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安野モヨコインタビュー「栄養のある漫画を描きたい」

安野モヨコのnoteでは、近年の安野のインタビューや寄稿文の他、過去の出版物にも遡り、現在は発行されていない書籍や雑誌など、なかなか手に入らない媒体に掲載された文章も再掲載していきます。

今回の記事は、16年前の2005年3月に発行された「クイック・ジャパン vol.59 マンガ最前線」に掲載されたインタビューです。
2005年は、安野が「さくらん」「シュガシュガルーン」「働きマン」を同時に連載していた多忙な時期。
『漫画家・安野モヨコ』が当時三本の作品を連載しながら感じていた、社会への目線、漫画家としての役割、それぞれの作品や読者の方々に対する思いが語られています。
16年前のインタビューですので現在の安野の考えと違う部分もありますが、当時の時代背景、熱量をまるごと『ロンパースルームDX』の読者の方々に読んでいただきたく、ほぼ原文のままnoteに再掲載を致します。
(スタッフ珠)

取材・文=吉田大助

九〇年代を代表する大ヒット恋愛活劇マンガ『ハッピー・マニア』の完結後、安野モヨコが三つのマンガ誌に発表した三つの作品『さくらん』『シュガシュガルーン』『働きマン』には、〇〇年代のマンガ界とマンガ表現に対する作者の特別な思いが込められていた。
今も絶賛連載中の三作品に関する話題を中心に、マンガ界の先頭を走り続ける安野モヨコに話を聞いた──。

働く人の現実をマンガで伝えたかった

──二八歳のキャリア系女性編集者・松方弘子が主人公の『働きマン』(『モーニング』〇四年~)を読みながら、安野さんの代表作である『ハッピー・マニア』(『フィールヤング』九五〜〇一年)の主人公・重田加代子の姿を思い出しました。
シゲタは働く時間を恋する時間に当てるというか、フリーターどころかぜんぜん働いていないんですが、『働きマン』の松方は、働き過ぎて恋愛する時間がなくなっているんです。

安野 『ハッピー・マニア』を描いていた時に、主人公がああいうノリのマンガだと、作者の私もお気楽にマンガを描いていると読者の人は思っていたみたいなんだけど、実際はものすごく忙しくて、寝る間もないくらい殺伐とした生活をしていて。
しかも、ただ漫然と仕事をしているだけじゃなくて、例えばアシスタントさんにどうやったら楽しい気持ちで働いてもらえるかとか、仕事のことで毎日真剣に考えたり悩んだりしていたんです。
二八歳ぐらいって周囲の友達も仕事を任され始めた時期で、昔上司に怒られて「ふざけんな!」と思ったけど、部下に対して今まったく同じ気持ちですって話をしたり。
働いている人って職種がぜんぜん違っても、わりとみんな同じことを考えるんだなといつも感じていたんですね。
そういうことも『ハッピー・マニア』の中で描きたかったんだけど、シゲタは「仕事が続かない」というキャラでもあったので、あの話には盛り込めなかった。
だから今回は、一所懸命目の前の仕事に集中している女性を描こうと最初に決めたんです。

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安野モヨコ&庵野秀明夫婦のディープな日常を綴ったエッセイ漫画「監督不行届」の文章版である『還暦不行届』の、現在連載中のマンガ「後ハッピーマ…

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