189日目

ん?んん???

チボリ公園入口。16時半。駅側から歩いてくる団体が自分の待っていた人たちだと気づいて、ハテナがいっぱい。
3人来ると思っていて8人居たらそれはそうである。

誰やねん!

【お待たせ!調子はどう?】
【元気元気!】
【良かった!この子は私の友達の~、イギリスから。で、この子は~、この子は~】
【やあ!】【こんにちは】【よろしくね】【あなたはどこから?】

握手をしながら挨拶を交わして、チケットを購入。こんなに明るい内に入るのは初めてかも、と期待に胸が膨らむ。

靴。帽子。人形。お菓子。
絵本の中に入り込んだみたいなこの世界観が、私をいつも虜にする。
ふわふわした非現実感と輪郭のある現実感が入り混じった、不思議な場所。
形のない秩序の中で保たれている異様なバランスが、とても好きだ。
コペンハーゲンにこれから行く人へ、チボリ公園は行くべしです。

テンションの高いその集団は止まったり歩いたりを繰り返しながら進んでいく。
途中、ストーブのような場所でみんなで暖まっていると、また一人来た。
誰やねん!

【この子は俺のルームメイトの~。】
私の友達がその子をみんなに紹介して、みんな【やぁ】【やっほー】【よろしくね】と口々に声をかける。
友達が友達を呼んで計10人となったその集団は、またのんびりと動き出した。

【やっほー、どこから来たの?】
今さっき加わった子に話しかけてみる。
【ニュージーランドだよ。君は?】
【日本から!】
【おっ俺日本の友達結構知ってるよ!~とか、分かる?今その子の隣に住んでるんだけど】
【えーっ分かる分かる!待ってその寮、私が前学期住んでたとこだ】
【まじか!~ってスシレストラン行ったことある?寮の近くなんだけど】
【知らない。スシレストランなんてあるんだ?】
【おっ、今度行こうよ。美味しいのか気になってるんだよね~】
【行く行く行く!】

出会って1分2分で次の約束成立である。

ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、イギリス、オーストラリア、ナイジェリア、日本。

気づいたら色んな国の人が居た。
日本では知らない内に知らない人が輪に加わっていた、なんてあんまりなかったなぁと思う。
だけど、その「君誰やねん!」が今は最高におもしろい。

チュロスを食べて、全員で子供用のスライダーで遊んで、あのアトラクションに乗るだの乗らないだの大騒ぎして、大学生10人、コペンハーゲンのおとぎの国を満喫した。


帰り道。ナイジェリアの子が同じ寮に住んでいることが発覚して、2人で並んで歩く。

【私ね、人見知りっていうのかな。あんまり自分からどんどん交流しにいくタイプじゃなくて。】
心地よい寒さと、心地よいテンポで話す彼女。
アフリカ大陸の友人は初めてで、かなり嬉しい。

うんうん、と頷く。
【あなたにも似たようなものを感じるけど…】

うんうん。

【違うよね】

予想していなかった彼女の言葉に、ふいに心臓がきゅるりと音を立てた気がした。

違う…?


じんわりと、言葉が身体に沁み込んでいく。


そうか。私、違うんだ。


【うーん、私も実はこっちに来る前まで人見知りだったの。けど留学来てから変わったかも。友達づくりもあるし、色んな人と話すのが楽しくて】

彼女は私の言葉を聞いて目を細めた。
【すごく素敵な変化だね!】
【うん、自分としても、嬉しい】


最近、自分の「変化」を感じるようになった。
料理が出来るようになった、英語が前より話せる、専門知識が増えた、
といったスキル面もそうなのだが…

なんだろう、内面の、変わりたくてうずうずしてた部分。
例えば、初対面でも、壁がなくて気さくで明るい人になりたいと、そう思っていた。

留学に来てから始めの2,3ヶ月、自分が成長している実感がなくて焦っていたのを思い出す。

母に「確実に変わってるから安心しなさい。」と言い聞かせてもらうくらい、不安だった。

そうしながらがむしゃらに来て、189日目。
最近、嬉しい変化を感じている。

「ほら、なんでも大きく跳ぶ時にはバネみたいに力を溜める必要があるでしょ。だから溜めてる時は、分からないんだよ」

母に言われた言葉が、今になって分かり始めている。

成長していない、変わっていない。
もしかしたらそう焦っているときこそ、安心していいのかも。
未来の自分に期待して、目の前のことをがむしゃらにやってみて。

きっと、その後思いっきり、跳ぶことが出来るから。


私は今も、自分が気づいていないところでいっぱいいっぱい、エネルギーを吸収している。そう考えるのは、すごくワクワクする。


189日目2

翌日、10人の集合写真が送られてきた。
全員ものすごくいい笑顔。

何度行っても、チボリ公園は飽きない。

このおとぎの国は、次はどんな顔をしているだろうか。