第15話 現代のねずみ男-03

今から1週間ほど前、龍馬の噂が巷を賑わし始めたころのこと。
リカは合コンで知り合った男から、衣川を紹介された。誘い文句は儲かる話がある、というテンプレートなものだった。リカも半信半疑で犯罪に手を染めるつもりはなかったが、衣川から告げられた内容は実に簡潔だった。「東京都内にいるという坂本龍馬を探し、とあるというイベントに連れてきてほしい。」龍馬がそもそも実在するのかはさておき、たったそれだけでいいのならとリカは快諾した。
報酬は数百万にも及ぶという俄かには信じがたい話だったが、そこはリカの持ち前のピュアさがカバーしていた。実際のところ衣川は都内の女性、約50人ほどにこの依頼をしていた。イベントまで時間が無かったため、不特定多数の人物に協力してもらうことが必要だった。
そこで偶然にも坂本龍馬と出会ったのがリカだった。リカは予定通り龍馬を誘導するつもりだったが、土壇場で勇気が出ず、逆に龍馬の力を借りることになった。次第にリカは龍馬への好感と罪悪感から全てを打ち明けようかとも思ったが、結局伝えることができないまま今日を迎えてしまった。
しかしリカには覚悟があった。衣川から液体を奪い、必ず龍馬を救う。単純で安直だと言われるかもしれないが、リカにとっては最善で唯一の手段だった。


「坂本龍馬はどこにいる!」
「どこにいる!!」さっきまで龍馬だと言っていた男はすっかり衣川の部下に成り下がっていた
「それは言えない。てか知らない!」
「まぁいい。君には悪いがね。そんな液体で、タイムスリップなんぞできないぞ。」
「えっ…どういうこと!」
「そんな液体で、できるわけないだろう。まさかホントに信じるとはね。水晶玉のように透き通った心の持ち主だね、まったく君は。」衣川の嘲笑いに、リカは愕然とした。「そんな…。」
「その馬鹿なピュアさに免じて教えてやろう。それはアロリゲンチンという特殊な薬品だ。それは特定の温度の物体に触れたとき急速に固まる性質が
ある。まるでマネキンや剥製のようにね。それを龍馬さんに頭から被ってもらおうって次第だよ。」それには亜由美たちも反応した。
「そんな、どうして?」「どういうこと!?」
「まあ心配はいらんよ、死にはしない。アロリゲンチンは30分もすれば効果が切れる。表面が固まるというよりは、生体機能そのものが一時停止すると考えればいい。効果が切れれば正常に戻り、人体に異常も出ない。はずだ…、あくまでもマウスによる実験結果のみだがね。」
衣川のいうことをそこにいるほとんどがよく理解していなかったが、なんにしても龍馬に危害を与え、利用しようとしていることは理解できた。
「なんのためにそんなこと…」亜由美の呟きに衣川は嘲笑で答えた。
「アートだよ、アート。」

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