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舞台「大地 Social Distancing Version」の感想

先日、見た三谷幸喜さんの新作「大地 Social Distancing Version」の感想をまとめておきます。

この公演、一旦はチケットを販売したものの、コロナウィルス関連の自粛、及び公演再開に伴う規制によって、パルコ劇場の座席利用を半分以下にして、チケットを再販売して公演となりました。パルコ劇場はせっかくのリニューアルスタートでしたが、渡辺謙さん主演の「ピサロ」から公演中止が相次ぎ、非常に残念なスタートになっております。それでも三谷さんの公演に関しては、なんとかチケット再販売にこぎつけて、今回の開催となっております。

WOWOWの中継もありましたから、見た人も多いと思います。まだ見ていない人には申し訳ないのですが、自分が見た感想をまとめておきたいと思います。

ある時代のある国、独裁者への忠誠を徹底的に従わせる圧政の中で、その独裁者への反抗や揶揄を含めた行為をした様々な人物を、ある土地に送って「再教育する施設」での話。その施設に集められた人の中で、演劇、映画、大道芸などの芸術関連に関わった人たちが集まった部屋がある。その部屋のメンバーたちが繰り広げる施設での様子、仲間の一人を彼女に会わせるために打った一芝居、そしてその結果もたらされる人のエゴ、、、、、という話です。

三谷さんの新作は「愛と哀しみのシャーロック・ホームズ」以来ですが、相変わらずの面白さだったと思います。まずキャストが絶妙で、大泉洋さん、山本耕史さん、浅野和之さん、藤井隆さん、相島一之さんなど三谷組常連の方々を始めとして、辻萬長さん、小澤雄太さん、竜星涼さん、栗原英雄さん、濱田龍臣さん、まりゑさんと様々なキャストが揃っています。

演出上なのか、それとも今回のコロナの影響を踏まえてか、キャストの収容所の部屋のみのセットでストーリーを進めていきますが、通路と各ベットをうまく仕切った状態で話をして、更に人が接触する場面もうまくカット。入れたのはほんの僅かです。そういう制約を活かしながらでも作品を作る三谷さんの凄さを再実感しています。喧嘩のシーンも普通なら殴り合いを見せるようなところでも枕を投げつけるなど(これは逆に狙ったのかも)。

作品としては、前半から中盤が各キャストの個性とキャラを見せつつ、この独裁政権の状況を伺わせ、途中の彼女とデートをさせる部分では、まさに「役者」としての真骨頂を見せることで成功はするのですが、当のデートをさせた本人がミスを犯し、一人が今よりも過酷な収容所に送られるという過酷な選択を強いられます。そして最後に選ばれたのは、、、、ということになるわけですが、このあたりの苦さは三谷さんらしい内容だと思います。今までも喜劇と言いながら笑いばかりでなく、ハッピーエンドではない終わり方をする作品を描いてきましたが、今回も同じように苦い味を覚えたまま終わっていく話になっています。以前見た「江戸は燃えているか」なども主人公が刺されて寂しく去っていくなど、こういう余韻の残し方がうまい。

今回の作品は「コロナウィルス」による公演自粛や非常事態宣言という状況を逆手に取った部分が多数感じられて、このあたりの連想のさせかたは、これからいろいろな作品でも出てくるんだと思います。

映像で見る部分と舞台で見る部分の違いは、今回いろいろな場所で映像配信による課金システムを実施した状況を考えても、面白さと難しさの両方を感じています。やはり別物なので、これからも配信は続くと思いますが、舞台っぽい映像作品という形式になってしまうのかなあ、、、ここが難しいところ。例えば映像ではセリフを話している役者を映すけど、実際舞台上の役者はそれぞれのキャラに基づいた動きをしているなど、、、、こういう俯瞰的な目線が見る人によって自由にできるから、演劇としての面白さが広がると思います。またそのときの観客の空気によって、役者の勢いの変化が出るなど、このあたりは舞台好きの人は当たり前だと思いますが、そういうことがわからない人にはやはりわからないし、だから平気で不要とか配信すりゃあいいとか安易に言い出す。配信を否定しないけど、それは舞台というコンテンツの一つの要素でしかないと。個人的には朗読劇は結構いいのかなあと思ったりします。俯瞰とアップの切り替えをできれば、視聴者の好みでスイッチできるとか。ディレクターみたいですが(笑)。

今回、パルコ劇場と三谷さんが、苦労しながらも、そして金銭的にかなり厳しい内容だと思いつつ、公演を再開してくれたことには感謝しかないです。現状での感染者の数字をみるとかなり厳しい状況は続いて、そして「GoTo」はなぜか始まる。ある方には演劇は仕方ないけど、観光に関しては地元産業含めて、数兆円の規模の経済活動だから、エンタメの保障はなくてもこの「GoTo」のキャンセル料の保障などは実施するべき案件と言われたことが、小骨が刺さった感覚になっています。「GoTo」を否定する気はないですが、一方は助ける価値のないものという扱いをあっさりとされてしまう状況が、悲しいですね、、、、、そういうエンターテイメントからも助ける力をいっぱいもらってきた自分としては。価値観や重要性の相違の溝は深いと、改めて実感しました。

「大地 Social Distancing Version」、ぜひまたちがうVersionで見たい作品です。このあと見に行かれる方、楽しんでください。

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