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植物の茂る不思議な庭

夫の仕事先に、植物が異様に茂る庭があるという。その庭では、例えば朝食に食べたグレープフルーツのタネを庭に投げると芽吹いて立派な木に成長する。実際現場の写真を見せてもらうと、家の真ん中に屋根を貫く巨大な木が生えていた。なんの木か尋ねると杉だという。しかもその杉は一般家庭に植えられる園芸用の杉ではなくて、山に生える正真正銘の杉だった。

「クリスマスの寄せ植えを買ったら、1つだけ生き延びた木があったんだって。それを庭に植え替えたらあんなに大きくなっちゃったってわけ。」

モミの木だと思って買ったら、実は山の杉だったということか。居住者さんは「もっと別の場所に生えていたら2000年くらいは生きることができたのにねぇ」と申し訳なさそうに言っているらしい。今や杉は大きくなりすぎて、市役所から伐採のお願いが来るほどにまでなってしまっている。

「でもさ、どうしてその家だけそんなに植物が茂るの?たくさん肥料をあげているとか?」

「それが肥料はあげていないらしいんだ。周りの家は普通なんだけどこの家だけ植物も雑草も本当によく茂る。わかっていることは、居住者さんが植物をとても愛していることと、野菜クズなんかを庭に捨てていることかな。」

「野菜くずを捨てるか…それはうちの実家でもやっていたけど、庭の植物が異様に活性化するってことはなかったなぁ」

「あとなんか、木の精霊と話すみたいなことも言ってたなぁ…」

今回の夫の仕事は、先週の台風で折れたミモザの木への対処だった。強風で折れてしまったミモザは薄皮一枚で繋がっていて、まだ折れた先も生きていた。結局折れた部分を撤去するのではなく、繋がっている皮一枚からの復活を信じて活かすための処置を施したらしい。

「少しでも回復する可能性があるならそれに掛けたいってさ。本当に植物が好きなんだなぁと思ったよ」

そういえば植物は人間の足音で育つと聞いたことがある。この庭の植物たちははきっと、毎日居住者さんから目をかけ、声をかけ、手をかけてもらっているんだろうなと、なんとなく茂る理由がわかった気がした。

「そういえば、今日は仕事だったのにいつもより元気だよね」

「あそこの庭行くとなんか元気になるんだよなぁ。相性が良いっていうか…一番好きな現場かもしれない。」

植物の茂る不思議な庭は、植物だけでなく、庭師も元気がもらえる素敵な庭だった。


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