最終話 Good Luck, Good Vibes.-02

「あなたは、気が付いていたんですか。龍馬のこと。」
「さぁ、どうでしょう…もういいですか?クタクタに疲れているんです…」
ふらふらと夜の表参道へ消えていく司を、これ以上呼び止めることはできなかった。司は帰り際、今までのメモを全て消してしまおうとスマートフォンを眺めた。しかしそこには、見覚えのないメモが一つあった。司はそれを見て、手を止め、足を止めた。
「今まで勝手にカラダを借りて悪かったの。日本の夜明けはまっことGoodVibesだったぜよ!!ほいでは、またいつかの。」


「はぁー。」海保はイベント会場から脱して、人けのないところで一人、電子タバコを吹かしていた。
もともとタバコを吸い出したのも、兄の影響だったなと笑みがこぼれた。ンーンーンー、とバイブレーション。電話のようだった。
「もしもし。」
「もしもし、アタクシ。」
「はいはい。」
「ケンユウのリアリティショー、面白かったわねぇ。」
「あれ?、見てたの。」
「そりゃあそうよ。可愛い弟の一世一代の舞台じゃない。ばっちりカメラも回しちゃったわ。」「あの薬さー、ほんとに人体に影響ないのかな?」
「さぁ?まぁあってもケンユウなら大丈夫でしょ…。ところで、ミホちゃんは最近お忙しいのかしら?」
「まぁまぁ、ね。」
「とってもホット&ナイスでハッピーなお仕事があるんだけど…、一緒にいかがかしら?」
「なにそれ、超怪しい…」
「んーまぁ、ちょっとクレイジーなお仕事ではあるけど。人生には刺激は大切よ?」
「どんなの。」
「全然難しくないのよ、ちょちょっと…偽札?偽マネー?を作ってくれればOKなの。」
「はぁ?!なにそれ、偽マネーって…。マンガじゃないんだからさ。」
「あんたの仕事術で何とかしてよぉ。困ってるのよぉ。」
「まぁ、報酬次第では考えなくもないけど…。それより、ケンユウ兄ちゃんのことも、フォローしてあげてね。」
「あれは、しばらく頭を冷やさなきゃダメね。恋に溺れるとは、まだまだ若いわ。」
「もう切るよ、戻らなきゃ。」
「はいはーい。また電話するわ。」
「じゃあねお兄ちゃん。」長男との電話を手短に切り、電子タバコをポケットに仕舞ってイベント会場に戻ろうとしたところに、亜由美とばったり遭遇した。

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