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5月7日 ブラックモンブランの日

 宇宙へ行こうと思ったのはついさっき、5分ほど前である。40歳の誕生日、家族に祝ってもらったその夜、1人好きなアイスを食べながらベランダで夜空を眺めていた。

 ここ1年、新型ウィルスのせいで色んな制限がかけられている。それは生活にも仕事にも、そして夢にもだ。子供と遊びに出掛けることもままならず、日々の買い物にも神経を使うようになっている。今感じているストレスは果たして仕事のそれなのか、それとも自粛によるものなのか、判断がつかない。

 仕方がないと言えば仕方がない。

 ウィルスに全ての責任や問題があるけれど、それを咎めようとすると、どこに向ければいいかわからないのだから、そりゃ仕方がない。

 仕方ないけれど、仕方ないなぁと言って我慢して我慢して生き続けて行くほど、私の残りの人生は長くない。そう気付いたのが、たった今、5分ほど前だったのである。


 ブラックモンブランと言うアイスクリームが昔から好きだ。たまにまとめて買っては数日おきに楽しみに食べるのが私の今のところの幸せの一つなわけだ。今日も今日とて、きれいな夜空を見上げながら仕事終わりに食べるブラックモンブランは美味しいなと思いながら、ハッピーバースデーを口づさんでいた。

 そこでふと、感じた。

 自分は今、とても幸せだ。

 どこに行かなくても、子供と暮らして時々ブラックモンブランを食べていればそれで十分幸せである。

 こう感じたのは確かであり、事実幸せな毎日だ。そう感じた直後、今度は妙な反抗心のようなものが生まれた。

 では、今、人生のすべてを終えることが出来るだろうか?

 あー幸せだったと、満腹で人生を終えることが出来るだろうか?

 自分の人生を振り返って、果たしてこの人生の終わりに納得が出来るものだろうかと痛烈に感じた。


 見上げれば、星星がきらめき、その数はもちろん数え切れない。その星空を見上げるのではなく、その星空に行くのはどうだろう。いつまでも眺めているだけではなく、手で触れることができるのではないか。

 そう、思った。

 すると胸の中に大きな波のような興奮が押し寄せる。

 空へ、もっと上、宇宙へ行くことを目指すか。

 こんな壮大なプロジェクトはない。達成すればきっと、自分の人生に満足し、それこそ、あー幸せだったと思えるだろう。我が人生に一片の悔いなし、である。

「まだ起きてるの?」

 水を飲みに起きた妻が声をかけてきた。私はたった今考えたことを、なんとか興奮を抑えつつ話してみることにした。

「うん、考えるだけでも楽しそうだから計画してみなよ」

「そう、考えるだけで楽しいってところがミソなんだ」

 笑ってくれる妻に私は喜びを伝える。

「まだ40歳だよ、なんだって出来るじゃない」

「おお、そう言われるとますます楽しみになってきた」

 私はやはり1人興奮しつつ、ベランダを後にした。ブラックモンブランのパッケージを片付けていると妻が言う。

「ブラックモンブランと一緒に宇宙に行ったら素敵ね」

 ちょっとほんとに計画しようかと思った40歳である。

 何歳になっても望むことは叶うと信じたい。


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【今日の記念日】

2月22日 ブラックモンブランの日

佐賀県小城市に本社を置き、アイスクリームやチョコレート菓子などを製造販売する竹下製菓株式会社が制定。2019年に発売50周年となる同社の看板商品の「ブラックモンブラン」。こだわりのバニラアイスにチョコレートとザクザク食感のクランチがコーティングされた九州で大人気のこのアイスクリームを全国に広めるのが目的。日付は「ブラックモンブラン」が初めて発売された1969年5月7日から。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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