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完結「兼業小説家志望」(仮題) コラボ小説 恵理子編

前回のお話

 あちら側の人間は、「恵理子」だ。

 亀井はそう結論づけた。この小説を潰されてしまっては、みんなの命が危ない。その前に、止めないといけない。

 亀井は思い出していた。昨日、早川と話をしていた事を。
『「早川さん、正直に答えて。恵理子が殺されるとしたら、順位は何番なの?」
「残念ながら、トップです」』

 渡邊を殺す前に、恵理子を殺してしまった方が早かったのではないか、亀井はそう思った。確信があるわけではないが、とりあえず恵理子を探すしかない。

 亀井は夏野恵理子の連絡先は知らない。その為、同僚の吉井に電話をした。

「どうした?亀井。お前から連絡が来るなんて珍しいじゃないか?」
「吉井、すまん、時間が無い。恵理子さんとは、まだ付き合っているのか?」
「知っていたのか?」
「それで、恵理子さんは、今どこにいる?詮索は後だ、恵理子さんの居場所を知りたい」
「…これから、俺の家に来るところだ」
「そうか…変なことを言うようだが、恵理子さんに気を付けろ。今から、お前の家に向かう。恵理子さんが変な動きをしたら、注意しろよ!」
「亀井、お前、いったい何を…」
 吉井が話をしているが、亀井は途中で電話を切った。そして、タクシーを呼び、すぐに吉井の家に向かった。

 急いで吉井のマンションの部屋に向かい、インターホンを鳴らすが、出てこない。ドアノブを回すと、ガチャっと音がして入ることが出来た。

「吉井!俺だ、亀井だ!」
 奥から、「ああ、亀井か…」と吉井の小さな声が聞こえた。

 亀井は、リビングに入るなり、立ち止まった。リビングには、吉井と倒れている夏目恵理子の姿があった。
「吉井、恵理子さんは…」
「ああ、恵理子のことに気を付けろとお前に言われたから、注意していたんだが、後ろを向いた時に俺の首を縄で締めて殺そうとしてきた。その時、咄嗟に恵理子を後ろに押し倒したんだが、テーブルの角に頭をぶつけて、そのまま…」

「真相は、闇の中なのか…」
 亀井が放心状態で、うなだれた時に、吉井は便せんを渡した。
「恵理子が死に際に『かばん、中、見て』と言ったんだ。亀井、これを読んでくれ」

 そこには、便せん10枚にも渡る真相が描かれていた。

 真理子と恵理子の両親が殺された事件の詳細と、恵理子が今まで歩んできた辛い人生と、そして、姉の真理子を助けるために恵理子が黒幕の片棒を担がされていたことを。

「何という事だ…」
 亀井は、一家惨殺事件の詳細が「悪しからず」と全く一緒であったことに驚いた。
 そして、続きを読んだ。

 そこには、古くから渡邊から情報を貰っていたということと、知り過ぎてしまった為に、渡邊を呼び出して殺害したこと、そして、今日の予定が書かれていた。

 吉井殺害と早川殺害の詳細である。吉井殺害は、亀井を逮捕させるため、早川殺害は、「悪しからず」の拡散を防ぐためであった。
 黒幕は、「現代討論社 編集局長の上月」と、「本部長の伊香田」、そして、真の黒幕は、誰もが知っている大物政治家であった。

「早川…早川さんが、危ない!ここには、渦巻ビルに呼び出していると書かれている。今から行っても間に合わない…ここは、盗聴されているかもしれないが、電話するしかない!」
 亀井は、吉井の部屋をすぐに出て、早川に電話をかけた。

「もしもし、早川です。亀井さん、どうなされました?」
「早川さん、今どこにおられますか??渦巻ビルですか?」
「え、どうして、渦巻ビルに行くことをご存知なんですか?ええ、今、渦巻ビルの近くまで来たところです」
「良かった!渦巻ビルに入ってはいけません。人通りの多いところに居てください。理由は後でお話しますから。すぐそちらに向かいます」
 そう言って、亀井は電話を切った。恵理子のことは、吉井に任せよう。まだ、恵理子が亡くなったことに、あちら側の人間は気づいていないはずだ。
亀井は、急いでタクシーを呼び止めて、渦巻ビルに向かった。


 早川は、亀井の言われた通り、渦巻ビルの近くの人混みの中にいた。
「亀井さん、どうしたんですか?今から、人に会わなくてはいけなくて…」
「会う人というのは、恵理子さんのことですね」
「え?あ、そうです。恵理子さんから連絡をいただきまして、渦巻ビルで会うことになったんです。渡邊さんとのお話があるとのことで…。私も恵理子さんが心配だったもので」
 亀井は、ふーっと長く息を吐いた。
「もう、恵理子さんは、渦巻ビルに来ることはありません。これを、これを読んでください。恵理子さんの遺品です」
「遺品??」

 そう言って、早川は便せんを読み、そして頷いた。
「渡邊さんは、恵理子さんに…。やっぱり、そうだったのか」
「そうだったのか、ですか?」亀井は、不思議そうに早川に聞いた。
「はい。編集局長が怪しいのは分かっていました。その裏側の人間も。恵理子さんも、もしかしたら、何か理由があってあちら側の人間になっているのかも、と思っていました。その真相を聞きたかったのですが、危なかったですね。殺されちゃうところでした」
 そして、早川は苦笑いをした。渡邊といい、早川といい、本当のジャーナリストというのは、どうしてこうも神経が強いのか、亀井は驚いた。

 それに気づいたのか分からないが、早川は
「ん?私もとても怖いですよ。でも、真相に辿り着けるためには、何でもします。それが、渡邊さんに教わったジャーナリズムですよ」
 と、目を細めて言った。

「これがあれば、編集局長も本部長も、そして、その裏の黒幕も一網打尽だ。恵理子さんに会った後に会う予定だったのですが、わが社の社長に話を持っていくことが出来る」
 早川は、そう言って、亀井を乗せて高級料亭へとタクシーを走らせた。


 この事件は、日本を揺るがす大渦巻スキャンダルとなった。
 現代討論社の社長は、現代討論社の恥辱ではあるが、方々のメディアに拡散をしたことにより、大臣は辞任に追い込まれた。そして、伊香田本部長と編集局長の上月は、ともに自宅で自死した姿で発見された。
 もちろん、現代討論社の社長も辞任した。

 この一件は自死が二名となったため、逮捕者が出なかったのだが、国が起こす事件は逮捕者が出ないこともよくあることだ。

 新しく編集局長になった早川は、小説を書くことができるポジションを用意して亀井を現代討論社に迎え入れた。

 吉井は、一時期、恵理子殺害の容疑で聴収を受けていたが、「悪しからず」と恵理子の「便せん」が、世に出回ったことを受け、正当防衛の無罪判決が言い渡された。

「早川さん、今日、一杯飲みに行きましょうか?」
「真理ちゃんのお店ですね!いいですね」
「じゃあ、真理ちゃんに電話しますね」
 亀井は、そう言って真理子に電話をした。

「あー、亀ちゃん。どうしたの?」
「今日さ、ボックス席空いてる?早川さんと2人で行きたいんだけど」
「ボックス席、空いてるけど」
「空いてるけど?」

「ツケが溜まってるのよね~、亀ちゃん!!ツケを払い終わるまで、予約は禁止します!!」
「ええ~、そんなぁ~」

「悪しからず💖」

作者: 歩行者b、sanngo、理生


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