第2話 feat. 坂本龍馬-03

「ていうか、やっぱタイムスリップしてきた感じ?」
「タイムスリップ、とこの時代では言うらしいの。ここは、ワシの時代からずっと先の日本じゃ。時やら所やらを飛び越えてしもうたらしい。」
「マジなんだ、ヤバい、映画じゃん。」女は興奮のあまり、癖付いたスマホを取り出して写真を撮ろうとしたが、咄嗟にさっきのことを思い出しすぐにやめた。一度注意されたことは肝に念じるタイプである。
「えいが?」
「あー、ドラマの凄い版みたいなやつ。」
「どらま?」
「ヤバ、マジ会話になんない。ウケる。」
女が声に出して笑いだしたのを見て、龍馬もそれに合わせて笑った。
「まっこと威勢のいい、ハイカラなおなごじゃ!」そこに先ほどの縞柄メガネ店員がハイボールと料理を持ってきた。
「こちら、ハイボールと、おすすめでご用意しましたバッファローチキンとサリーラポテトフライです。」
「おお!異国的で美味そうやの!」龍馬は空腹だったのもあって、バッファローチキンを手に取り、矢継ぎ早に噛り付いた。
「マジでワイルド、ウケるー。」女はヘラヘラしながらフォークでポテトフライをつついた。
「やっぱジョイナスはおもしろい人多いわぁ。」
「おもしろいとは、ワシのことか?」
「他にいないでしょ。」龍馬は自らを面白いと思われることを本意には感じていなかったが、女が楽しそうなのでそれでよかった。それよりもチキンを食べることが忙しかった。
「え、ていうかなんでタイムスリップした感じ?」
「わからん。それがわかれば、苦労はないき。」龍馬は口いっぱいにチキンを入れたままモゴモゴと喋った。
「じゃあ、その変な服とか、スマホとかはどしたの?」
「こりゃあー、ワシの恩人が見繕うてくれたものじゃ。あの人にゃ足を向けて眠れん。」
「へーー。」言いながら女は、正直なところかなり半信半疑だった。


それはそうだろう。ジョイナスで出会った男が坂本龍馬を名乗り、タイムスリップしてきたという設定を持ち出して土佐弁を喋れば、きっと誰だって不信感を持つ。しかし、話せば話すほど男が坂本龍馬を
名乗るただの変人には思えなかった。
「今の時代は、ぶっちゃけどう?」
「そりゃー、たまげることばかりじゃ。本に日本の夜明けぜよ。」
「例えば、どんなところ?」
「飯が美味い!」気が付けば龍馬の持つチキンは骨だけになっていた。
「なにそれ、超シンプル。もっと色々あるでしょ。」女の笑い声が洒落た店内に響き渡り、店内のBGMが丸の内サディスティックに変わった。
「タイムスリップしたときのこと、覚えてる?」
その質問に龍馬はチキンを食べる手を止めた。
「正直、ほとんど覚えちゃーせん。」龍馬は目を細め明後日を見た。
今から6日程前のことを思い出していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?