なんしょんな_俺

『なんしょんな!俺』(5) 「ヤダモン」の思い出 / 川人憲治郎

※全て無料で読めますが、今後の活動費に当てさせて頂きますのでよろしければご購入も頂けますと嬉しいです。

 NHK総合ビジョンのプロデューサーからご指名を受け、1992年8月から舞台をNHK総合→NHK教育に変えて、『ふしぎの海のナディア』の次に、約一年間放送された帯番組『ヤダモン』を手掛けることになりました。

 一週間に一話30分を放送するTVシリーズと違い、帯番組は『忍たま乱太郎』や『おじゃる丸』のように月曜日から金曜日まで週5日間、毎日一話約10分が放送されます。帯番組の定番は一話完結が多いのですが『ヤダモン』では月曜日から金曜日までの五話で一つの話が完結するように作っていました。いわゆる朝ドラが一週間で一つの話が終わるイメージですね。まぁ朝ドラは半年間続くなかで大きな話が完結するわけですけど。

 でもこれって造り手にはなかなか厄介でして、どうしても木曜日、金曜日の週末にかけてクライマックスとなるため、週頭から週中にはあまりドラマティックな展開を持って来れないんですよ。
 自分が若い頃観ていた円谷プロの特撮番組『トリプルファイター』(1972年放送)でグリーン、レッド、オレンジの三兄妹ファイターの三人が合体してトリプルファイターになって戦うのが金曜日だけみたいになり、この作劇法って視聴者的におもしろいの?というところから制作に入っていきました。

 とは言え、途中でそのフォーマットも崩れてきて(あえて崩していったとも)一話完結だけの週があったり、第120話から最終話まではずっと続きの話だったりと手前味噌ですが良い意味でゴチャ混ぜ感満載の帯アニメになりました。自分で自分を褒めることを「手前味噌」と言いますが「手前一丁」ではダメですか、ってそれは「出前一丁」でしょうが!

 脚本は『ふしぎの海のナディア』でご一緒した梅野かおるさん。『ヤダモン』では大井みなみさんのP.Nで執筆頂きました。実はこの方、加山雄三の若大将シリーズを書かれていた田波靖男さんなんです。決して《海つながり》でナディアを書かれていたわけじゃありませんよ(笑)
 それとタック社内で『まんが日本昔ばなし』の演出助手として入社した外山くん。彼は当時まだ入社一年目ぐらいでアニメ業界経験が少ないスタッフでしたが、舞台の演出や台本も書いたことがあるとい言う話を聞いていたのと、普段の会話の中で映画の話で馬が合うので、いきなり脚本を書いてもらいました。
いま思えば無謀だったのでしょうが、結果的にはOkayでした。そう言えば「無謀と書いてX JAPANのYOSHIKIと読む」なんて格言がありましたな~。

 そんな『ヤダモン』も後半戦はすべて外山くん一人で執筆していました。実は最終回のヤダモンの長台詞はキャストオーディション時に既に出来がっていたものです。あのセリフがあり、そこに集約させるために物語の構成を立てて行きました。
そして、キラ(CV:皆口裕子)が重要なキャラクターとして登場するのですが、当時皆口さんのスケジュールがレギュラー収録日と合わなくて、別件の方がバレる(終了する)まではキラは絵として登場してもセリフを言わせないで脚本書いてね、なんて無茶なオーダーもしていました。私の無謀で無茶な要望にも外山くんは見事に答えてくれました。感謝、感謝。

キャラクターデザインのSUEZEN氏は電話で作品概要を伝えた数日後に吉祥寺のファミレス(現Round1)で直接会って打合せした際に、彼からデザインラフを見せられました。その時のヤダモンのデザインはほぼ決定稿に近いデザインでしたね。この作品は漫画連載とアニメ制作が同時進行だったためSUEZEN氏が本編に関われたのはキャラデザイン以外ではオープニング作監、エンディングイラストとラストシーンでジャンの部屋に飾っているヤダモンが描いた落書き作成でした。この落書きはヤダモンが描いた設定なもので幼稚園児的落書きとしてSUEZEN氏が利き腕と逆の手で描いてもらったのですが、それでも上手すぎて(笑)何度も描き直しもらった記憶があります。

 『ヤダモン』でも出会ったスタッフ達がその後『ジャングルの王者ターちゃん』に参加してくれました。私と同期入社のK氏がアミューズに転籍して「ジャンプ作品で川人さんがやりたいタイトルってある?」と聞かれ即座に『ジャングルの王者ターちゃん』と答えました。徳弘正也先生の作品は学生時代に『シェイプアップ 乱』にめちゃくちゃはまっていたので、『ターちゃん』はアニメーションプロデューサーとして是非やりたいタイトルでしたね。

 この作品は少年ジャンプ連載であっても下ネタが多い原作だったので(個人的にはそこが魅力なんですけどね)、テレビ局プロデューサーと考査的にどこまで許されるかを事前に話し合いました。その中でターちゃんがムササビのように飛ぶとき原作ではキ●タ●の皮を伸ばすして滑空する設定なんですが、さすがにテレビでその表現はできないのでお腹の皮を広げる設定に変更したりと、原作サイドが許す限りの変更をお願いしました。
 その後もグループ・タックでいろいろな作品をプロデュースすることになりますが、その辺りの話はもうしなくてもよかでしょう。ちぇすとっ!きばれや!ブリッ。「もれてない、もれてない」

【 川人憲治郎(かわんど けんじろう) プロフィール 】
 1961年4月1日生まれ。香川県丸亀市出身。
 株式会社グループ・タック、株式会社サテライトなどでアニメーションプロデューサーを歴任。
 ふしぎの海のナディア(1990年 - 1991年)、ヤダモン(1992年 - 1993年)、グラップラー刃牙(2001年1月 - 12月)、FAIRY TAIL(2009年 - 2013年)など、プロデュース作品多数。
 現在は、株式会社ディオメディア(http://www.diomedea.co.jp)にて制作部本部長を務める。無類の愛犬家。

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