最終話 Good Luck, Good Vibes.-03

「あれ、亜由美ちゃん。」
「探してたんだよ、なにしてたの?」
「んー、まぁちょっとね。さ、さ、残り僅かなイベントを楽しもー!」

会場に戻るとスタッフの粋な計らいか、作品となったエルサルバドルがステージ横のスペースに展示されていた。それには依然として多くの人たちが群がっていた。亜由美と海保は今更ながらにIKIBAに酒をもらいにいく。注がれたカップには顔写真が貼ってあった。
「あ、こいつ!」その顔は火を見るより明らかな顔見知り。SARIRAHの縞柄メガネだった。ごった返した人々を避けながらメインエリアに戻ると、どこからともなく「カルパァァァス!」の雄たけびが聞こえた。どうやら実施されていた催し物に決着がついたらしかった。髭を生やした中年男性が「カールパス!カールパス!」の掛け声とともに胴上げされていた。その男がカルパスに当選したのか、はたまたその男が酒をおごった本人だったのか、到底亜由美たちにはわからなかった。人で溢れる中、偶然にも空いていたテーブルに腰を落とす。


「おつかれ。」
「ほんと、疲れたぁ。」
「でも、いいの?お兄さん、とんでもないことになってるけど。」
「んー、まぁ天罰でしょ。しゃーない、しゃーない。」
海保は全く動揺を見せていなかった。人体に影響がない、という言葉を信じているからなのか、そもそも兄への関心がないのか、いずれにしろそのどちらかのようだった。「じゃあ、乾杯しよ!」
「うん、乾杯!」「乾杯!」ふたりが乾杯した瞬間、会場の照明が薄暗くなり、ステージがバッと照らされた。DJのサンプラーによる電子音と女性ヴォーカリストのシャウトが上がると、人々の歓声が木霊した。あっという間にステージ上ではドラム演奏が始まった。人々がわけもなからないままステージに群がる。どうやらイギリスの有名エレクトロダンスユニットのシークレットライブらしい。
「マジかーー!!ベースメントジャックスじゃんか!!」
「うゎ!まさかの一曲目からGood Luck!!」


このイベント、最後の催し物だ。バンバーン!!という破裂音とともにメインヴォーカルが現れ、歓声が今日の最高潮に達した。まるでみんな、さっきのことを忘れていくようにアーティストの打ち鳴らす音楽に、体と心を躍らせた。その歓声はいつまでもずっと続くような、そんな気がした。

(完)

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