154日目 @ヴェネツィア
イタリア・オランダ・ベルギーへの12日間旅行。
3人組、女子1人。お互い男子とも女子とも思っていないからこそ成立する組み合わせで、3人での旅行は初めてじゃないし、もう冬休みで学校をさぼっているわけではないし、寮の引っ越し期間で住むところもないし、
とまぁいろんな言葉は並べられるのだが、とにかくシンプルに日数が多い。行く場所も、イタリアだけでボローニャ・フィレンツェ・ローマ・ヴェネツィア・ミラノと続く。
途中でさすがに疲れるかな
喧嘩とかまさかしないよね
男子2人反応薄目だしな、私に厳しいし
出会って3年、素で居られて遠慮も男女関係もない完全なる友人とはいえ、女子がいた方が楽っちゃ楽よなぁ
っていうかやっぱ長いよな?!
自分たちで全部計画したくせに様々な不安が募ったまま、私はボローニャ行きの飛行機に乗り込んだ。
「私さぁ、ポケモン全然知らないんだけど、唯一見たことがある映画があるの。それの舞台が確かヴェネツィアじゃなかったっけな?」
ボローニャ・フィレンツェ・ローマと今のところ順調に進み、夜ヴェネツィアに降り立った私はふと2人に声をかけた。
その映画の名前を言うと、2人は「おぉぉぉ!そうか!あれの舞台ヴェネツィアか!!」と異様にテンションが上がった模様。
遠い記憶、まだ多分映画の内容を理解出来ていなかったくらい幼い頃。
唯一見たことがあるポケモンの映画。
水の都。
こんな街が世界にはあるんだなぁとぼんやり感動していた自分の記憶を呼び起こす。
何が心に残るかって、分からないものだ。
「いやぁまじか!見られねーじゃん!探すしかねー!!」
その後、男子2人はその映画を見たいと言い出して血眼になって探し始めた。そして海外は難しいだのWifiが弱いだので中々見られず、かれこれ2時間ほど時間をかけた。
大学生3人でポケモンのためにここまで奮闘することになるとは。
日本のアニメは偉大である。
結局その日は最初の30分しか見られず、フルで見られたのはミラノでのことである。
ただ、観光を楽しむのには最初の30分で充分だった。
水と共に生きる街、ヴェネツィア。
こんな街は他のどこでも見たことがなかった。
窓が並ぶ真下には川が流れており、20分歩けば少なくとも10は橋がある。
バス=船 で、徒歩と船でどこにでも行ける。
建物と川と船と人の共存は、穏やかで賑やかで大胆で細かい。
人の「知恵」と川の「青」が融合した不思議な景色。
「人工」と「自然」は対義語ではないらしい。
「ここさ、ピカチュウが飛び降りた橋だ」
いつもはちょっとかっこつけ気味の大学生男子が嬉しそうに呟いているのが聞こえて、思わず頬が綻んだ。
留学に来てから、狂ったように旅行をしている。
こんな世界があるんだと知るのはワクワクすることだ。
ただ、私が留学で勉強だけではなく旅行もしようと決めたのは、その好奇心だけが理由ではない。
西暦80年。途方もなく昔、私たちの想像の範囲を超える時代に人間が建てたコロッセオの迫力。
様々な苦難を超えながら、深い歴史を持ったままそこにひたすら存在し続ける、たった一枚の絵、最後の晩餐。
日本に刺激を受けたゴッホの、「ひまわり」という花で人々を魅了し続けている、その独特な個性。
何も悪いことはしていない、ただユダヤ人であるというだけで隠れて生きることを強要された少女、アンネ・フランクの素直な感覚。
そして。
ただただ「恋愛とは」を議論しながら歩いた街並み。
12日間で12食食べたパスタ。
ポケモンの映画を必死に探した夜。
さすがに日本食が恋しくなって美味しさに唸ったとんかつ定食。
私だけ一つ前の駅で降りてしまったローマ行きの電車。
サッカーの知識をひたすら教えてもらった夕飯。
男女3人の珍道中は、おもしろかった。
美術館とか段々飽きてくるし、建築物や絵もその時初めて一生懸命調べて勉強するくらい知識も薄いけど。
初めて家族とこんなに長く離れて、知らない国で生活を立ち上げて、世界中の学生と机を並べて、節約に奮闘して、たまに将来を考えて不安になったり期待をもったりする。
そういう今の感性で、世界を見ておきたい。
感性を大切にするということは、今を大切にするということだと思う。
その時の感性はその時にしかないもので、良い/悪いではない。
写真が過去であるならば、言葉が今であるように。
写真を撮って、目の前の光景を目に焼き付けて、言葉にしよう。
60年後、同じ写真を撮ったとしても、言葉は変わっているかもしれなくて、それってめちゃくちゃおもしろい。
今の感性を大切に。飛び出してみたい。
何が心に残るかって、分からないものだから。
あっという間だったと言える12日間にしてくれた男子2人に、感謝を込めて。
次、どこ行く??