第1話 坂本龍馬、マッチングアプリ使ってる説-03

「坂本龍馬、令和に蘇える?!なんですか、これ?」
「信じがたいことだが、昨今東京で坂本龍馬に遭遇したという人が何人かいてね。」
オカルトのライターをやっているくせに、島崎は「まるでマンガやドラマのような話だ」と思った。
「もちろん、坂本龍馬オタクが成りすましてるだけの話かもしれん。それにしては行動が不可解でね。遭遇した人々は口々に、タイムスリップの方法を聞かれたという。元の時代に戻りたいと、ね。」
「そりゃあ…過去から迷い込んだのなら当然かと。」
「君ぃ、そういう淡白なリアリズムは捨てたまえ。我々は夢とロマンを追っているんだぞ。」
そこから30分ほどウエシマによる都市伝説とは、の演説が始まった。きっと彼は心から都市伝説を愛しているのだ。ただ仕事に対して消極的で非協力的なだけだ。それはごく些細な問題であり、致命的である。
「おっと、長話だった。」その先の言葉はご想像の通り「じゃあ、調査して早めに記事にしてね。」だった。


この業界あるあるで、こうしたローカルなオカルト話や噂話の正体は、大抵現地のおじさんの仕業だったりするものである。
去年のこと、栃木県宇都宮市にて焼きたてギョーザを一気に丸飲みにする妖怪がいるという噂があって調査をした。出没するという駅前の餃子店で待ち伏せしていると、およそワゴンRくらいはあろうかという巨漢が現れた。慣れた様子で餃子を5人前注文すると、ハッという一息で3人前を頬張り、グンッという異音と共に胃袋に流し込んだ。これは妖怪に間違いないと取材を試みたが、結局のところ、宇都宮郊外に在住の極めて太ったおじさんが夜な夜なワゴンRに乗って現れ、餃子を大胆に食い散らかしているだけだった。


どうせ今回の話も、坂本龍馬に心酔するおじさんが成りすましているに違いない。乗り気はしなかったが、上司の命令とあっては無視するわけにもいかない。私は渋々調査をはじめた。これが2日前。それからネットや聞き込みで調査を進めているうちに、目撃情報は相次いだ。
いよいよ島崎も普通ではない気がしてきて、本腰を入れて調査をすることにした。幕末の志士、坂本龍馬には興味も関心もないが、タイムスリップしてきたとなれば話は別である。バック・トゥ・ザ・フューチャーを愛している者として、やらないという選択肢はない。
島崎は書き込みを頼りに、ジョイナスという飲み会アプリまで辿り着いたことをウエシマに報告しようとしたが、連絡が取れない。後に聞いた話では、既にマラウイへと旅立っていたらしかった。

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