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7月12日 育児の日

  「子供を育てるって大変なの?」

 朝食を食べていると、7歳の長女が言った。

「そうねぇ、どうかなぁ」

 なんて言いながら私は答えを濁し、頭の中をフル回転させる。


 子供を育てることが大変かと聞かれれば、答えは一つである。

 そりゃ大変だ。大変すぎる毎日である。


 何もわからない赤ちゃんに産まれてから、たとえば「子供を育てるって大変なの?」と言う質問をするようになるまでには結構な時間と気持ちがかかっている。

 7年前、おぎゃーっと元気な産声を上げて生まれてきてくれたあなた。

 あなたは夜、上手に眠れないようだった。だから私は泣き続けるあなたを抱っこして、ゆらゆらと揺れてみたり、子守歌を歌ってみたり、部屋を真っ暗にしてみたり、明るいままにしてみたりといろんなことを試した。けれどやっぱりあなたは夜に眠ることが苦手のようだった。

 ある日の夜中。その日もあなたは眠れずに泣いていた。

 私は私であなたと同じく眠ることが出来ないわけで、それなりに睡眠不足が続いていた。眠くて、時々うつらうつらとすべての騒音が聞こえなくなる静寂があった。そしてそんな時は決まって、あなたの視線に見つかるのだ。

 ぼんやりと照らす豆電球の下、あなたの黒目がそれを写しているのか、あなたの目の中に赤い点のようなものが浮かぶのだった。反して白目が黒く見え、私を静かに見つめていた。

 その都度、私にちゃんと育てられるのかと何か責められているように感じ、私は涙した。人一人を育てるのには大きくて重たい責任があると言うことが私には何故かそこで分かったのだ。

 それ以降の私の育児が正しかったのかは分からない。それは大きくなったあなたや次女が結果として決めてくれるものなのだと思う。

 今のところ、私の心配や不安など杞憂であり、あなたたち二人はすくすくと元気に育ってくれている。毎日笑って見せてくれるその笑顔で私がどれほど救われているか、あなたたちはきっと分からないだろうが、絶望が幸福に瞬時に変わるくらいの力があることをいつか教えてあげよう。

 だから、きっと、育児は大変。でもそれを大きく上回る幸せがある。


「幸せだよ」

 私は布団の中に入って彼女に答えた。すでに就寝時刻である。

「何が?」

「ほら、朝さ、聞いたでしょう?子供を育てるって大変なのかって」 

 私が言うと彼女は大げさに思い出しているような素振りを見せて、少しして首を縦に振った。

「ああ、聞いたね聞いたね」

 自分から聞いておいて忘れることは日常茶飯事であるので気にしない。

「うん、その答えね。育児は大変なのかと言うと、答えは幸せです」

 私が言うと、長女はにぃと笑う。

「パパも同じことを言っていた」

「え、そうなの?パパはいつ答えたの?」

 夫が答えていたとは知らなかった。

「朝ご飯のあと、歯磨きしているときに教えてくれたよ」

 私がほぼ一日を掛けて出した答えを彼はすぐに出していたのか。

「私を育てるの、大変なだけじゃなくてよかった。私も大きくなったら子供を育てたいな」

 そう言って口を開けて笑った可愛い可愛い彼女の上の歯は3本生え替わり中で、現在抜けている状態である。

「育児は、幸せと面白さだね」

 私はすでに眠っている次女と長女を抱きしめて、今日もまた幸せな夢を見る。

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【今日の記念日】

7月12日 育児の日

社会全体で子育てについて考え、地域が一体になって子育てしやすい環境づくりに取り組むきっかけの日にと、兵庫県神戸市の株式会社神戸新聞社が制定。日付は「育(いく=1)児(じ=2)」と読む語呂合わせから毎月12日とした。株式会社神戸新聞社は第9号「記念日文化功労賞」を受賞。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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