12月2日美人証明の日
ぷっくりと丸い鼻に、小さめの一重の目、スレンダーでもダイナマイトボディーなわけでもない。
自信のない私。
「すみません。これ、データ消してなかったです。大変失礼致しました」
朝一番、私は隣の席の上司に頭を下げた。椅子の位置のせいで背中を向けられているように思えて恐縮する。なんとかその気持を抑えて、しっかりとその背中に向けて謝罪した。顔が向くのを待つ。
上司はゆっくりと私を見る。その迫力のようなすごみのようなものが、ゴゴゴゴゴと、私に襲いかかるよう。
に、感じた。
「ああ、いや全然大丈夫よ!私もいつもだったら気付いてその場で言ってあげるんだけど、ちょっと昨日はバタバタしてて。でもお客様にはお見せしない部分だったからセーフです!」
上司は歯を見せて笑い、私に言った。セーフと言われてホッとしてしまうが、ミスはミスである。
「申し訳ございません。以後気をつけます」
大丈夫だって!と快活に上司は励ましてくれる。私の憧れる、きれいで仕事の出来る女性の上司である。
せめて仕事はちゃんとしようと思っていたのに。彼女のように、客先に出て自信を持って自分を見せることが出来ないのだから、そんな容姿もないし、せめて裏方の仕事くらい。そう思って、注意して仕事をしてきたのに。
確認不足だったのか、そもそも理解が足らなかったのか。それとも……。
「関根さん、もう少しいい?」
小さめの会議室に入り、上司が座り私も着席した。やっぱりお叱りを受けるのだろうかと少し緊張してしまう。
「さっきの件はもう終わったことだから、気にしないで」
「はい、すみません」
私が頭を下げると、彼女は席を立ち、私の横に座りなおした。
「昨日お会いしたお客様があなたの資料は見やすくて綺麗だと言っていたの」
「あ、ありがとうございます」
思いがけない言葉に、少し胸が熱くなった。
「他の営業マンがあなたにちゃんと伝えているか分からないけれど、色んなお客様がそう言っていると聞いているわ」
「そうなんですか、知らなかった」
私が驚いていると彼女はポンと私の肩に手を置く。
「だからもっと自信を持っていいの」
怒られるものだと思っていたせいか、私は安堵し、急に全身が緩んだ。
「私は、見た目に自信がないんです。だからせめて仕事だけはと思ってやっていたのですが、今朝もミスをして正直ちょっと落ち込んでいました」
私が情けなく笑って言うと、彼女は驚いてみせた。
「可愛らしい顔をしているのに」
そんなことを言われ、今度は私が驚く。
「皆ね、全員美人さんなのよ。容姿だったり心の中だったり、優しさだったり、色んな美人。でもきっと一番の美人は心が柔らかくて品性のある人」
いいものがある。そう言って上司は手元の手帳から紙を出して見せてくれた。
「美人証明?」
「あなたに譲ってあげる。これで、あなたに自信のないところは無くなったわね」
いたずらに笑い、私に手渡してくれた。そして、彼女は私の鼻をチャーミングだと言った。
私も美人でいいらしい。証明がもらえると本当にそう思えてくるから不思議だ。
いっそのこと自信のある丸い鼻の美人でも目指してみようかと、顔を上げてみる。不思議と目の前が輝いて見えた。
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【今日の記念日】
12月2日 美人証明の日
栃木県足利市にある厳島神社では2006年12月2日に、御祭神の市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)の分身として美人弁天を建立。これを契機に町内で「美人弁天町おこしの会」が発足し、参拝者に心柔らかな品性ある美人であることを証明する日本で唯一の「美人証明」を発行している。心の優しい美人弁天と「美人の国・足利」をアピールしようと「美人弁天町おこしの会」が記念日を制定。日付は建立の日であり美人証明を初めて発行した日から。
記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。
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