第18話 恋する乙女-02

「なっ…これは…!」跪く龍馬に観客はよりざわめきを増す。リカは慌てて駆け寄った。
「りょ、龍馬ちゃん…?!」龍馬の視界がぐにゃりと歪んでいく。赤く、青く、緑に変色して、チカチカガンガン、リカの声も遠巻きになっていく…


「おはよう、ご機嫌いかが。佐々木司さん。」エルサルバドルの問いかけに、ぐったりした龍馬が顔を上げ虚ろな目で「こ、ここは…?」見た目や声はもちろん同じなのに、龍馬ではない、とリカは察した。
「あなた、誰?」「エルサルバドルさん、あなたがなんで?!ここはどこですか??」司の問いかけにエルサルバドルは親切に答えた。
「ここは、おごられナイトのステージの上。時刻は19時45分を過ぎたところ。今日の主役は、貴方よ…。」
「これは、どういうことです??僕になにをしたんですか?エルサルバドルさん。」いつものように冷静に問いかける司。
「今日の主役は貴方だった…貴方はもう誰かの影武者なんかじゃない。せっかく世界に羽ばたけるチャンスをあげようと思ったのに…思ったのにぃぃぃ!!」
怒りに任せせて地団太を踏むエルサルバドルは、狂気的な様相だった。
「あなた誰なの?!何なの?!龍馬ちゃんに何したの!」リカの問いかけに鼻で笑った。
「まだわからないの??坂本龍馬なんて、最初からいないのよ!!巷で噂の坂本龍馬は、私が創り出した幻影。その男、佐々木 司が主演を演じ、私の総合プロデュースの元、この世界を舞台にした喜劇なのよ!!」その言葉に、イベント内はさらなるざわめきをみせた。


龍馬の噂は世間に轟いていたため、その龍馬がウソ偽りという事実は事態をさらに混乱させた。何より亜由美は追い求めた答えが陽炎であったことに、ただ息をすることしかできない。
そしてあの司という男は、確かに亜由美がジョイナスで会った男だった。亜由美は仕方ないとはいえ、答えを求め、答えを目の前にし、それを見事にスルーしたのだ。
「そういうことか…僕の記憶障害は、スタントの影響でも何でもない。あなたの仕業だったんですね。」司は龍馬として活動している間の記憶はもちろんない。司が記憶障害だと思っていたのは、エルサルバドルによる遠隔催眠によって龍馬へと豹変していたときの失われた記憶だった。
「そうよ。感謝してほしいわね。俳優にもなれず、スタントマンとしても落ち目だった貴方を、この私が、真の主役にしてあげたんだから。」司は言い返すこともなく眉を顰め、ゆっくりと立ち上がった。

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