第1話 坂本龍馬、マッチングアプリ使ってる説-01

『坂本龍馬、令和に蘇る?!』
『お台場で坂本龍馬みたいなやつ黄昏ててワロタwww』
『坂本龍馬からGoodVibesきたんだが?w』
『GoodVibes??それどゆ意味??』
『俺、現代の龍馬だけどなんか質問ある?part8』
『俺、慶喜。全部オマエのせいだから…』


ネットに溢れる無数の噂話を、ひとつひとつ入念にチェックしていく。
うす暗い部屋にはモニタの明かりだけが眩しく輝いている。その光に照らされた女の顔は無表情だった。女は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の
ポスターが飾られた、エアコンの壊れた6畳のアパートの2階、窓を全開にしほぼ全裸に近い格好でパソコンを睨み続けた。いくらその噂話を調べても、確信がある情報はない。情報どころか、今どき写真のひとつも出てこないとは…女は巨大掲示板『7ちゃん』の記事を漁りながら、爪を噛んで気持ちを落ち着かせた。
なにも焦っているわけではない。無数にある情報をいくら読み込んでも、手がかりひとつ手に入らない現状に苛立ちを覚えていた。気分を変えようと作業用BGMにOpen OutThe Final Viewをスマートフォンで順に再生した。流行りの音楽こそ分からないが、音楽は結構好きだ。
昨今のストリーミングブームに度肝を抜かれつつ、その便利さにはしっかりとあやかっていた。女はふと時計を見た。午前2時。もうこんな時間か。女はあと5分で止めにしよう、となんの当てもない制約を設けて再びパソコンへと視線を戻した。そこに飛び込んできたひとつの関連スレッドを、女は気怠そうに流し読む。


『坂本龍馬ってどこ行ったら会えるん?』
『知らねー。最近このスレ多すぎだろ。』
『俺ジョイナスってアプリで会ったことある。』
『なにそれww龍馬ってスマホ持ってんのかwww』
『てか、ジョイナスってなによ??』
『マッチングアプリ。知らんやつと飲みに行けるやつ。』
『マジか。俺、男だけど誰か奢ってくれw』
『働けカス』


…ジョイナス?聞き覚えのないその文字をコピペして検索する。それは、昨今普及しているマッチングアプリが派生した、飲み会マッチングアプリ。女はそういった類に全く知見や免疫がなかったが、やっと手に入れた具体的な情報に胸を躍らせ、すぐさまアプリをダウンロードした。
基本登録を済ませたところでベッドに寝そべった。もう疲れた、明日にしよう。唯一の情報とはいえ、アプリくらいで何かが変わるわけがない。そう思っていた。

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