第3話 龍馬の記憶とエルサルバドル-02

「あのー、あれ。免許証とかある?」
「めんきょしょう?」
「身分証明できるもんだよ。何かないの?」
「身分かぁ、ワシは脱藩の身やき。」
脱藩の言葉に警察官が馬鹿にしたように笑みをこぼす。
「あー、はいはい。じゃあ、家は?」
「色んなお人に世話になっとるき。さすらいの身じゃ。」
「はい、じゃあ住所不定のホームレスの方ねー。」
警察官は何かよく分からない板と紙に書き記した。
「ほーむれす?ワシは坂本龍馬じゃ。」
「あ、わかってますよー。お家のない方をホームレスって言うんでー。」
面倒くさいと言わんばかりに警察官は適当に返事をした。
「で、坂本龍馬さんがこんなところで何してたの?」
「いやー、ワシにもさっぱり…。目が覚めたらここにおったんじゃ。」
「あー、酔っ払いねぇ。外で寝るのは物騒だからやめてねー。」
「いや、酒なんか飲んどらんき。」と言ってから、いや最後の記憶では酒を飲んでいたなぁとフラッシュバックしたが、龍馬は口には出さなかった。
「お酒飲んでる人はみんなそういうんですよぉ。
えーっと、じゃあ仕事はしてないの?」
「仕事は、んー、一言ではいえんが。まぁ、商人かの。」
「へぇ、家がないのに。なにを売ってるの。」
まるで興味がない様子で警察官は尋ねた。
「おお、色々やが…儲かるのはやっぱり武器じゃ!」
「なっ!君、武器売ってるのか!?」警察が目の色を変えて身構える。
「おお。刀も売っとるし、鉄砲もよお売れるぜよぉ。」
「て、てっぽう!?君、ちょっと署まで来なさい!」警察官が龍馬の腕を掴む。龍馬はその屈強な腕でそれを振りほどき、あたふたと距離を置いた。
「な、なんじゃ急に!シェイクハンドとは!びっくりしたぜよ、おまんは西洋人か!?」


警察官と龍馬が大声を張るので辺りは酔っ払いの人だかりができ始めていた。警察官はラチが開かないと無線で応援を呼ぶ。龍馬は小箱に向かって
喋りかける警察官を不思議そうに眺めていた。
「いやそもそもおまんは何者じゃ?」
「私は警察官ですよ、ほら警察手帳。いいですか、悪いことは言わないから。署で話を聞かせてほしいだけですので。」警察官はさっきの気怠そうな雰囲気はどこへやら、鉄砲を取り扱う龍馬に恐れ腰で語りかけた。
「けーさつかん…?」
「はあ、まだ言ってるのか?警察は街を守ってるんだよ。君の設定でいうところの新選組だな。」馬鹿にしたついでに口にした冗談が、龍馬を過剰に反応させることになった。

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