第19話 ミッドナイトコーラ-01

「最初タイムスリップの方法がわかったなんて聞いたときはホント焦ったわぁ。タイムスリップも何も、あんたは坂本龍馬じゃないんだから。でも調べていくうちに、違うってわかったの。」
ただ無造作に騒ぎを起こさせるだけではインパクトと話題性に欠けると考えたエルサルバドルは、そのタイムスリップの一件を利用することにした。
「それ、どういうこと。違うって、なに?!」衣川から聞かされなかったそれを、リカはエルサルバドルに問いかけた。
「あんたも何も知らないのねぇ。ただのパーツ、哀れな歩の駒ね。あんたも、あんたも、あんたも!今から巻き起こるグランドフィナーレに心を奪われたらいいわ!目見開いてしっかり見てなさい!」
時刻はまもなく20時。衣川が言っていた約束の時間が近づいていた。


「おまんは、とんだ悪党ぜよ…。」声をあげたのは司、いや、龍馬だった。
「なっ…どういうことよ。私はコールもしてないしスマホも触ってないわ。」エルサルバドルの意に反して、そこに現れたのは紛れもい、龍馬だった。「色々と世話になったけんど…ワシがこの世界に来たのんも、こんな大騒ぎになっとるんのも…全部おまんのせいとは、まっこと驚かされたぜよ。」
「あんた、いつから聞いてたの。」
「ずうと聞いとったぜよ…。この身体の持ち主、ツカサとは互いが互いの存在に、少しずつ気づきはじめとったがじゃ。ツカサは己に戻るごとに、スマートフォンに記帳しとったんじゃ。ワシはそれを見てしもうたんじゃ。自分が自分でない…そんな気はしとったぜよ。話したことはないけんど、ツカサもきっとそう思っとる。」
「私の暗示と催眠が甘かったか!きぃぃぃ…!!」ギリギリと音を立ててエルサルバドルは歯ぎしりをした。ますます計画に亀裂が走っていることに、エルサルバドルは苛立ちを隠せなかった。
「観念せえ。愛を忘れ、真心を忘れ、人の心の弱みと不安に付け込む大悪党、おまんは絶対許さんぜよ!」
「スケバン刑事だ…!」海保は呟いた。
「南野陽子、2代目だ…」直撃世代の衣川が付け加えた。


パパパパーン!会場内に響き渡った乾いた音は、20時を告げるものだった。すっかり静まり返っていた観客たちから、うわああああ!!という途轍もない歓声が聞こえた。それは特にステージから遠く離れたところから聞こえているようだった。
「な、なになに?!今度はなに?!」亜由美と海保は後ろを振り返る。観客もステージから目を離し、後ろの騒ぎを見つめた。

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