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6月後半に読んだ本

7月になった。梅雨が明けない。昔「D.Gray-man」を読んで、アニタさんが師匠は雨が好きだと言っているシーンを読んだとき、雨が好きになれたらいいな、と思った。けど雨の日は、服やカバンが濡れるし、セットした髪もすぐへたってしまう。面倒が多くて、いまだに好きになれないでいる。早く梅雨、明けないかな。

「仮病の見抜きかた」國松淳和、金原出版株式会社

どこかで「この本は芥川賞レベルだ!」って言ってて、そんなにすごいのか、とずっと気になっていた🐰

でもよくよく考えたら、芥川賞とったような作品とか触れてこなかったからその辺よくわかんなかった。しかも医療関係者でもなんでもないし、詳しい病気のこともよくわかんなかった。

けど!おもしろかった!!!

仮病は奥が深いというか、複雑というか、根が深いんだなーと思った。確かに、仮病は病気ではないのだろう。でも症状として出ている以上、患者本人にとって病気とかそうじゃないとかどうでもよくて、ほんとうのことなんだよなー、と。

各章ごとに詩がついてて、個人的にはそこもツボだった。「BLEACH」のポエムが好きだった人は気に入るんじゃないかと。

「この夏のこともどうせ忘れる」深沢仁、ポプラ文庫

もうすぐ夏だなーと思い、再読。「生き残り」と「夏の直線」がよかったとメモを残していた昨年の私。「生き残り」はなんとなく覚えてたけど、「夏の直線」のほうはタイトルだけじゃ、さっぱり。忘れちゃうね。

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「夏の直線」は、主人公・羽白と少年・アオ、そして羽白の父のお話。羽白は父の別荘で夏の一週間を過ごすことに決め、そこで父と知り合いだというアオと出会う。アオは体中にひどい火傷の跡があるそうで、自分の顔を絶対に見ようとしないで、と羽白に約束させる。見ないでって言われると見たくなるのが心理だ。どこか昔ばなしみたいな話。

この話の好きなところは、どうだったのかが曖昧なところ。夢か現かわからなくなる。本当にアオはいたのか、今まで読んできた物語は現実だったのか。読み進めていくと眩暈がする。(物語の時点で本当もくそもないかもしれん)

ごっこ遊びって、それが嘘だとしても、本当としてやるからおもしろいんだそう。水たまりを海だと見立てるから、想像が広がり、物語が生まれる。たぶん、そういう感じのことが書かれてるんじゃないかなあ。

羽白の父は、「言ってることの八割が出まかせ」だったそう。じゃあ羽白の父は「嘘つき」なのだろうか。そうあったらおもしろい、というのはちょっとした願いみたいなものではないだろうか。真実が全てを救うとは限らない。どんな時でも正しいとも限らない。きっと父が生きていくためには物語が必要だったんだろうなあ。

羽白は、だんだんと父の物語もアオに出会ったことも忘れいってしまうのかもしれない。でも、時々思い出してくれたら。なんて。

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「生き残り」は、梨奈ちゃんというめちゃめちゃかわいい子が主人公。高校最後の夏に、「生き残り」というあだ名がつけられている篠くんと恋をするお話。

「俺やっぱ、向いてないから。市井ならほかにいくらでもいるだろう。この夏のことはさ、俺がいつか、ろくでもない大人になったとしても思い返せる、最高に綺麗な思い出みたいもんだから。なんかそういうの一個くらい欲しかったから、市井にはめちゃくちゃ感謝してるんだ、本当に。楽しかったよ。俺、やりたいこととかあんまないからさ。市井が次から次に思いついて、それに付き合うの、楽しかった」pp.225-226

篠くんは家庭に問題があった。だから卒業後は「どっか」に行くのだと。梨奈は「私も連れってって」とお願いする。でも篠くんに、梨奈とのことは「最高に綺麗な思い出」だと言われてしまう。「いつかただの思い出になるって、本気でそう思ってるの」と梨奈は怒るけど、「なるよ。そのうち薄れてくし、忘れたっていい」と篠くんは返す。

ふたりの間にある現実は、高校生のふたりにはどうしようもない類のものだと思う。梨奈が望んだとおり2人で「どっか」に行っても恐らくやっていけない。だから篠くんの言うことが正しいだろう。とてつもなく切ない。

ここではないどこか、を望むのは「真夜中のクロニクル」(凪良ゆう著)の陽光とニーナを思い出した。ふたりもどうしようもない現実から逃れようと、ここではないどこか、に行こうとする。けれど、結局どこにも行けなかった。

大人になると、つらい現実やどうしようもないことについて、心を鈍くしたり、誤魔化すことができるようになる。でも彼ら(彼女ら)はそれをしないし、たぶんできないのだろう。真っすぐさに涙が止まらなかった。大人になるっていったいなんだろう

梨奈ちゃんは、東京へ行って、たぶん明るく楽しい生活を送ると私も思う。篠くんとの恋愛も「綺麗な思い出」にして、あの時は若かったとか言いながら、そのうちだんだんと忘れていくのかもしれない。それでも、あの時はあれが自分にとっての本当だったと、ふと思い出してくれればいいな、なんてね。

昔読んだ漫画でも、負けたことさえあいつらは綺麗な思い出にしちまうのさ、みたいなセリフがあってそれを思い出した。戸愚呂弟が言ってた気がしたけど、どうやら違うみたいで、結局なんのマンガだったのか全然思い出せない。いろいろなものを忘れちゃうけど、残ってて思い出せるものもあるから全部なかったことになるわけではないよな、うん。

「夏の直線」と「生き残り」はどちらかと言えば、夏らしい、夏の儚さとか青春っぽさが詰まった短編。その他にも3編あって、そちらはどちらかというと夏のじとっとした感じや湿っぽさや暗さが描かれていると思う。どうせ忘れちゃうんだけど、忘れないでいてほしい、そんなお話たちがひとまとめになっている。あと装丁もすごくいい。夏らしくどれも素敵なので良ければ是非。


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