第19話 ミッドナイトコーラ-03

「きたわね。ミッドナイトコーラ。」
「これは…何が始まるんじゃ?」
「ミッドナイトコーラは、貴方にとても興味があるそうでね。貴方を題材としたアート作品を創りたいんですって。そしてそれを、この大衆の前で完成させる。それこそが彼等のアートなのよ。」エルサルバドルが説明するも、龍馬には皆目理解できなかった。
「なにを言うとるんじゃ?」
「そうか…!その水みたいので、龍馬ちゃんを固めて、それを作品にするってこと!?」リカの閃きに、エルサルバドルは答えた。
「ご名答。よくわったわね。貴方はここで後世に残るアートとして伝説になるのよ。名誉に思いなさい!」エルサルバドルは事前にこの計画を知っていた。単純に龍馬に騒ぎを起こさせるだけでなく、龍馬をミッドナイトコーラの手によってアート作品とし、後世に残る伝説を創る。これ以上にない宣伝材料だった。明日にはきっと、世界中にこのニュースが駆け巡る。


「いいぞー!」群衆の中で声をあげた衣川は、理工学系大学の教授でミッドナイトコーラの協力者である。彼等の求める薬品や素材、機器などを提供してマージンを得ている一種のビジネスパートナーだった。そして今回、坂本龍馬そのものをアートにするというプランを聞き、アロリゲンチンを用意したのももちろん衣川だった。
「絶対ダメ!そんなことさせないから!」リカは龍馬の前に立つ。それに釣られるようにリョウマもまた身を挺した。
「大丈夫よ。そのアロリゲンチンは人体に影響はないそうだから。最も、人体に使われたことはないらしいけどね。」ふふふ、ははは!と如何にも悪そうな声で高笑うエルサルバドル。
すると舞台上ではミッドナイトコーラが顔を見合わせた。するとピンク髪が再びコップを天高らかに掲げると、勢いよくそれをぶっかけた。龍馬に、ではなく、エルサルバドルに。
悲鳴に似た歓声で会場は騒然となった。エルサルバドルは声を出す間もなく、驚愕の表情のまま原寸大フィギュアとなった。ミッドナイトコーラはその神掛かった圧倒的センスで、それにスプレーやらペンキやらで色をつけていく。ものの30秒程でエルサルバドルには装飾や色付けが施され、見るも鮮やかなアート作品へと変貌した。


それをみた観客からは、けたたましい歓声とシャッター音が鳴り響く。みんながスマホで一部始終を撮影しSNSに投稿していた。ライブ配信で中継をする者も後を絶たない。ミッドナイトコーラは歓声を
後目にあっさりとステージを去り、装飾だらけのセグウェイに乗りゆらゆらとその場を後にした。立つ鳥跡を濁さず。一言も喋らず声すら発することのなかった3人が残したその作品には人の群れができていたが、すぐさまスタッフが現れそれを舞台袖に移動させようと奮闘していた。騒ぎの中でリカや龍馬たちも舞台を下ろされ、スタッフは事態の終息に躍起になっていた。幸いにも観客はその一部始終を全てパフォーマンスだと認識し、イベントそのものは最高潮の盛り上がりをみせていた。
DJもすっかりそう思い込み、アドリブを存分に効かせてフルテンションでWill To Loveをかけた。そんな中、リカは人目のつかない舞台袖で龍馬の異変に気が付いていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?