バチクソに楽しいGRADOサウンドとNJM4558直系オペアンプの相性について
概要
筆者は常々、GRADOにはNJM4558直系の暴れた音が、本当に聴いていて気持ちいい。そう思っていた。手に入る4558直系のオペアンプを、ありったけ聴き比べたほどである。今ではNJM2043DDという4558直系のオペアンプが、特別なお気に入りとなった。
そして、4558直系のオペアンプはGRADO公式のお墨付きだったようだ。RA-1というGRADO製ヘッドホンアンプにはNJM4556という4558直系のオペアンプが使われていたのである。巷では自作すれば数千円程度の品物だとバカにする人も居たようであるが、ピュアオーディオ(自分だけの楽しみ)を金額で語るのは耳が付いていない証左だろう。実に残念である。
この記事では筆者の拙い考えを述べることとする。まだ考察中の段階であり、4558直系のオペアンプに対する問いを明確に立てて日が浅いからである。
考えが深まるごとに当記事を加筆するなり、別の記事を書くかもしれない。
GRADOに聴かないと分からない
これに尽きると筆者は思っている。
NJM4558直系のオペアンプは大変に音が暴れる印象である。この暴れが気持ちいいと言えるのがGRADOだけの可能性があるのだ。破綻しかけた境界線でチキンレースする感覚と言うのだろうか、そこに言葉にできない刺激がある。仮にそうならば、GRADO以外の再生装置での評価は全くアテにならないことになる。
なぜそう考えたのかと言うと、元々GRADOは音が暴れるからだ。そしてこの暴れる音に愉悦を感じられるのが、所謂GRADOサウンドだと筆者は思っている。ゆえにこの暴れ方を調整したいと考えて、オペアンプを聴き比べていたのである。結果的に4558直系との相性に気づいた。そういう経緯で当記事を書いている。
NJM4558「直系」
敢えてNJM4558「系統」ではなく、NJM4558「直系」と記述している意図を述べよう。それは4558を直接のベースとするオペアンプに限定したいからである。例えばNJM4580は「ベースを4558とする」ので4558直系である。対して、さらにその「4580をベースとする派生品」が登場した場合、それは4558直系ではなく、「4558系統、もしくは4580直系」。そう定義したいわけだ。つまり回路設計における「直接のベースとなったオペアンプ」を見て、その直系であると定義しているのである。仮に4580をベースにしたオペアンプがあるならば、ベースのさらにベースにあたる4558とはかけ離れてしまい、もう4558直系の定義に含めたくないのだ。
言い換えるならば、集積回路上の極一部の部品の差し替えで回路定数のみを僅かにズラす程度の変化を直系と定義したい。その観点からすると4580は4558直系の中でも極端な部類だ。そのため、筆者としては4580は4558直系ではなく、殆どオリジナルブランドだと思っている。
理由は不明。だが替えが利かない
前述の「GRADOで聴かないと分からない」と全く同じである。
NJM4558直系のオペアンプを使うと、比翼連理の関係だと評したいほどに、GRADOの「気持ちいい暴れ方」と噛み合うのである。
聴けば、楽しい、楽しい、楽しい
悩んでもいても意味がないので、実際にNJM4558直系のオペアンプをありったけ手に入れて、実際に聴き比べてみた。
再生環境は以下である。
入力:iMac(2011mid,27inch)※ジョブズ存命時代の高音質DA変換回路搭載
アナログアンプ:FX-AUDIO PH-A1J(パワー段ディスクリート構成)←前段のオペアンプを差し替えた。
ヘッドホン:GRADO SR80e
音源:SPOTFY,iTunes
この再生環境において、最も気持ちよく音が暴れてくれるのは【NJM2043DD】であった。特筆すべきは4558直系では異例となる高音のクリアさ、唯一クラシックが聴ける適度にフラットなバランスである。
【NJM4558DD】
最も遠慮なく音が暴れる。
オーディオオペアンプの歴史において、最も初期に実用化された汎用品。
そのため「設計者のエゴが介在しない」とでも評したいような、どんな用途でも、聴き疲れせずに、それでいてしっかりと楽しめる音に感じる。
NJM2043DDを聴いてよくよく分かったが、4558直系はどれも高音の鳴りが暴れすぎて輪郭が消失している。その点2043は直系として「残して欲しい色」を乗せつつ、高音に芯があり、クラシックを楽しめる程度にフラットであった。
皆様、ガラスの靴を履く準備はできていて?
【NJM2043DD】
「GRADOとは比翼連理の関係」と評したが、決して言葉負けしていない。それほど底が観えない。聴き込むほどに愉悦が広がるのだ。まだまだ聞き込み続けたい。ゆえに評価は暫定中の暫定である。
前述の通り、唯一クラシックを聴けるほどにフラットでありながら、高音が4558直系として機能しているようだ。聴くまでは4558直系でありながら高音がどう鳴るのか想像できなかった。後述の4580の様な諦観に陥るのかと思ってもいた。ちゃんと高音が締り、GRADOらしく深みのある暴れ方をして、それでいてクラシックまで聴ける程度にフラットなバランスなのだ。こんな万能型が目の前に現れるとは、4558直系を血眼になって買い漁っていた時は思いもしなかった。
ジャンルを問わず。聴けば、楽しい、楽しい、楽しい。
【NJM4580DD】
まず言い切ってしまうが、筆者はこのオペアンプを失敗作だと断じている。それは4580系統はオーディオとして行き詰まっていると見切りをつけたからだ。卑近な言い方をすれば、GRADOサウンドとは犬猿の中である。
音は非常にまろやかで暴れない。そう暴れない。諦観である。4558は大変に暴れるオペアンプなのだ。そしてそれがGRADOには最高だった。それなのに、暴れさせないことに舵を切るとは、筆者がこのオペアンプをNJM4558直系とは呼びたくない気持ち、多少は伝わるだろうか?
嫋やかさより汗臭さが欲しいときもある。
【NJM4556DD】
【NJM4562DD】
【NJM4565DD】
【NJM2068DD】
上述の4つのオペアンプは手元にはあるが、2043に出会ってしまったために、禄に聴き込めていない。その予定も今のところはない。強いていうならば、2068は2043より大人しすぎたかもしれない。敢えて2043を差し置いて選ぶことは恐らくないだろう。極短時間のプレビューとして、4562は2068とは異なるベクトルで2043の味が強い印象だ。2068よりは4562の方が、2043とは似た傾向でありながら、明確に異なる楽しみが見いだせるかもしれない。ちなみに件の2043は4558直系一族の中で最も低雑音・最も高価なオペアンプである。そして4562は2043の廉価版とも前身と言えるプリアンプ向け低雑音シリーズの下位グレード品である。PH-A1Jはパワー段をディスクリート回路で構成されているので、いわゆるプリ部をオペアンプが担当することになる。その構成上、プリアンプ向けオペアンプとの相性が頗る良いということかもしれない。特筆すべき点として2043は4558直系で唯一無二の高音の突き刺し方をしてくる。こう、なんというか刃が線ではなく点なのだ。ザクザク!ではなくツプツプと極細針が痛覚を刺激せずに刺してくるのである。楽曲再生では殆ど意識できないが、アニメなどでは女性声優の声が面白いほど上記の通りの実在感を持つ。一聴する機会があれば聴いてみて欲しい。2043・2063では、強いて言うなら低音が一歩引くことでよりフラットなバランスが出るのかもしれないし、それに加えてさらに高音が洗練されているのかもしれない。さらに補足するならば、2063は2043よりも低音が強調されて4558直系に先祖返りしてる気がする。
【MUSES8820】
初見ツルツル。2043を少し聴き込んだ後に聴くと「あれ?これはこれでいいか」となる。
いい音は人を寛容にする。
コツとしてボリューム位置を捻って音を暴れさせてやるといい。
4558ではなく2043との比較で観ると、2043でこうなるところが、なんでこうなるんだ?という体験がゴロゴロ出てくる。
2043から2068では行き過ぎ。2043から8820の間にあるのは2068ではなさそう。
初見のツルツルサウンドは何だったのだろうか?今は暴れさせ方を身に着けた?
4558系統のミッシングリンクが在りそう。いきなり8820を聴いても立ち位置がよく分からないと思う。4558からとは言わずとも、4580ではなく2043ぐらいは聴いてから8820を聴いた方がいいのではないだろうか。傾向としては4580よりも2043の高音の刺さりをツルツルにして、その他何か意図が読めない違いがある。
流れとしては4558→2043→8820の方が、4558→4580→8820よりも近い。強いて言うなら4558→4580→4558→2043→4580→8820だと思う。
あとやたらドーパミンが出るので額がムズムズする。倍音が凄まじいのだろう。
確かに2043にはできないことができるようだ。初回の酷評は耳がおかしかったのだろう。2043を聴き込んで評価を改めたので、やはり知識=音である。
おふざけが足りてる本気のNJM4580。芸術としての完成度は8820。GRADOサウンドとしてのウキウキとした楽しさは2043。
なぜかアニメでは2043とは異なり、不快な刺さり方をする。ウザい方の刺さり方である。
どうも、2043は高音のキワの出し方の塩梅が頗る楽しいようだ。爽やか系柑橘系の金属的な微熱感である。自分のための席を用意されている感じがする。人肌の熱狂?
それと8820はあくまで2043との比較として、音のレイヤー分けが殆ど一体成型である。2043はそこが異なる。
総じて2043は柑橘系のスッキリ感が常時漂っている。爽やかな汗である。それも屋内型スポーツだろう。砂埃は舞わないのだ。
何よりも、何よりもだ。一度だけいつかの日に聴いたことがある曲でも2043でまた聴くと、もう楽しくて仕方ない。比較優位で語るのは好ましいとは言えないが、8820との決定的な差異はそこにある。8820は良く知る曲を聴いた時に、その差異にほう…となるだけなのだ。まさに芸術的な突き詰め方である。
以上から、筆者にとってのピュアオーディオ(個人的な楽しみ)としては2043に軍配を挙げたいと思う。
何が凄いって、SPOTIFYのマイプレイリストの中に、入れたものの聴いても楽しくない曲がゴロゴロ眠っているとする。別に珍しくはないでしょう?ところが2043では、今まで避けていた曲に順番が回って来ても、楽しくて仕方ないのである。これは本当に、本当である。自分でもここに記述してその意味を図りかねている。これは実は凄いことなのではないだろうか?
きっと、いい音と楽しい音は違うのだろう。2043は楽しくて仕方ない音である。GRADOもきっと楽しい音だろう。PH-A1Jが選んだ個性は楽しい音である。つまりただの必然性である。
【NJM5532DD】
NE5532の所謂OEM。というシナリオだったな……?
明らかにNE5532ではない色が付いている。
具体的にはNJM4580系。ロックもいけるNJM4580だと思えばそうなる。
逆にロックが苦手になったNE5532とも言える。
傑作というのは日々の生活そのものである。
【NJM2114DD】
NE5532をNJMの型番で知られる新日本無線が改良したオペアンプ。
新日本無線の狂気が詰まっているといっても過言ではない。
NE5532とNJM4580を混ぜれば傑作でしょ!
はいドーン!音の団子三兄弟!やたらと前に出てくる団子に食い倒れ不可避。
この記事の再生環境ではあらゆる機器がウォーム系のサウンド傾向を付加する。そしてNJM2114DDの特色は「音がやたら前に出てくる」「音がやたら団子になる」と総じて押しが強い。つまりこのオペアンプはウォーム系なのである。さらにだ、GRADOはGRADOサウンドという呼称が確立するほどの超ウォーム系である。もう察して欲しい。まだあるぞ、使用アンプのPH-A1Jはパワー段がディスクリート構成の超々パワー型の音作りである。
驚異のウォームサウンド三銃士であらゆる楽曲はハッピーエンドを迎えた……
もはや聴いているのは音ではない。笑顔である。
終わりに
当記事はここで終わりである。
アナログオーディオとは、GRADOサウンドとは、ピュアオーディオとは、とにかく聴いてみる姿勢が重要なのだろう。
件のGRADO純正ヘッドホンアンプRA-1に関してであるが、NJM4556を使用しているのであれば、数千円程度の部品価格でもGRADOサウンドは楽しめるのだろう。それほどにNJM4558直系とGRADOは比翼連理の関係である。筆者は今はそう思っている。(ぼったくりではないとは言っていない)
ちなみに直近に書いた記事もオーディオ関係である。
GRADOサウンドとオペアンプの系統別の聴き方について言及している。
オーディオにおける楽しみに気づくたびに加筆しているので非常に雑多なテーマになっている。
(下記リンク参照)
オーディオは順番であり自己紹介である。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?