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5月10日 ファイトの日

 18年前、私は仕事の本番直前には必ずそれを飲んでいた。とりあえず、リポビタンDを飲んでおこうと思うのだった。


「ママ!リポちょうだい」

 どういう訳だか、娘にもそれがうつったようだ。
 私は冷蔵庫に冷やしておいたリポビタンfineを渡す。娘は受け取ってすぐに蓋を開けてぐいっと飲み干した。

「ふぅ、よし!行ってきます」

 高校2年生の彼女は今日、学校一斉試験があるらしい。リポビタンを飲むのはお守りだからと笑っていた。
 栄養補給が出来るお守りってなんて素晴らしいだろう。精神的効果に加えて実際の効能も期待できるのだから一石二鳥である


「真緒、俺にもリポビタンD取って」
 娘に遅れて起きてきた夫が洗面所に向かいがてら私に言った。彼は月曜日の朝だけそれを飲む。
 私がなぜ月曜日だけなのかと聞くと、彼は新聞をひろげながら食卓につき、ぽつりと答えてくれた。

「月曜日ってさ、ほかの平日と違ってちょっと力がいるんだよね、1日を始めるのに」

 なるほどね。私は朝食を出しながら納得する。
 彼の言うことは分かる。たとえばこれが火曜日ならば今日1日頑張ろうとだけ思うところ、月曜日となると、今週も始まった、今日からまた頑張ろう、とりあえずは今日1日を頑張ろうとなる。気合いを入れるポイントが少し多いのが月曜日。

「気の持ちようかもしれないけれど、こう、後押ししてもらおうと思って」

 夫は新聞を畳み、いただきますと言って朝食を食べ始めた。

 単なる栄養補給材と思っていたけれど、それ以上に気持ちの支えになっているようである。少なくとも、我が家ではそうなのだ。

 ちなみに、夫の為に出したドリンクのパッケージを読んでみると、集中力の維持や骨の衰え回復にも効果があると記載があってなお驚く。効能・効果が幅広い。

 私の『とりあえずリポビタンD飲んでおこう』と言う気持ちや考えは間違っていなかったかもしれない。

「じゃあ行ってくるよ」

「あ、うん。じゃあ頑張ってね」

 夫を見送り、食後の後かたづけ、洗濯物干し、いつもの流れをいつものようにこなす。けれど、いつもより少しテンポアップしなくてはならない。

 久々のジャケットを着て、ヒールの少し高い靴を用意する。化粧をし、鏡の前で表情をチェックした。

「よし」

 私は今日、それこそ18年ぶりに仕事をする。
 経験ある昔の仕事とはまた違う職種ではあるが、何にせよ仕事をすること自体が久しぶりで緊張は否めない。

 おぼつかない深呼吸を繰り返し、私は玄関に向かう。

 ふと、食卓に残るリポビタンDが目に入った。
 夫に出したつもりが、彼は飲み忘れて家を出たようだ。私はそれを見つけ、手に取って大きく深呼吸をする。

 きゅっとキャップを回し、一息でごくりと飲み干した。

 これで、大丈夫。

 何年たっても、私にとってリポビタンDはやっぱり大切なお守りなのだった。その期待は18年経った今も変わらない。

「ファイト一発」

 私は小さく口に出し、新しい扉を開く。
 外は眩しく、少し暖かい。

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【今日の記念日】

5月10日 ファイトの日

1962年(昭和37年)に日本で初めてのドリンク剤「リポビタンD」が発売されてから2012年(平成24年)で50周年を迎えることを機に製造発売元の大正製薬株式会社が制定。日付は5と10でリポビタンDの合い言葉「ファイト!一発!」の「ファイト」と読む語呂合わせから。リポビタンDを飲んで疲労を回復し、元気になってもらおうという願いが込められている。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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