第16話 今夜のメイクドラマ-01

酷い頭痛で目が覚めた。音楽と歓声が聞こえる。ここは…。
座り込んでいたパイプ椅子から腰を浮かして、辺りを確認する。何かの会場だろうか、どうやらここは会場外、いわば舞台裏らしい。空はすっかり黒く、イベントの賑わいを確かに感じる。司は頭痛を感じながらもおぼつかない足で歩みを進めた。その間、何人かの男女とすれ違ったがみんな同じ衣服を着ている。どうやらスタッフらしい。やはり何かのイベント会場。なぜ俺はこんなところにいる?
「おはようございます、今日はよろしくお願いします。」
すれ違った若くて可憐な女が挨拶をしてきた。
司は訳もわからないまま会釈をする。さっきの女どこかで…そうだ!人気若手女優の三上美々。記憶が飛んでしまう割には、そんなどうでもいいことは覚えているものだ。
美々が向かったほうへ足を運ぶと、ステージ裏らしき場所に何人かのスタッフと出演者らしき人々が待機している。それにしても、私のような部外者が
こうも易々と忍び込めているのは如何なものか…
と司は眉を潜めた。するとステージから、歓声とともに若い女の子たちがぞろぞろと戻ってきた。見たところアイドルだろうか。舞台監督らしき
人物が「はい、ではお願いします。」と挨拶し、入れ違いで男がステージへ。繋ぎのMCをしているらしい。アイドルたちは「お疲れ様でしたー!」と過剰なほどの愛想をスタッフにも振りまいて楽屋へと戻っていった。次第に頭痛がまた酷くなり始めた。
司は頭に手をやり、舞台裏から少し離れた人気のないところに腰を下ろす。一体ここで何が行われているのか…司は事態を飲み込めずにいたが、確かに、着実に何かの歯車が回っていると確信した。


右では「乾杯〜!」の声。左では「カルパスゥゥ!」「ヒント11、どなたか持ってませ〜〜ん??」の奇声。ステージ横ではウルティモセカンドライフのサイン&チェキ会が開催されていた。ウルティモさん書籍「我が人生、人参の如く」を購入すればもれなくサインとチェキが撮れるとあって長蛇の列ができていた。その横ではイベントのために作られたゆるキャラ『もちつもたれつ君』が取材陣のカメラを意識して得意の側転に挑戦していた。イベントも終盤に入ろうとしているのに、盛り上がりはむしろ加熱しているようにも思える。


「アートって…どういうこと。」亜由美は唖然として質問を加えた。
「質問が多いね、君たちは。」衣川はいやらしい眼差しで嘲笑った。
「お喋りはもういい。時間がない、早く返したまえ。」
その刹那、うわあーという今までにない歓声がステージで聞こえた。皆がそちらを凝視すると、ステージ上には若い男女の姿。
「あれ、名護 樹じゃん!私、超ファン!」海保が歓喜した。黄色い声援が飛ぶ中、名護樹と三上美々はステージから観客に手を振る。そしてドラマ監督とプロデューサーがそれに続いて姿を見せた。
「それではですね、これよりシークレットイベント!話題の動画配信サービス、MovieFreaksにて来月から配信のオリジナルドラマ、『RYOMAの遺伝子』の舞台挨拶を行いたいと思います!!」、ステージ上にドラマ主題歌であるBeat Iaments the worldが流れる中、司会のMCがそう告げると再び観客から歓声が飛んだ。

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