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みんなの個性を“ゆかい”に受け止める、床井くん|『ゆかいな床井くん』戸森しるこ・著  を読んで

自然に人に優しく公平に“ゆかい”に接する


 「硬筆」って知ってますか?このお話しにも登場するのですが、文字の綺麗さを競い合うコンテストで、埼玉県特有のものらしいです。
 僕は字が下手でそれがコンプレックスなのですが、「硬筆」の選手になって字を綺麗になることが、スポーツと同じようにステイタスという価値観があるのです。字が上手くなるということはもちろんいい事なのですが、普通のお墨付きをもらえるというか、ちゃんとした大人として認めてもらえるというか、世間の王道を歩ける技術を身につけるような気がするのです。逆に、字が個性的だと大人としてちょっと、、、みたいなところがないですか?

 でも、この物語の主人公の床井くんは、字をまっすぐ書けなかったり曲がってしまう子がいるように、普通からちょっと外れたり個性的だったりする人を、分け隔てなく自然に仲良くできる才能をもっています。『ゆかいな床井くん』はそんな物語なのです。
 背が大きな子、虫が好きな子、しゃべらない子、クラスにはいろんな友達がいるけど、床井くんは誰にでもやさしく、ちょっと天然だけど憎めなくて。自然に人に優しく公平に接する事ができるのです。
 それを「ゆかいな」と表現しているのがいいですよね。優しいとか平等とかまじめな感じではなく、自然に楽しく振る舞える雰囲気が「ゆかい」ですよね。

 私たちが子供の頃の昭和の時代は、でぶ、ちび、のっぽ、友達同士でこういう事を普通に言っていました。今では恥ずかしい言葉ですが、人との違いを指摘する、違いを際立たせて、馬鹿にしたり、笑ったりしていました。
 しかし、最近はこういう言葉で人を笑ったりするテレビ番組なども減ってきていますし、逆に、このような言葉を聞くと少しぎょっとします。つまりみんなの感覚も昔より現代的にアップデートされているんですよね。

 僕などは大人になっても、恥ずかしながら、今だに人との違いや、でぶ、ちび、のっぽ、などの言葉で笑ってしまう感覚は残っていると自覚します。でも、この本の主人公の床井くんは違うのです。
 特徴がある子に寄り添ったり、困った事をした子にも理由があると感じたり、友達の気持ちを考えることができるのです。違いは違いとして、その子の個性として素直に受け入れることができるのです。
 これは、大人でもなかなか難しい。自分は大人になってもそういうことができているかなと自問しました。また、今だに人との違いなどで笑ってしまう自分の古い感覚を反省しました。

みんなと同じようになる事が目標ではない

 私は自分の子供が発達障害です。それがわかってから、困った行動をする人や、間違いをよくする人にも理由があることがわかりました。逆に自分の身近に発達障害が現れるまで、相手の人の気持ちや事情を考えるということがわかっていませんでした。
 自分の家族が困りごとを抱えてから、いろいろな人と関わり、助けてもらったり、声をかけてもらったりしました。意識しなくても誰にでも公平に優しく接することができる人っているんですよね。床井くんはそういう人の一人だと思うのです。

 年賀状でいろいろな人の字を見ると、その人の個性が出ていて親近感がわくということがありますよね。全部ワープロの文字じゃやっぱりちょっとさみしい気がします。
 下手でも上手くても癖があっても、その人となりを思い浮かべて読みますよね。個性を受け入れるってそんな感じなのかなと思うのです。みんなと同じようにできる事が目標ではないのです。硬筆で字が上手くなるのも良し。でも、そうじゃなくても個性があってよし。
 床井くんは、そんな感じを人間関係においても自然にできている気がしました。
『ゆかいな床井くん』を読んで床井くんを見習うところがたくさんあり、襟を正すといういうか、大人でも学ぶところがたくさんありました。床井くんって、すごいなぁ。

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