第18話 恋する乙女-03

「なぜ、こんなことを??」司が言った。
「ドラマは坂本龍馬が現代に現れる話だと聞いて、ピンと来たのよ。この現実世界に実際に坂本龍馬をタイムスリップさせれば、きっと話題になる。そしてドラマが注目されるとね。」
もちろんエルサルバドルとはいえ、坂本龍馬をタイムスリップさせることなどできない。そこで考えたのが、誰かを坂本龍馬に仕立てることだった。
協力者を用意して演じさせようとも考えたが、ボロが出るかもしれない。そこに現れたのが、佐々木司だった。司とはバーで偶然出会った。エルサルバドルに心を許したのか、司は自らの過去と現在の葛藤を刻々と喋り始めた。そのうちに、エルサルバドルの中にある計画が頭を過った。


「あんたに暗示による催眠をかけ、坂本龍馬にしてしまえばいい…と。」
「どうして、僕、だったんですか。」
「タイミングが良かったのはもちろん、くせ毛で顔も少しだけ似ていたし。あなたはスタントマンとして怪我をしたことでしばらくリハビリを続けていた、つまり無職。交遊関係もないに等しかった。貴方が坂本龍馬に成り代わっても、誰にも不審がられず今日を迎えられると考えたのよ。」
エルサルバドルが言うように、ほぼ誰とも交友がない司は好都合の存在だった。エルサルバドルは占うと称して彼に催眠をかけ、スマートフォンからの音楽によって催眠を遠隔でオンオフできるように暗示をかけた。これまで定期的に龍馬と司が入れ替わっていたのは、彼らの意思でも偶然でもなく、全てがエルサルバドルによる操作によるものだった。


「こんなこと…俺は頼んでない!」リョウマが声を上げると、それを遮るほどの声で「シャラァーーープッ!!!」と奇声混じりにエルサルバドルは叫んだ。
「これは、恋よ!!愛よ!!トキメキなのよ!!!無性の愛を貴方に捧げてあげたというのに!計画は順調だった。龍馬が夜な夜な街に現れ、瞬く間にネットで話題になり、噂は世間を駆け巡ったわ。少しでも画像が出回りそうになれば、私が削除した。」どうやって…という声は出なかった。
「なのに…なのに!あんた達がバカみたいに邪魔するからさぁ!!」エルサルバドルは唾を噴き散らかして群衆を指刺した。
「特にアンタよ!アンタ!!」エルサルバドルが指さしたのはリカだった。
「ヘラヘラと龍馬に近づいて、意味の分からないタイムスリップ方法だの何だのと騙くらかして!!あげくにコイツの元婚約者とは、どういうことじゃぁ!!」エルサルバドルの口調はだんだんとオネエ口調というより、アウトレイジさながらのドスの利いた強面口調へと変貌していった。
「でもねぇ…私もバカじゃないのよ。そんなこともあろうかと、ちゃんとシナリオを考えてきているの。」


エルサルバドルはこの劇の、この物語の終点を、このおごられナイトに定めた。このイベントはエルサルバドルが勤める人材会社が企画に関わっていたことと、近日中で都内の多くの人が交わるイベント
として、他にない格好のイベントだった。
エルサルバドルはイベントの企画にドラマの舞台挨拶をねじ混ませ、そしてその場で龍馬、司に騒ぎを起こさせることで、よりドラマに注目を浴びさせることを考えた。仕事上の付き合いや人脈をフルに利用して、大小問わずプレスもメディアも大勢をイベントに招待した。亜由美もまた、妹である海保を通じて招待した一人だった。そして、龍馬が吹き込まれたタイムスリップの方法についても独自に調査を行っていた。

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