は突然苦しみ出した。

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