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笹塚駅 いつでも私が舞い戻りたいまち | かにまる

お住まいはどの辺りなの、と聞かれて渋谷区ですと答えたときに一般にイメージされる「渋谷」と、愛すべき私の地元こと渋谷区笹塚には、だいぶ乖離があるように思う。
笹塚は京王線で新宿から西に1駅(5分)行ったところにある駅で、渋谷区の北西にあり、気持ち的にも距離的にも渋谷より新宿に近い。地名の由来は「このあたりに直径1mほどの笹が生い茂る塚があったから」という、何ともパッとしないものである。1mて。
近隣の新築マンション広告は誇らしげに「憧憬の渋谷区アドレス」みたいなコピーを掲げているが、そこで憧憬の念を抱かれているのは松濤とか、広尾とか、南平台あたりを指すのであって、笹塚ではないだろう。

笹塚はまず駅について言えば、5年前から準特急まで止まるようになったから5分に1本が電車が来るし、いざとなったら新宿から歩いて帰って来られるくらい都心に近いし、そのわりに朝の上り列車はそんなに混んでいないし、数は少ないが始発列車もある。
街についていえば、駅前もその周辺も結構栄えているし、チェーン店はもちろんのこと個人経営のお店もたくさんあるし、太宰治の入水自殺で有名な玉川上水(ただし、その現場は三鷹なのでもう少し上流)だってある。
良いところだ。

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なにせ20年以上住んでいたので、ここでの暮らしは私にとって完全に日常であり、「思い出」として特筆すべきビッグイベントはと言われると、これがなかなか難しい。
なので、よくある休みの一日について書くことにした。

朝:パン屋でパンを調達する

住宅街らしく、パン屋がたくさんある。駅のルパに始まり、BAKERY SASA、オパン、ボヌール、パンの田島と、それぞれに特徴があるので飽きない。
三軒茶屋出身のボヌールはミッドタウン日比谷にも店舗があり、オープン直後に行ったミッドタウン店はそれはそれはおしゃれで賑わっていたが、笹塚では普通に街のパン屋ポジションに落ち着いている。

午前中1:図書館に行く

かつて駅の南側には京王重機ビルという建物があって、低層部には年季の入った(鄙びたとも言う)看板を掲げたショッピングセンターが入っていた。そんな笹塚にも再開発の手が伸び、今やぴかぴかの駅ビルが建っている。メルクマール京王笹塚だ。
この4階に区立図書館が入っており、これがとっても便利。蔵書は多くないものの駅直結でアクセス抜群だし、平日21時までやっており、いかにも都心の図書館である(ちなみにその後住んだ千葉市の図書館は17時までしかやっていなかった)。自動貸出機が未来の技術すぎて、初めてのとき全く使い方が分からなかったのを思い出す。

なお、1〜3階までに入っているフレンテ笹塚と4階の図書館とは管轄が違うからか、3階まではエスカレーターがあるのにそこからは階段を登る必要がある。階段の天井が妙に低いのも相まって、味わい深い不便といった趣きである。

午前中2:下北へ出かける

笹塚で過ごすんじゃなかったのか、という指摘はさておき。
笹塚よりずっと知名度が高いと思われるオシャレタウン下北沢、実はかなりご近所で、歩けば20分、電車なら10分である。小学生の頃、プリクラを撮るためにわざわざ下北までチャリで行くのが「イケてる行為」として流行ったくらいだ。笹塚には当時ゲーセンはあったがプリクラは無かった。今は両方無い。
同じく代々木上原も歩いて20分。吉祥寺は電車で25分、運賃なんと178円というリーズナブルさ。東京の西側の街へのアクセスが良好なのは、笹塚の利点の一つだ。

昼:インドカレーを食べる

私はインドカレーが好きなのだが、笹塚では「店の選択肢が多すぎる」という貴族的な悩みにさいなまれる。認識しているだけでも、歩いて行ける範囲に
・ジャイヒンド
・ニューナマステインディア
・バラト
・プリヤマハル東京
・ダルヴィッシュ(これはお隣の京王新線幡ヶ谷駅の真上)
と5軒あり、どこも美味しい。

中でもお気に入りはバラトである。

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キーマたまごカレーが好物で、こればかり食べる。住宅街のビルの1階にあり、そこは私が幼い頃からアジア系料理屋がオープンしては本っ当に全く流行らず倒れていくという呪われた区画だったが、バラトはもう10年以上続いているので、ぜひこのまま頑張って欲しい。

午後:お茶を飲む

暇だしお茶でも飲みに行くか、というときに選ぶのはキャンティかmosha cafeだ。
笹塚のキャンティは、かの高名な麻布台のイタリアンレストランとは多分何の関係もないイタリア式食堂である。日本中わりと色々なところに店舗があるが、笹塚は発祥の地とのことで徒歩圏内に複数ある。メニューはどこもだいたい一緒だと思う。

mosha cafeは店主のお兄さんが一人でやっており、店内はいつでもほの暗いが、その分窓から見える緑に癒されるよいカフェだ。好物はさつまいものチーズケーキ。

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夕方1:商店街で買い物をする

駅の北側にある十号通り商店街は、今どき珍しいくらい活気がある。道幅が狭いので車が入ってこられず、その分歩行者がたくさんいるから賑わって見え、それがまた人を呼ぶのかもしれない。

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八百屋なのに朝が遅く宵っぱりな彩菜果、素朴で美味しいケーキが買えるスイーツハウス、ピザ500円という驚異のコスパを誇るHOME 笹塚など、色々なお店がぎゅぎゅっと並んでいてそぞろ歩きするだけでも楽しい道だ。
なぜか知らないが魚屋が3軒あり、どの店も固定客を抱えているようで3軒が共存している。母の贔屓は山本(サービスがよい)、父の贔屓は石川(珍しい魚がある)とえびす(時折お値打ち品がある)、私の贔屓は山本(フライがうまい)である。

夕方2:スーパーマーケットにも足を運ぶ

そういえば笹塚にはスーパーマーケットもライフ、クイーンズ伊勢丹、サミットと3軒あり、これらもまた個々に別の客層を捕まえているらしく共存している。クイーンズ伊勢丹は比較的高級志向のスーパーだが、それがやっていけているというあたり、腐っても渋谷区ということか。
クイーンズ伊勢丹が入っているのは、笹塚ショッピングモールTWENTY ONE。ネット情報によれば、1978年に「21世紀のショッピングセンター」を目標にして設立されたという。特段21世紀感がないのはあえて言うまでもないが、雑貨屋、服屋、家具屋、本屋、飲食店にスーパーと一通り揃っており、住人にとってはありがたい施設だ。

夜:街をふらつく

繁華街新宿まで一駅という立地のせいか、あるいは甲州街道がすぐ近くを通っており終日交通量が多いからか、住宅街にしては夜が遅く、結構遅くまで街に人が居る。とはいっても、なにぶん笹塚ということでイキってる雰囲気の人間が多いエリアでもないので、あまり危機感を抱かずにふらふら散歩できるのがいいところだ。
笹塚駅改札すぐ横の啓文堂書店は平日なら23時までやっているので、食後の運動をかねて出かけて、余計なものを買いがちである。

実家を出たあと、東京の東側、西側、千葉、また東側とコロコロ住まいを変えてきているが、どこに住んでも最愛の笹塚と比べてしまい、隙あらば彼の地に戻りたいと思ってやまない。
(大人なんだから戻ればいい話なのだが、会社が東京駅の方なので笹塚からはややアクセスが悪い。日々の通勤のしやすさがセンチメンタリズムに勝っている)

母は笹塚をして「渋谷区の下町」と言っている。
スクランブル交差点やパルコの渋谷とはどう見ても違うが、かといって住宅街一辺倒というわけでもなく、活気ある商店街あり、地元の祭りありで都心部とは違う賑やかさがあり、下町という呼び方はまさに的確だと感じる。
いわゆる渋谷らしいものは皆無、でもあるといいなと思うものはだいたいなんでもある。なければ1駅乗って新宿に行けばいいしな。そういう、とってもいい感じの街なのだ。

■かにまる (@uri714)
アラサーゆるゆるオフィスレディ。平成初期渋谷区生まれ渋谷区育ち。就職して一人暮らしするまで、渋谷区から長く離れたのは免許合宿くらいだが、渋谷への恐怖心が抜けないまま大人になった。今は池袋の方に住んでいる。ブログもあります→いけずのいけず(https://kanimaru8.hatenablog.com/

*このエッセイは、住んで暮らす東京の街についてのエッセイ集『あの街』第1号の収録作品です。
▼その他の作品はこちらから


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