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舞台「23階の笑い」の感想

先日、世田谷パブリックシアターで観劇してきました。

チケット販売サイトから「割引案内」が数回来たので、「えっ!」と少し驚きました。翻訳とはいえ、三谷さんの作品。キャストも豪華でなんでかなあ、、、と少し思いながらでした。どうやら、クリスマス時期のチケットがそれなりに空席だったようで、自分が観劇した回はほぼ全席埋まっていたので、杞憂だったのかもしれません。

このコロナの情勢下なので、なかなか足を運ぶことに関しては、躊躇する状況もあります。自分も今回はちょっと迷いましたが、自分自身が万全の準備と思い、気をつけて会場に向かいました。

ストーリーですが、マックス・プリンス(小手伸也)という活躍中のコメディアン・エンターテイナーがテレビ局との契約を見直す話が発端となります。登場人物の主な人たちは、マックスが抱える番組のライターたち。日々、番組のコントのためのストーリー、台本を書いてマックスを支える仕事をしていますが、まあ少々突き抜けた曲者が揃っていて、その中に最近見習いで加入したルーカス(瀬戸康史)を語り手として、話が進んでいきます。もとはニール・サイモンの戯曲、時代背景にアメリカにおける共産主義排他などの動きを匂わせつつ、ストーリーとしてはマックスのコメディアンとしてのピークと衰退をコメディとして見せていきます。

とにかくマックス・プリンス役の小手伸也さんがすごい。実質、主役みたいなものですが、まあよく動くよく喋るでひたすら客を笑かしにかかります。小手さんが演じると、動きのコミカルさもそうですが、コメディアンとしての貫禄も含めて、いろいろな味わいを見ることができます。ぴったりなキャストだなと。途中、ズラのように髪の毛を動かすの笑えますが、あれ自分もできます(笑)そういう意味で二重に笑っていました。

ライターは、ロシア人移民のヴァル(山崎一さん)、まとめ役のケニー(浅野和之)、いつも口が悪い浮気症のミルト(吉原光夫さん)、男女同権で仕事を頑張りたい強気なキャロル(松岡茉優さん)、ハリウッドを目指すブライアン(鈴木浩介さん)、いつも仮病を繰り返すアイラ(梶原善さん)のメンバー。そこにマックスの秘書であるヘレン(青木さやかさん)がいて、オフィスはいつも賑わっています。

ルーカスは最初見習いですが、途中、オフィスでぼやを出したからおかしいヤツと認定されて採用されるとかいう笑える流れもありますが、とにかくライター陣の掛け合いがくすくす笑えるセリフの連続で、こういう部分がやはり三谷さんと思わせるところ。途中ミルトが白いスーツで出社しますが、白いスーツをマックスが大嫌いという話を聞いて、慌てる顛末などは笑いの連続です。あとは密かにライター志望なヘレンのセンスがない場面。他のライターはスラスラとお題に対する回答を出していきますが、ヘレンはさっぱり。そのずれっぷりと同時に、センスという意味が垣間見える場面です。
瀬戸康史さん、以前見た舞台はケラさんの「ドクターホフマンのサナトリウム」であのときはケラさんの世界感にピタッとハマっていましたが、今回の三谷幸喜さんの作品でも、また見事な演技。爽やかだけじゃなくて、そのストーリーの中で与えられているポジションへの対応がうまい。この作品は特に他に芸達者が多いだけに、余計に色の出し方が難しいと思うのですが、しっかりとした存在感を感じました。

こういう作品になると、個々のキャラクターのバランスが難しいのですが、今回はうまい役者さんが揃ったことから、その色分けが見事。ルーカスの爽やかさ、ミルトのキザっぷり、ヴァルの喋りの面倒くささ、ブライアンの上昇志向、ケニーの達観ぶり、キャロルのキャリア志向、アイラの発想力とこのライターの面々のバランスあってこその作品。途中からはマックスの番組は時間を90分から60分に短縮、そして最後は新しい波に時代が移り、マックスの番組は終了となります。その終了に合わせてクリスマスのお祝いをメンバーで行い、グループは解散。微妙に寂しい余韻を残しながら、終わっていきます。こういう感じも三谷さんらしい。でも最後はやっぱり小手伸也さんが全部持っていく感じですけど。

この作品、やっぱりおもしろいと感じるのは、時代や空気感が本来、全く違うこのタイミングにすっとこれを持ってきて、劇場でその空気感をなんとなく体感しながら、楽しく見ることができること。改めて演劇という「場」の強さを感じました。これ「配信」でも楽しいのかもしれませんが、この作品に関しては、個人的には「劇場」という「場」で見るからこその感じ方なのかと思いました。「非日常」を感じるときに、劇場の扉を通って着席するというある種の「儀式」ではないですが一連の流れがあればそこの、その空間への没入というのを、今回は再実感した気持ちです。

このコロナ禍の情勢下で、なかなか大変だと思います。今回の世田谷パブリックシアターも座席間にも仕切りをおいています。窮屈な感じはしますが、そういう対策がないと厳しいという現実もあります。ほんとに主催の方々の苦労はどれほどのものかと。

今回、運よくという言い方が適切かはわかりませんが、楽しい作品を見る機会ができて本当に良かったです。

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