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4月23日 シジミの日

 昔からシジミの味噌汁が好きだ。

 あんなに小さな小さな身に、コクも旨みも栄養も豊富に詰まっているのだから素晴らしい。

「確かに、体にいいってよく聞くよね、シジミ。なんだっけ?オルニチン?」

 CMでよく聞くようなそれを言い、同僚の絹田は目の前のシジミの味噌汁を飲んだ。それを見て、私も慌てて椀を持つ。せっかくの美味しいシジミの味噌汁が冷めてしまうところだった。コクリと1つ飲んでみると、うん、やっぱり味わい深い。喉を通って行くそれが胃に落ちるまで、栄養素を体に染み渡らせていく感覚。

「よくランチで食べるの?」

「そうしたいところだけど、そうもいかなくてね」

 そうなのだ。本当ならば毎日でも食べたい。けれど、繁忙期である今月はなかなかランチにも出られず、今日だって今月初めての外食ランチであり、初のシジミの味噌汁だ。食べる機会が少ないのは私が独身であることも関係しているだろうか。

「繁忙期の今こそシジミの栄養取った方がいいんじゃないの?」

 その後には『シジミ好きのくせに』と言う言葉が隠れているようで耳が痛い。

「オルニチンって、披露の軽減もあるらしいよ。あ、あと睡眠や目覚めの改善もあるって」

「ああ、うん、まぁ、そうね」

 スマホでググってスパパ、と検索結果を彼に教えられる。おっしゃるとおり、オルニチンは素晴らしいし、それを含んでいるシジミは素晴らしい。

「外ご飯もさ、どこでシジミの味噌汁が出るか分からないんだよね。この定食屋さんは大体金曜日と月曜日がそれって知っているんだけど、他は分からないからなぁ」

 私が困ったような顔で言うと、絹田は不思議そうな顔で聞く。

「自分で作らないの?」

 そう言ってすぐ、彼女でもいいけどと言ってはいたずらに笑う。

 もうここ2年ほどは私に恋人などいないことは知っているくせにそんなことを聞くのだ。

「あいにくと、そんな時間はないんでね」

 などと格好つけてみた(格好良くはなさそうだけど)。絹田は味噌汁のシジミの身を箸で取りながら、興味がなさそうに、ふーんと言う。自分で聞いたくせに。

「冷凍しておけばいいじゃん」

「え」

 冷凍?味噌汁を?

「いや、お湯に味噌を溶く前の状態でね」

 聞くと砂抜きしたあとのシジミを保存容器に入れてそれが浸るくらいの水を入れ、そのまま蓋をして冷凍すればいいと言う。

「いやいや、貝って言っても生き物だし生物だろう。冷凍していいのか」

「大丈夫だよ。確かオルニチンも冷凍の方が増えるんじゃないかな。俺の奥さん、朝食によく出してくれてる」

 そう聞いて、ならばこの土日で仕込んでみようかと思った。冷凍のまま鍋に火をかけて味噌を溶けば良いだけなら何とか朝食にも出来るかもしれない。

「いいかも。やってみようかな」

「うん、好きなものを朝から食べられるとその日1日テンション上がるよね」

 絹田は笑う。

 好きな味噌汁を、好きな人に作ってもらう朝はさぞ格別だろうなと思う。

 シジミの味噌汁を毎朝食べると決めると共に、好きな人を見つけようとシミジミ思う32歳の春でした。

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【今日の記念日】

4月23日 シジミの日

食品として優れ、水質浄化にも役立つシジミの有用性をアピールするために、長年シジミの研究を続けてきた島根県松江市の有限会社日本シジミ研究所が制定。日付は4と23で「シジミ」と読む語呂合わせから。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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