あの
【Run! Run!】 すがるような気持ちでトランジットカウンターに行った私に、おばさんはただただ【走れ!】と私を急かした。「いやどっちに!!」とにもかくにも走り出した後のこの疑問は、私の焦りをより増長させた。 20歳。日本人。運動音痴。この属性の人間がヘルシンキ空港を爆走している姿は、少なくともこの空港で1年に1度くらいしか見られないのではないだろうか。周りの人々が大きくて、自分が小動物になって障害物をすり抜けて行っているような気分になる。トランジット時間が短いのはやっ
就活に、失敗した。 1社内定をとった後、格闘し続けた5ヶ月間がパーになった。 パー。っていう響きがハマりすぎて、笑えた。 高校の時からの夢だった留学をコロナウイルスの影響で中断させられ、 帰国後に発狂しそうになりながら試合から逃げなかった。 逃げない自分を誇りに思っていたし、努力は報われると本気で信じた。 最終目標にしていた企業から連絡が来なかった日。 虚しさが、壁を伝って流れてくる蒸し暑さと共に肌に沁み込んできて、 ベッドにあおむけに寝転んだ。 努力は必ずしも報わ
父が大きな手でちっちゃい何かをいじっている。真剣に指を動かしているのだが、とにかく何をしているのか分からない程小さい。 「これを超えるのは大変だぞ」と常々感じる背中をきゅっと丸めて、必死だ。そのちまちました様子がおかしくて、思わず「何してるの?」と聞いた。 「鶴折ってるの」 「鶴?」 「そう、千羽鶴」 父がいじっていたのは千羽鶴専用の小さな小さな折り紙だった。 あー。そういえば昨日言っていた。 父の職場の仲間が、急に倒れたという。 原因は脳の出血。 最悪のレベルで、この
ここに、あるダイヤモンドがあります。 そのダイヤモンドは、ある時は蹴られるかもしれない。 転がっていったところで雨にあうかもしれない。 その後砂に埋もれてしまうかもしれない。 そう、砂に埋もれて、見えなくなってしまうかも。 ーーーー 「お散歩!行くよ!」 既に私のオーラなんか空気なんかを察していたふわふわの妹は、目を輝かせてキャン!と鳴いた。 犬を散歩しているのか犬に散歩してもらっているのか分からなくなるわこりゃ。 犬の散歩だけが家を出る口実で、しかも毎日ではない。
世界が泣いてるみたいだなぁ と、窓の外を眺めて思った。私はこういう雨が嫌いじゃない。 ザーーーと、音を立ててひたすらに降りしきる雨。 中学3年生くらいだっただろうか。梅雨の時期。ザーザー音を立てて、他に何も迷いなく線を描いている世界を見て、初めて梅雨が好きだと思った。 空だって、ずっと笑顔で居たら疲れてしまう。たまには声をあげて泣きたくなるよなぁ それ以降、梅雨は嫌いだと眉間に皺を立てる友人たちの中で、私は優しい気持ちになれるようになった。 まあその代わり、小雨の時はイライ
【Run! Run!】 7か月前。私はヘルシンキ空港でこう叫ばれ、がむしゃらなスタートダッシュを切った。 中高6年間、温厚な女子校の柵の中で大切に育てられていたヒツジは、柵から出ただけでなく、まさかの海を越えてしまったのである。 そのヒツジは、あるウイルスの影響で、急遽自分の国に帰ってきた。 CAさんがマスクと手袋をしていたことと、 飛行機がガラガラに空いていたことと、 書くべき書類がいつもより2,3枚多かったことと、 検閲に1時間半並んだこと以外、通常通り無事に日本
「コロナの影響で早期帰国になってしまった…超寂しいけどしょうがないです。心残りはあるけど後悔はない!笑 帰ったら遊んでくれっ」 日本のみんなにメッセージを送ったその日、帰国日は決まっていないもののしばらくこの街に会えないのを覚悟して、コペンハーゲン中を歩き周った。 コペンハーゲンらしい曇り。新緑があちこちで芽をちょこんと出している。少しだけ花が街を彩り始めている様子に、頬が緩む。 うわぁぁ自転車でこの街爆走するのも最後かぁぁぁ 借りていた自転車を日本人の友達と返却し、デ
おーとみーる?? オートミールのお店でお昼を食べたい、と言われて私の頭の中では完全にひらがな変換である。なんじゃそりゃ。 トッピングが3つ選べるということで、訳の分からないままアップルシナモン、バナナ、キャラメルソースを選ぶ。 10分後、出てきたそれを見て、 あーなるほど。 嘔吐ミール。 見事な漢字変換。食べてみると見た目以上に美味しい。漢字変換ごめんなさい。 (後で調べてみると、Oat mealは海外の朝食でよく食べられているらしい。燕麦を脱穀して調理しやすくしたも
ん?んん??? チボリ公園入口。16時半。駅側から歩いてくる団体が自分の待っていた人たちだと気づいて、ハテナがいっぱい。 3人来ると思っていて8人居たらそれはそうである。 誰やねん! 【お待たせ!調子はどう?】 【元気元気!】 【良かった!この子は私の友達の~、イギリスから。で、この子は~、この子は~】 【やあ!】【こんにちは】【よろしくね】【あなたはどこから?】 握手をしながら挨拶を交わして、チケットを購入。こんなに明るい内に入るのは初めてかも、と期待に胸が膨らむ。
【やぁ!どうだい調子は!】 肌の白い大きな友人に話しかけられて、ペースを落とす。 ほぅ、ほぅ、 【順調だよ~はぁ】 【おっ100kcal消費!うーんだから僕はチョコを食べないんだ】 【待って私まだチョコ一つ分しか消費してないの?!】 あんぐり口をあけた私を見て彼はケラケラと笑った。 君日本に来たらめちゃくちゃ美しい人だよ。 以前、肌が白すぎるのを気にしていたデンマーク人の友人である。日本では「白いが美」だと言ったら生まれてくる国を間違えたかもしれないと言っていた。 そ
彼女の絵は、生きていた。 白い寝間着を来た少女が、こちらに背を向けてひざまずいている。 ひざまずいている方向には幼児用のベッドと大人用のベッドが並び、人は寝ているようには見えない。 黒と青が主に使われていることから、時間は夜であることが伺える。 ブロンド色の短い髪を結い、軽く俯いて両手を前に構えている小さな後ろ姿。恐らく、手を組んでいるのだろう。 少女の、儚げさ。孤独感。愛らしさ。 悲しい出来事があって祈っている少女を憂いている一枚にも見えるし、 澄み切った美しい心で何
友達をつくるのって、難しい。本当に、難しい。 小学校一年生が直面するこの問題は、大学生にとっても今だ大問題である。 1年間留学するのはほぼ日本人だけ。新学期が始まり、前学期の友達は12月にみんな自国に帰ってしまっているので、友達づくりにおいては一からやり直しという現在の状況。 しかもこの問題を複雑にしているのは、「イントロダクションウィークのイベントに参加していないこと」。 留学生は新学期の最初の一週間、ダンスをしたりクラブに行ったりコペンハーゲン散策をしたりといったイベ
イタリア・オランダ・ベルギーへの12日間旅行。 3人組、女子1人。お互い男子とも女子とも思っていないからこそ成立する組み合わせで、3人での旅行は初めてじゃないし、もう冬休みで学校をさぼっているわけではないし、寮の引っ越し期間で住むところもないし、 とまぁいろんな言葉は並べられるのだが、とにかくシンプルに日数が多い。行く場所も、イタリアだけでボローニャ・フィレンツェ・ローマ・ヴェネツィア・ミラノと続く。 途中でさすがに疲れるかな 喧嘩とかまさかしないよね 男子2人反応薄目
「えっこれ動画?」 「えへへへへそうだよ」 そういうと、スマホの中の3人はそれぞれに違う滑稽な動きをする 「あはは〜言ってよ〜」と言いながら右手を上げるちっちゃい真ん中 瞬き一つせず画面からゆっくりフェードアウトするショートヘア 2人をキョロキョロ見てから両手を開いてニヒと笑うぱっつん前髪 私の中高を彩った親友達が、デンマークに居る。 夢のようで、それだけで頬が緩む。私がここまでの留学期間、モチベーションにしていた大イベント。 片道11時間というフライト時間と大学生にはき
天才は、変人だ。 私はその偏見をオーデンセで再確認することになった。 デンマークが生んだ童話の天才、アンデルセン。 雪の女王とか、赤い靴とか、みにくいアヒルの子を書いた人。 彼の故郷が、ここ、オーデンセだ。 コペンハーゲンから約2時間弱。母と娘の小旅行。 「3月にみんなで行こうと思ってるんだけど、12月にお母さんだけ行くね~」 と言ってひゅんっと母はコペンハーゲン空港に降り立った。 国境って言葉知ってます?ってくらいひゅんっと来た。 そして、冬休みに突入した私は時
10時間図書館に籠もると、さすがに夜ご飯を作る気力が残っていなかった。レポートを書くのに、最近はずっと図書館。 私の学校の図書館は、週7日24時間営業だ。すごい。 にしてもインスタントのスープで片付けてしまったのが、なんか悔しい。 昨日は頑張ってミートソースを作ったのに!! スマホを見ながら1人でスープを飲んでいると、 ガチャッ ルームメイトの帰宅である。 【やっほー!】 【やっほ!!】 いつも通り、短い挨拶を交わす。 そうして2人とも小さな同じ部屋に居ながら自