第5話 辿り着いたエルサルバドル-01

「んー…。」龍馬はリカと男の出会いと別れの話を、じっと腕を組んで聞いていた。
「しかも、元カレの名前は、相沢リョウマ。」
「な、なんと!リョウマっちゅうかや!?」
時間も遅くなり客の数も疎らになった店内に、再び龍馬の声が木霊した。
「そう、スゴくない!?運命だよねー、これ。」
リョウマは特異な名前ではなかったが、日本を代表する龍馬に対しては例外だった。

「はい、これが写真。」
「おおー、顔もワシに似てイイ男ぜよ!」
女はその言葉には触れず「でも、今どこにいるのか、何してるのかもわからない…」と淡々と告げた。
「正直ね。私、この間までは必死に忘れようとしてたんだ。でもね、この前渋谷でそっくりな人見かけたの!」
「なんと、そりゃあ本人だったんか?」
「ううん、わからない。すれ違ってさ、私もびっくりして追いかけたんだけど人混みの中に消えちゃって…。でも、それでもしかしたら、リョウマはまだ東京にいるかもって思ったの。」
「おまんは、会ってどうするぜよ。」
「うーん、とりあえず別れた理由が聞きたいよね。
一方的に手紙で別れるなんて、マジでウザくない!?」
リカはいつものように明るいギャルの顔に戻ったが、龍馬はその目の奥の悲しみを見ていた。少しばかり腕組みしたまま黙った龍馬は、はっと息を吸い口角を上げた。


「よし。引き受けた!ワシが探し出しちゃる!」
「ホント!?」
「おお、ワシは本当のことしか口にしたことはないき!」
「それは嘘っぽいね。」
「よーわかったな、嘘じゃ!」
ハハハハと二人は異様なテンションで笑いあった。
龍馬なりに沈んだ雰囲気への配慮らしかった。
「ほいじゃが、タイムスリップする方法と交換やき。忘れたらいかんぜよ。」
「もちろん!私、約束は守る女ぜよ!」リカは笑顔でピースしてみせた。
「ほお、そうか!ワシも約束は守る男ぜよ!」
二人はその後連絡先を交換し、別れた。


帰り道、夜とは思えぬほど明るい街頭たちの下でリカはスマホを眺めていた。そこには連絡先、『坂本龍馬』の文字。自分でも馬鹿らしかった、有名人と出会って人探しを頼んだなんてドラマでもあるまいし…
彼女にとって坂本龍馬は有名人というジャンルに該当した。歴史上の偉大な人物というよりはタレントや俳優、スポーツ選手に近い。

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